り りっぱな犯罪です
沙羅夢幻想本編 第十章 読了後 推奨!!
第十章までお読みいただいてからだと、
よりお楽しみいただけるかと思います。
今回は、瑞智家で開催された「流しそうめん大会」
夏休みのとある平凡(?)な風景をお届けします!
「あいうえお作文」お題にちなんで、
全て繋がっているお話です。
そのつながりも一緒に、お楽しみください♪
※ 単話でもお楽しみ頂けるよう心がけております♪
気になるお話しだけでも、チラッと読んでみてくださいね☆
場所は移って、瑞智家の台所。着々と料理が出来上がってきている。
合流した周も嬉しそうだ。
「姉様の、こんな姿が見られるだなんて……」
感無量とは、まさにこの事だろう。長い黒髪は、蘭子とお揃いの二つ結びの三つ編み……いわゆるおさげスタイルにまとめており、デコルテラインを綺麗に見せる膝下丈の、花柄シフォンワンピースを着ている。
驚きを隠せなかったのは、翠琉のお胸事情だ。サラシでぎゅうぎゅうに締め付けられていたにも関わらず、蘭子には敵わないまでも、紗貴より明らかに膨らみがあるではないか。
紗貴がちょっとだけ打ちひしがれたのは、ここだけの話だ。
今はしっかり、サイズの合った女性下着を身に付けている為、細い身体に女性らしい曲線が何とも艶かしい。
「足を人前に晒してしまった……」
だが、当の本人はというと、悔いるように、恥ずかしがるようにスカートの裾をギュッと握る。
またその行為が初々しいのだが、翠琉にしてみれば、恥ずかしくてたまったものではない。
「……確認の為、聞くけど……誰かに晒しちゃダメとか言われた?」
紗貴の言葉に、翠琉はひとつ頷くと口を開いた。
「真耶に……真耶以外には、無闇矢鱈と素肌を晒してはならない……と……。それは、恥ずべき行為だと言われました」
(出た!!出たよ、神羅 真耶!!!)
あまり故人を悪く言いたくはないが、紗貴と蘭子は若干……いや、だいぶ……かなり、ドン引く。
「……紗貴」
「うん、そうだね蘭子……」
阿吽の呼吸とはまさにこの事。以心伝心と言っても過言ではない。
名前を呼ばれた紗貴は、深く……深く頷くと、エプロンと頭に巻いていた三角巾を外す。
蘭子もそれに倣うと、桜と周に向かって言う。
「お母さん、周ちゃん……ちょっと蘭子と翠琉ちゃんと一緒に部屋行くね?」
「周、すまんが桜さんを手伝っていてくれ……」
一体、何をするつもりなのか……聞ける雰囲気では到底ない。
「は、はい……」
周は二人の気迫に押し負けて、素直に頷いた。
「翠琉ちゃん、行こうか」
ニッコリ笑って、逃げられない様にガッチリ両サイドから腕をホールドして、紗貴と蘭子は翠琉を連行して行く。
部屋に着くなり、口火を切ったのは紗貴だ。
「翠琉ちゃん……変t……神羅 真耶にされていたこと、全部、ここで吐きなさい」
翠琉を威圧しないように、翠琉を挟む形でベッドに腰掛けている。
(私は……何か、また不快な思いをさせてしまったのだろうか)
よくある事だ。今まで翠琉にとって普通だったことを話すと、皆一様に驚くか、心配する、或いは悲しそうな面持ちになる……実兄である緋岐は怒気を露わにすることも多々あった。
自分の言動が迷惑を掛けてしまっている……だが、一体いつ、何を言ったらこうなるのか皆目見当がつかず……
(やはり、私がここに居ては……)
膝の上でギュッと拳を握り締めると、ソッとその上に紗貴と蘭子が手を添える。
「あのね?翠琉ちゃんが悪いんじゃないの……翠琉ちゃんに怒ってるんじゃないのよ……」
「そうだな。聞けば聞くほど、翠琉……お前はここに居るべきだ。悪いと思うなら、好意を素直に受け取れ」
次々と声を掛けられ、だけど、翠琉はどう返したらいいのかわからなくて。
「私たちが勝手に翠琉ちゃんを心配して、勝手に怒ってるだけ。あのね?翠琉が今まで“普通だ”って思って来たことが、翠琉ちゃんを傷付けてないんだったら、私たちだって気にしないの」
