1.本当に欲しいのは君だけ
璃庵さんと翠琉の!!
このコンビが尊過ぎてッ……
創作相方 神明命と盛り上がっておりますので、
皆さまにもその滾りを共有していただきたくッ!!
たっとぶ!!!
「何か、欲しいものはないか?」
―― あまり、出来ることはないが……
縁側で、のんびりと過ごしていたその時、唐突に翠琉が尋ねてきた。
今日は、学校の補習授業があったり、近所の寄合に行っていたりしていて、誰もいない。
白虎の姿で寝そべる璃庵と、その体躯にもたれかかる様に身体を寄せる翠琉は、うつらうつらと現実と夢の狭間を彷徨っていた。
『速攻で帰って来るからなッ!!璃庵、頼んだぞッ!!』
そう言いながら、緋岐が登校したのはかれこれ3時間ほど前だ。
(いきなり、どうした?)
緩慢な動作で頭をもたげると、じっと真紅の瞳で翠琉の目の奥を探る。だが、真意が見えなくて。
静寂が訪れる。
チリン、チリンと吹く風が風鈴を奏でる音が静寂に響き、遠くで蝉が夏を歌う。
なんとも心地よい沈黙を破ったのは、翠琉だった。モゾッと動いて艶やかな璃庵の毛並みに顔を埋めながら、少し気まずそうに口を開いた。
「……璃庵には、世話になってばかりだからな……本来ならば……私がいなければ、兄様のお傍に居たかっただろうに……」
―― だから、せめて何か感謝の気持を……
「どうしたらいいのか、紗貴さんに尋ねたら……贈り物をしたらいいと、助言をいただいたんだ」
だけど、判らない。
この間、緋岐、紗貴、将、そして蘭子から贈られたものが、翠琉にとっては初めてのプレゼントで。
6歳より以前の記憶がまるっと抜けている翠琉にとって、これまで贈り物は無縁の長物だった。
初めて贈られたプレゼント受け取った時、むずがゆくて、泣きたいくらい切なくて、温かい気持になった。どう、表現していいのか判らなくて言葉に詰まってしまった翠琉に、まず緋岐が言う。
『そういうのを、嬉しいっていうんだ。これから、沢山、嬉しいことが翠琉を待ってるから』
『覚悟してた方がいいよ?緋岐くん、すっごく張り切ってるから』
そんな事を言いながら、優しく翠琉の頭を撫でたのは紗貴。
『これから、ゆっくりでいいから、翠琉ちゃんの“好き”を見つけて行こうね』
微笑を浮かべながら、“これから”を教えてくれたのは将だった。
『謝罪は一切受け付けん。いいか?嬉しかったり、楽しかったりしたら、“ありがとう”……感謝を伝えろ。謝罪は受け付けんが、感謝はいくらでも受け取ってやる』
蘭子は不敵な笑みを浮かべながら、優しく翠琉の額をペチンと叩いた。
そこで、翠琉はふと思い至った。
(白銀や、水比奈に……ありがとうと、感謝の気持を伝えたことが、あっただろか……)
記憶を手繰り寄せても、そこには謝罪の言葉しかなくて。
だから、決めたのだ。せめて、今、隣に居てくれる璃庵には、謝罪ではなく感謝の気持を伝えようと。
だが、いざ伝えようとしたら、方法が判らなくて、紗貴と蘭子に、相談をしたのだった。
『きっと、ありがとうって言葉だけでも充分だと思うけど……そうだよね、何か形でも伝えたいときってあるよね』
『それなら、本人に直接聞いてしまえ。何が好きなのか、何が欲しいのか……サプライズじゃなくても、嬉しいものは嬉しいからな』
その助言に、素直に従った結果が“今”のこの状況である。
『言葉だけでも充分、嬉しいと思うよ?』
判ってはいても、いざとなったら気恥ずかしくて。こそばゆさを隠すように、ギュッと璃庵の体躯に顔を押し付けながら、ポツリと呟くように言う。
「……いつも、その……傍にいてくれて、ありがとう……」
消え入るような声だったが、璃庵の耳はしっかりとその呟きを拾った。僅かに真紅の瞳を見開いた後、そっと顔を寄せると額で翠琉の頭を撫でるようにすり寄せる。
(欲しいものは、もう貰ったから気にするな……)
尻尾でトントンと背中をあやす様に優しく数度撫でれば、間もなく規則正しい寝息が聞こえて来た。翠琉を起こさない様に気を付けながら、自身の体躯で翠琉を包み込むような体勢に座り直す。
―― やっと、隣にいることが叶った……
それは、誰にも聞かれることのなかった璃庵の本心。
―― 欲しいものは……
(本当に欲しいものは……)
続く言葉を、そっと璃庵は胸の奥深くに沈めたのだった。
●本当に欲しいのは君だけ
/(c)エソラゴト。




