事 事故だったの、唇がぶつかっただけの
沙羅夢幻想本編 第十章 読了後 推奨!!
第十章までお読みいただいてからだと、
よりお楽しみいただけるかと思います。
今回は、瑞智家で開催された「流しそうめん大会」
夏休みのとある平凡(?)な風景をお届けします!
「あいうえお作文」お題にちなんで、
全て繋がっているお話です。
そのつながりも一緒に、お楽しみください♪
※ 単話でもお楽しみ頂けるよう心がけております♪
気になるお話しだけでも、チラッと読んでみてくださいね☆
「よし!こんなもんかな!」
ミーンミーンと蝉が鳴く。空には入道雲が姿を現わしており、まさに季節は夏真っ盛り。
今日は、瑞智家に緋岐、将、敦、槃、そして蕎といういつもと変わらない面々でせっせかみんなで楽しく日曜大工に勤しんでいた。
それは、ひょんな一言から始まった。
「流しそうめんって、面白いよな」
瑞智家に遊びに来ていた槃が、テレビをボーッと眺めながらそう呟いたのだ。
「だってさ、普通に食べればいいのにわざわざ竹の筒繋げて、流して、それぞれどれだけ取れるか競うんだろ?ウケるわ」
それに全面的に同意を示したのが、蕎だ。
「ホンマ、なんやねん……夏に外でぎょうさん騒ぐとか、アホちゃうか」
身もふたもない感想である。
何も言わないまでも、緋岐も内心大きく頷きながら、目の前の皿に盛られたポテトチップスを食べていた。もちろん、隣に座る翠琉の口にもせっせと運ぶことは忘れていない。
「えー、でもさ……何か楽しそうじゃね?」
そう宣ったのは、元気印一号の由貴だ。すかさず同意を示したのが、元気印二号の敦だった。
「一回はやってみたいよな~」
そんな年少組の援護射撃が、まさかの方向から入った。
「いいね、せっかくみんな揃ってるし……夜、流しそうめん大会ついでに花火でもする?」
サラッと言ってのけたのは、紗貴その人だ。
「え、今から流しそうめんの道具を揃えたり、作ったりするの……大変じゃない?」
これは、将の言葉だ。ちょっとげんなりして遠慮がちに否定する。
(当たり前だ。今から竹の調達とか……どうやってするんだって話しだよ)
紗貴のことは好きだし、望むことなら叶えたいとも思う……だが、それとこれとは別だと緋岐は内心独り言ちていた……時もありました。
「どうした、翠琉?」
蘭子がテレビに釘付けになっている翠琉を覗き込むように尋ねれば、遠慮がちに、とても言い辛そうに口を開いた。
「……少し、楽しそうだな……と、思ってしまいました」
「え!!?」
ここまで清々しいほど、反応が二分することもないだろう。
由貴、敦に加えて紗貴は顔を輝かせており、対する将、槃そして蕎は絶望したように固まってしまった。
……のを、蘭子は見比べて、これから起こるであろうことを正しく予測し、フッと質の悪い笑みを浮かべた。
(ちょろいな)
目下、流しそうめんなどどうでもいい……というのが、蘭子の正直な感想だ。だがしかし、紗貴がしたいと行ったのだ。ちょっと楽しそうだなと思っていることが手に取る様に伝わってきたのだ。
それなら、蘭子の選ぶ道は一つしかない。
その中心にいるのが鴻儒兄妹なのだが。
明らかに、緋岐の目の色が変わった。
もう、将達は嫌な予感しかしない。
「流しそうめん、するぞ!!!!」
言うなり、手拭きで指を拭いた後、隣に避けていた大学ノートをバッと開くとシャープペンシルを走らせる。
「兄様、何をなさっているのですか?」
「流しそうめんの設計図だ。翠琉……少し待っててくれるか?最高の流しそうめんにしてみせるから」
老若男女を虜にするような甘い微笑みを浮かべてはいるが、手元で作られているのは、所詮流しそうめんだ。紗貴をはじめとする面々は、ちょっと残念なものを見るような眼差しを緋岐に向ける。
こうして、瑞智家の庭に、急遽流しそうめんの装置が作られることになったのだった。
決まってからは、早かった。まずは瑞智家の保護者である正宗と桜に承諾を得て、裏山に入り竹を採取して来る班。買い出しに行く班に別れて即行動を開始した。
竹を採取した面々はそのまま流しそうめんの装置を作る係になる。と、必然的に買い出し班が下準備を担当することになるため、自然と男子と女子に分かれることとなった。
現場監督よろしく、大学ノートに書いた設計図を片手に指揮を取るのは緋岐その人だ。
「親方!!ここのカーブがうまくいきません!!」
「親方!!この竹、ムンクの叫びみたいな模様があってちょっと怖いです!!」
ノリノリなのは、敦と由貴だ。
「元気だよねー……」
苦笑しながら、それでも手を止めない将に、不満たらたらなのは蕎だ。
「ホンマ、なんでやねん……」
不満を零しながらも手はしっかり動かしているあたり、満更でも無いのだろう。
「ま、やるって決まったんなら全力で楽しまないと損だしな!!」
いつの間にか乗り気になっているのが、これまた槃らしいなと将は思わず吹き出した。
「……あ、璃庵さんごめん。もうちょっと右……」
「畏まりました」
読めないのが、緋岐の式神である璃庵だ。事情を知らない敦には、緋岐と翠琉の叔父だと紹介してある。
「オーライ、オーライ……よし、そこで……」
由貴と敦に指示を出しながら後退していたら、璃庵にちょうどぶつかって……
まさかの、奇跡……否、悲劇は起きた。
紗貴を筆頭に蘭子と翠琉がお盆を抱えて姿を現わした。
「みんな、お疲れさまー。お茶休憩にしよう!」
そんな紗貴の声が聞こえてきた……だけなら良かったのだ。
「へえ、ワンピ着てる翠琉、初めて見たけど似合うじゃん!!」
(何だと!!?)
由貴の能天気な声に勢いよく振り返った緋岐は失念していたのだ。ちょうど、璃庵に背中を合わせるような体勢になっていたことに。
璃庵は璃庵で、将から頼まれて竹を固定する様に支えていたため、動くことが出来なくて。
気まずい、沈黙が訪れた。
その沈黙を破ったのは、真剣な面持ちの紗貴だ。
「……璃庵さんと緋岐くん……言うなれば、りあ×ひきってところかしら……アリね」
「りあひきとは、何ですか?」
「それはね、もう一つの萌え……幸せへの扉よ!!!」
「違うからな!!?紗貴ッ!!!変なことを翠琉に教えるな!!!!」
きょとんと見上げて来る翠琉に、紗貴は慈愛に満ちた微笑みを浮かべて、腐の道の素晴らしさを語る。その事にいち早く気が付いた緋岐が慌てるように声を荒げるが、寧ろそれは逆効果でしかなくて。
璃庵は諦めたように軽く嘆息してから同情の眼差しを主に向ける。
「大丈夫。緋岐くん……私、判ってるから」
「大丈夫じゃないし、全然わかってないッ!!!!!」
そして、緋岐は大きく息を吸い込んで大空に向かって全力で叫ぶ。
「事故だったんだ、唇がぶつかっただけだ!!!!!!!」
●事故だったの、唇がぶつかっただけの
/(c)永遠少年症候群
☆ 紗貴さんは、カップリングがだーいすき ☆
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