2.眠るきみに秘密の愛を
緋岐×紗貴(高一:春)
ガタン……揺れるバスの振動で、緋岐はゆっくり目を覚ました。
そして、窓の外の景色を見て目を見開いた。
(しまった。寝過ごしたッ……)
バスは見知らぬ道を走っていて。
ついでに言うと、辺りはもう真っ暗だ。
ふと、肩に温もりを感じて視線を落とせば、同じく疲れたのだろう、紗貴が熟睡していて。
(楽しんで、くれたかな?)
ちょっとだけ、不安になった。
緋岐と紗貴のデートといえば、図書館に行くのが日常なのだが、それをクラスメートにダメ出しされたのが、テスト前のこと。
『ありえないから!ロマンもへったくれもないから!』
『でも、行きたいとこ聞いても“緋岐くんとならどこでもいいよ”って……』
『惚気かー!!!』
『真っ直ぐ受け取るな!!考えろよ!!!』
まさかの男子生徒たちからの非難の嵐に緋岐は顔を顰めるばかりだったのだが。
『いくらカッコよくて、勉強出来ても、それはないかも』
『時々ならいいけど、いつも??私なら耐えられない』
などなど、まさかの女子からまで苦言を呈されたのは予想外で。
(紗貴も、まさか……内心……)
そう思った瞬間、テスト明けに約束していたお出かけプランを考え始めていたのだった。
が、蓋を開けてみれば、あんまりにも外出をしていなさ過ぎて、エスコートらしいエスコートも出来ず……クレーンゲームなんて、紗貴が欲しそうに見ていた、その隣の景品が落ちる始末。
事前にチェックしていたカフェに入っても、甘いものが苦手な緋岐に遠慮してか、あんまり長居はしなかった。
映画は映画で、大人気のアクションものを見るはずが、絶妙にめんどくさいテンションで進んでいく、恋愛パートが主な青春ラブストーリーを何故か鑑賞する羽目に……後でよくよく調べてみたら、まさかの観たかった映画と題名一文字違いの同時期に上映されている映画ということが判明。評価は2.5とまあお粗末なもので。
服でも見て回ろうとしても、ここでも紗貴が遠慮して、結局古着屋に直行だった。
挙句の果てに、バスを乗り過ごすという大失態だ。
思い返せば返すほど、自分の情けなさにため息しか出ない。
「……んッ……」
モゾっと、紗貴が身じろぐ。
「ごめんな?上手にエスコート出来なくて」
謝りながら紗貴の頭を撫でると、擽ったそうに目をつぶったまま笑う。どうやら、まだ夢の中のようだ。
「楽しかったぁ……スミス、馬鹿だし。古着屋さん、緋岐くん似合ってたし」
そこで何やら思い出したのか、フフッと可笑しそうに笑いを零す。
「変なの、初めて見た」
とは、恐らくクレーンゲームの景品だろう。何ともやる気の感じられない豚っぽいネコの巨大なぬいぐるみは、今紗貴が大切な宝物の様に両手で抱き締めている。
ちなみに、スミスとは今日観た三流映画の主人公で、何と国籍は純日本人という摩訶不思議な設定だ。
そのまま、目を覚ますかと思われたが、頭を撫でらる心地良さに導かれるように、再びぐっすり眠ってしまった。
思わず顔を背けて手で覆う。
(もう、これだから……)
これだから、困るのだ。何気ないことでも、他人から見たらどんなにつまらない事であっても、紗貴は心から喜んでくれて。どんな失敗も、笑って楽しんでくれる。
バスを乗り過ごしたことも、楽しんでしまう紗貴の様子を想像するのは容易い。
何度、惚れるのか。
何度、惹かれるのか。
何度、ときめくのか……
そっと、カバンで口元を隠して溢れる想いそのまま、口付けたのだった。
きっと、これからも、募っていく愛を込めて。
END
@確かに恋だった




