5.甘えん坊のキミに
緋岐×紗貴
「大丈夫?」
否、大丈夫じゃないことは見れば判るのだが。
それでも聞いてしまう。これはもう人の性であろう。
案の定、返されたのは荒い吐息のみ。
「緋岐くん、お粥……作ってみたんだけど、食べれる?」
サイドテーブルにお盆を置き、傍の椅子に腰を下ろした。
瞼が震え、うっすらと開かれる。
「………無理………」
熱のせいか、声が掠れ気味だ。
「紗貴、食べさせて……」
「……はい?」
全身を駆け巡り、やっと緋岐の言わんとすることがやっと理解出来て。
顔と言わずに、全身が熱を持つのが判る。
「ひっ……緋岐くん?」
窺う様に見れば、どうやら本気らしく一向に自分で食べる気配はい。
―― 仕方……ない……
観念して、スプーンで一口分掬い、ふうっと息を掛けて冷やす。
「はい……」
「ん……うまい……」
―― 何の罰ゲーム!?
熱に浮かされている為か、妙な色気を醸し出す緋岐を、内心で目一杯罵りながら食べさせあげた後。
「よっ……よし!食べたね!薬……」
「飲ませて」
「はぁ!?」
食器を下げて戻れば、緋岐は既に横になっていて。
―― それは……
――つまり……
「口……移し……?」
音にすれば、何だか気恥ずかしくて。
だが、目の前の病人はとてもじゃないが、自分で飲める状況ではなくて。
「じっ……人口呼吸みたいなもんよ!」
誰に対する言い訳か。
意を決して薬と水を口に含み、そっと緋岐の口に宛がう。
―― コクン……
喉が鳴ったのを確認してから口を離す。
緋岐の口元から、飲み切れなかった残滓が一筋滴り落ちた。
―― 人助けっ!
自身に言い聞かせる様に何度も繰り返すが。
心臓が耳にあるのではないかと思うほど、バクバク鳴る。
「紗貴から……初めてのキス……」
―― 限界だった。
余りの恥ずかしさにいたたまれなくて、その場から逃げようとしたが。
しかし、離れようにも腕をしっかり掴まれていて。
いきなり引き寄せられる。
「お返し……」
有無を言わせぬ勢いで、再度口を塞がれたのだった。
●甘えん坊のキミに
/(c)螺旋の都
えんだあああああああッ!!
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