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お題に挑戦!  作者: 梨藍
▼事実は小説より奇なり▼(連作お題)
49/52

奇 奇妙に食い違う供述

羅夢幻想本編 第十章 読了後 推奨!!


第十章までお読みいただいてからだと、

よりお楽しみいただけるかと思います。


今回は、瑞智家で開催された「流しそうめん大会」

夏休みのとある平凡(?)な風景をお届けします!


「あいうえお作文」お題にちなんで、

 全て繋がっているお話です。


そのつながりも一緒に、お楽しみください♪


※ 単話でもお楽しみ頂けるよう心がけております♪

 気になるお話しだけでも、チラッと読んでみてくださいね☆


果たして、これをそうめん流しと呼んでいいのか甚だ疑問は残るものの、何とか巨大な虎の姿を模したそうめん流し器を完成させた面々は、次なる図画工作に取り掛かっていた。


事の発端は、璃庵の一言。


由樹がお仏間に目を向けて、飾られた鬼灯に気が付いた。


『そろそろ、お盆なんですよね……』


―― 季節の行事に疎くなって……


『そうだのう。仕事柄、難しかろうて』


なんて話を正宗としていたら、鋭がのっそり身体を起こした。もう、寛ぎ方が、我が家だ。


『精霊〇しが聴きたくなるだろうが』


鋭の容貌からはかけ離れたまさかのコメントに、えっ!?となる中、流石と言わざるを得まい、由樹は苦笑を浮かべた。


『鋭、さだ〇さし好きだよね』


まさかのカミングアウトである。


『ヘビメタじゃないのかよ!?』


叫んだ槃は、悪くない。まさかの渋さに皆驚きを隠せない中、通常運転なのは璃庵だけだった。


精霊(しょうろう)流し……翔燈(しょうとう)流しのようなものでしょうか?』


その場にいた全員が、璃庵の言葉に首を傾げた。


『……昔……天に届く様にと……故人の魂だけでも、天に還る事が出来るようにと、空に向けて特殊な紙で拵えた提灯(ちょうちん)を空に向けて放っておりましたが……』


その言葉になるほど、と頷いたのは正宗だ。


『今で言うところの、天灯(てんとう)じゃのう。あまり、日本では見掛けぬ文化じゃてなぁ』


正宗の言葉を受けて、即座にスマートフォンで検索するのは将だ。


『へぇ……キレイだなぁ……あ、コレ作れそう』


その言葉に、創作意欲に燃えている学生組が一斉に将の手元を覗き込む。


『竹はここにあるし……和紙!!書道道具の中にあるな!!!』


由貴が言えば、まさかの蕎が続ける。


『着火は……槃が得意やろ』

『おい!俺はマッチじゃないぞ!!』


打てば返る、何とも小気味の良いやり取りである。


『なんで、そこで槃だよ?』


唯一、破魔となんの関係もない敦が、至極真っ当な疑問を解決ぶつければ、由貴が慌てたように応えた。


『槃ちゃん、マジック極めたんだって!!!学年一位を争う珍獣だからな!!!』

『珍獣は、お前だよ!!!秀才って言いたかったんだろ?わかる俺もなんか残念だよ!!』


渾身の、槃のツッコミも忘れてはならない。


いくら何でも、その言い訳は苦しいのでは……という心配は杞憂に終わった。


『やっぱり、蕎とか槃とか……頭の出来が違うんだな!!』


―― 良かった!!バカ1号とバカ2号で!!!


全員の心の中(1部除く)が、完全一致した瞬間だった。


そんなこんなで、天灯作りが幕を開けたのだった。


そこに、魅惑の香りを振り撒きながら現れたのは、ご馳走が盛り付けられた大皿を抱えた桜と周だ。


「あら、なんや楽しそうやねぇ。何を作ってはんの?」


大皿をテーブルの上に置きながら尋ねれば、由貴、敦が次々に応える。


「お盆だから!!!」

「楽しそうだから!!!」

「アホちゃうか」

「それは、作ってるものじゃなくて、理由じゃねーか!!」


前言撤回、年少組は、ただコントを繰り広げただけだった。


ちなみに、凝り性の緋岐と将はそれどころでは無い。天灯作りに没頭している。


「璃庵の故郷の“翔燈流し”が、中国や台湾とかにある“天灯”に似てるねっていう話から、せっかくお盆も近いし、作り方も簡単そうだから作ろうってなったみたいですよ」


団扇で仰ぎながら、苦笑混じりに応えたのは由樹だ。


誰も、口には出さなかったが、それぞれのケジメの為でもあった。


守れなかった想いがある。

同時に、受け継いだ想いがあった。


その想いを故人に送るのは、一重に自分の為に他ならない。


「……私も、作らせてもらっていいですか?」


そう言って参戦したのは、周だ。


「もっと、強くなりたいって……強くなるって、誓いたいんです」


そんな言葉に由樹は優しい笑みを浮かべた。


「行っておいで?」


「周!こっち来いよ!!」


そう言って手招きするのは由貴だ。


応えながら、周はつっかけを履いて庭に走って行った。


参戦した周に気が付いた緋岐が、ふと気になったことがあり尋ねる。


「紗貴達は?」


「あ、……なんだか、翠琉姉様にお話しがあるとかで、部屋に行かれました」


「…………」


何となく、気になってそれまで天灯作りに勤しんでいた緋岐は、よいしょと腰を上げた。


「緋岐?」

「和紙が切れたから、紗貴にもらって来るよ」


将が呼ぶ声に、もっともらしい事を言ってから、緋岐はいそいそと勝手知ったる瑞智家の2階に上がると、翠琉の話し声が聞こえてきて、思わず耳をそばだてた。その後ろには璃庵もいる。


