4.良薬は口に苦し!
鋭、香雅夜→由樹
鋭は、“ひだまりの家”に蔓延する異臭に顔をしかめた。
「何だよこの臭いは」
元凶を手繰るようにして辿り着いたのは台所。
そこにあったのは、煮えたぎる鍋を掻き混ぜる香雅夜の後ろ姿だ。
異臭のみならず、不穏な湯煙が上がっている。
――湯気なんて生易しいものではない
湯煙だ。
堪らず、鋭は香雅夜に尋ねた。
「おい。何を作ってやがる」
「あ、鋭……よし君が、お風邪を引いてしまったので……」
―― 滋養強壮のお薬を……
「よし君、一人暮らしだからお薬もないって言っていたので」
屈託のない笑みでそう言われれば、反論は出来なくて。余りの刺激臭に、鋭は思わず鼻を摘む。
香雅夜の嗅覚は最早麻痺状態で、本来の役割を果たしていないらしく平然としている。
「一体、何入れたんだ……」
―― 鋭は後に語る
『世の中、知らない方が幸せな事もある』
…………と。
「だって、良薬口に苦しって言うじゃありませんか」
「……良薬ならな。それは一歩間違えば劇薬だ」
鋭にしては珍しく、そっと心の中でエールを送る。
数時間後、この劇薬……もとい、良薬を飲まされるであろう友人に。
―― 強く生きろ
「料理……下手じゃねえ癖に、何で奇想天外なモン作るんだよ」
薬作りに夢中の香雅夜の耳に、鋭の声は届かなかった。
●良薬は口に苦し!
/(c)螺旋の都
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