3.驚くくらい大きな貴方の手
璃庵さんと翠琉の!!
このコンビが尊過ぎてッ……
創作相方 神明命と盛り上がっておりますので、
皆さまにもその滾りを共有していただきたくッ!!
たっとぶ!!!
ふと、翠琉は悪夢に魘されて目を覚ました。
辺りを見回してみると、まだ薄暗く、灯りは窓から射し込む淡い月の光だけ。
視線を隣に移すと、そこには白虎が大きな体躯を伏せるようにして目を閉じている。
(兄様の、式神だというのに……)
―― そう……
璃庵は、決して翠琉と式神契約を結んでいるわけではない。
あくまでも、翠琉の実兄である緋岐と契約を結んでいる。
なのにも係わらず、こうして悪夢に魘されて目を覚ますと、必ず隣にいてくれた。
―― 否……
緋岐からの命令ということもあるのだろう。
緋岐達が学校に行かねばならない時がほとんどではあるが、翠琉が一人になる時は、必ずと言っていいほど璃庵が寄り添うようなった。
本来ならば、主である緋岐に付き従う……傍にいるべきだというのに、自分の存在がそれを許さないのだと思うと、申し訳なくて。
だけど、隣にある温もりに安心感を覚えて……。
矛盾している自分の気持を持て余す様に、そっと隣の温もりに身体を寄せる。
『最低、6時間は寝なさい!!』
そう言って寝かしつけたのは、誰でもない緋岐だった。
翠琉にとって、昼夜問わずに祓師として駆け回ることが日常で、睡眠時間は平均3時間程度で充分だと話した時の反応だ。
『え、神羅ってブラック企業かな?』
顔を引きつらせながらそう呟いたのは将だ。残念ながら、翠琉には「ブラック企業」の意味は皆目見当も付かなかったのだが、余りいい意味ではないのだろうということは想像がついた。
何とも言えない居心地の悪さに思わず俯いて謝罪の言葉を口にすれば、ペチンと優しく額を叩かれた。
『謝らないの!悪いのは翠琉ちゃんじゃないんだから……』
『悪いと思うなら、寝ろ。寝て、朝起きて、しっかり食事を摂れ』
厳しい物言いとは裏腹に、眠れるようにと適温に冷まされたホットミルクを差し出したのは蘭子だった。
だから、言い出せなかったのだ。
(夢を、見るのが怖くて眠れない……など……)
そんな我が儘が許されるはずがない。
でも、覚えていない悪夢は、とても怖いものだった。
夜な夜な目が覚めてしまうことが判れば、また心配を掛けてしまう。
それだけは、絶対にあってはならない。
(これ以上、ご迷惑をお掛けするわけにはいかない……)
そう思って黙っていたのだが。
いつの間にか、璃庵が隣に寄り添うようになって。
(結局、ご迷惑をお掛けしてしまった……)
眠れないことも。
心配を掛けたくなくて黙っていることも。
全部、見透かされているのだろうということは、容易に想像することが出来た。それでも、何も聞かずにいてくれる。
こんな優しさもあるのだと、翠琉は初めて知った。
無意識のうちに手を伸ばしたのは璃庵の前足。
「白銀の手より、大きい……」
無理もない。白銀は白い大きな犬を彷彿させるいで立ちをしていた。
犬と虎……比べるまでもないことだ。だが、こんな些細なことを気にかける余裕など、今までなかった翠琉にしてみれば、とても新鮮な気付きで。
遠慮がちに、その大きな手に自分の手を重ねてみて、僅かに目を見開いた。
「こんなに、大きかったのか……」
思わずそう呟けば、フッと璃庵が笑うのが判って、翠琉は不服そうに見上げる。
「起きて、いたのか」
照れ隠しなのだろう。拗ねたような声音に、更に笑みを深めると、緩慢な動きで顔を上げた。
(睡眠が必要ないと、判ってるだろう?)
そんな璃庵の言葉に更に顔を顰める。それが翠琉なりの照れ隠しだと判っている璃庵は首を伸ばして自身の額で翠琉の頭を撫でる。
「触っても、いいか?」
遠慮がちにお伺いを立てて来る翠琉に苦笑を漏らしながら、「今更何を」と一言応えた。
そっと、両手で璃庵の前足を包み込む。
艶やかな毛並みの手触りも、柔らかい肉球の感触も、どれもが心地よくて。
触っているうちに、翠琉は段々と微睡む。
(ゆっくり、休め)
そんな声に誘われて沈んだ夢は、もう怖くなかった。
●驚くくらい大きな貴方の手
/(c)エソラゴト。