―― そう……
ついつい口を出してしまうのは、それがどう考え方を変えたとしても、翠琉にとって“百害あって一利なし”の状況だからだ。
「翠琉ちゃんにとっては、私たちから言われることが嫌かもしれない。私たちのエゴで押し付けちゃってるだけなのかも……でもね?知ってしまった以上、見て見ぬふりは出来ないわ」
この、翠琉の歪んだ生活の根本にあるものは全て神羅と神羅 真耶に起因しているらしい。
だからこそ、何をさせられていたのか、何をされていたのかを知る必要があると感じたのだ。
聞かない優しさ
知らないままでいる思いやり
それもあるだろう。
だが、紗貴と蘭子は“知る”ことで“守る”事を選んだ。
「もう一度、聞くぞ?神羅 真耶に何をされた。何をさせられていた」
蘭子の言葉に促されるように翠琉が口を開いた。
翠琉の話が進めば進むほど、紗貴と蘭子は平常心を保つのに苦労した。
全て聞き終わって、紗貴と蘭子は大きく深呼吸をする。
緋岐でなくても、キレる内容だった。
「翠琉ちゃんは、異性として……一人の男性として、神羅 真耶が好きだったの?」
「異性として……?」
「そうね……一緒に居て、ドキドキしたり、胸が温かくなったり……」
「他の女と居たら、無性にムカムカしたら、それは、好きだってことだな」
紗貴と蘭子の言葉に逡巡して、翠琉は緩く首を横に振った。
「私には、存在する意味がなく……寧ろ、存在するだけで厄介なバケモノ、と呼ばれていました」
―― 唯一、人として接してくれた……
「そこに、紗貴さんや蘭子さんの仰る好意はありませんが……」
『翠琉、可哀想に……大丈夫。俺のモノである限り。俺の傍にいる限り、翠琉は“人”になれるんだよ?』
思い出すのは、そう言って恍惚な笑みを浮かべる真耶の姿。
「……私が、真耶の“モノ”である限り……“人”でいられると……」
告げられた関係は、歪なものでしかなかった。
紗貴と蘭子からすると、“人の温もり”を知らない、傷つき、怯えて、縋るものを求めている、その弱さに漬け込んだ卑劣な行為にしか思えなくて。
「いい?翠琉ちゃん……今から私が言うことを復唱して」
紗貴はベッドから腰を上げると、翠琉の前に膝立ちになって、ギュッと翠琉の両手を握り締める。
そして、真剣な面持ちで言った。
「私は、モノじゃない」
「私、は……モノじゃ、ない」
「私の身体も、心も、私のもの」
「え、それは……」
「いいから!はい!!!」
「わた、しの……身体も、心、も……私の、もの」
「むやみやたら、異性に身体を晒さない!!触らせない!!!」
「む、むやみやたら、異性に……身体を、晒さない……触らせ、ない……?」
突然の事に、しどろもどろな翠琉に、蘭子が続けて諭すように言う。
「いいか?それは、立派な犯罪だ。尊厳を奪う行為だ……いつか、翠琉に恋人ができたら」
だが、そこまでだった。ノックなしで突然勢いよく紗貴の部屋のドアが開いたのだ。そこに立っていたのは、誰でもない緋岐だ。
「翠琉に恋人なんて!!!まだ、早い!!!!!」
言いながら手にあるハリセンで壁を叩く。それはもう、まるで、そこに、翠琉の未来の恋人がいると想定しているかのように恨みを込めて。
そんな緋岐の登場に目をぱちくりしているのは翠琉だ。
紗貴と蘭子は残念なモノを見るような視線を向ける。
沈黙の後、紗貴が重い口を開いた。
「……盗み聞きも、立派な犯罪だからね?」
●り りっぱな犯罪です
/(c)永遠少年症候群
☆ 全年齢対象という言葉をガン無視して軌道修正を図る男、
それが神羅 真耶ッ!!!
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※ 若干(?)際どい表現有!!
読み飛ばして頂いても大丈夫です!