「……毎晩……」


そして、そこで語られた内容に血が滲むほど拳を握りしめた。


「……主……耐えてください。今出て行けば、翠琉は恐らく口を噤んでしまいます」


「……判ってる」


言いながら緋岐の肩を握る璃庵の力の強さに、冷静さを取り戻す。


―― だが……


「いいか?それは、立派な犯罪だ。尊厳を奪う行為だ……いつか、翠琉に恋人ができたら」


蘭子の言葉にカッと目を見開くと、緋岐は乱入する。そんな緋岐の姿にハーッと深い溜息を吐いた璃庵に気が付いたのは、翠琉だけだった。


「翠琉に恋人なんて!!!まだ、早い!!!!!」


気持ちは既に、父親のそれだ。そんな緋岐に残念なものを見るような視線を向けたのは紗貴と蘭子である。


「……盗み聞きも、立派な犯罪だからね?」


紗貴の言葉に、だが緋岐は怯まない。


「盗み聞きじゃない!たまたま聞こえて来ただけだ!っていうか、問題はそこじゃない!まず、翠琉は恋人の前に家族愛を嫌っていうほど受け取る義務がある!!!」


もう、何を言っているのか緋岐自身判っていないのだろう。


でも、血が滲むほど握りしめられた拳を見て、紗貴と蘭子は顔を見合わせてどちらからともなく、フッと苦笑を零した。


「はいはい。お兄ちゃん頑張って?」


「たっぷり構い倒してやれ。“兄様ウザイ”と言われるその日まで」


「そんな日は来ない!!……いや!!直ぐに、来る……筈がない!!!」


おわかり頂けるだろうか、この、複雑な兄心。


ウザイと言われることは、想像するだけで絶望する。


だが、ウザイと言えるようになるまで、人として享受すべき愛情を、優しさを受け止めて欲しい。


―― という、誰に対してのものか不明な矛盾に満ちた……


奇妙なまでに食い違う、緋岐の心の中に渦巻く供述を正しく察知した紗貴が、敢えて話題を逸らした。


「何か用事があったんじゃないの?」


「ああ、天灯っていう熱気球を作ってるんだけどさ、和紙が足りなくなって……紗貴、あるか?」


緋岐の言葉に、紗貴、蘭子、翠琉が首を傾げた……だけではなく、璃庵も不思議そうに口を開いた。


「点灯?」


そんな璃庵に顔を顰めて振り返ったのは緋岐だ。


「璃庵が、昔の風習だったって教えてくれたんだろう?」

「あ、いえ……そう、でしたね……点灯式は、本当にキレイでして」


何故か、しどろもどろに応える璃庵に緋岐は吹き出した。


「本当にどうしたんだよ?点灯式の前に、まずは飛ばす天灯作らないと、だろう?」


どうにも、話が噛み合わない。


傍から聞いていても、それは奇妙に食い違う供述としか思えない。


「そうですね……主、将達が待ちくたびれてしまいますから、早く和紙を受け取って参りましょう」


何気なく、話題が逸らされたことに気が付いたのは、紗貴と蘭子だ。だがしかし、深追いするのは野暮というものだろう。


「……お盆、近いしね」

「ああ、そうだな」


そんな小さな声での会話が聞き取れなかった緋岐が、「何か言ったか?」と尋ねても、2人は首を横に振るばかり。


「そのてんとう虫??作りとやら、私達もするわ!ね?蘭子、翠琉ちゃん!」


「……由貴と姉弟だなって感じる瞬間だな……」


しみじみ言う蘭子に「やめてよ!馬鹿と一緒にしないで」と本気で抗議の声を上げる紗貴を横目に、璃庵がそっと翠琉に手を差し伸べて微笑む。


「行きましょうか」

「あ、ああ……」


添えられた手をそっと持ち上げて、誰にも気づかれないように死角を作って、徐に唇をそっと寄せる。そして、啄むようなキスが落とされた。


「!!???」


その拍子に、翠琉の顔が真っ赤に染まる。それに満足そうに微笑むと、何事も無かったかの様に手を添えたまま促すように肩を抱いて歩くように促した。


「翠琉ッ!!???」


切羽詰まったような緋岐の声に、翠琉ははっと顔を上げる。


「どうした!?熱か!!???風邪か!!?寒くないか、痛くないか、大丈夫か!!???」


頬が真っ赤に染まった翠琉にガバッと詰め寄ると額に手を当て、自身の額を付け、大騒ぎだ。


『そうね……一緒に居て、ドキドキしたり、胸が温かくなったり……』


不意に、翠琉の脳裏に先程の紗貴の言葉が過ぎる。


その意味を自覚するのは、随分と先のことだ。



● 奇 奇妙に食い違う供述


/(c)永遠少年症候群



☆ ラブストーリーは突然に ☆


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