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お題に挑戦!  作者: 梨藍
▼べたな展開に挑戦する5題(自宅付近編)▼(緋岐×紗貴)
27/52

3.彼の部屋でベッドの下にエロ本を探してみる

緋岐×紗貴(高一)

「もう、最低だと思わない!?」


それは、お昼ご飯をクラスメートと食べているときのことだった。

一緒に食べている友人の一人が、怒りも露わに声を荒げたのだ。


「え、どうしたの?」


紗貴が尋ねれば、待ってましたと言わんばかりに、怒りに任せて不満を吐き出した。


「ちょっと聞いてくれる?瑞智さん!!彼の部屋でテスト勉強しようってなって行ったら……エロ本があったのよ!?私っていう彼女と言うものがありながら!!!」

「はい!!?エロッ……ごほッ……」


いくら、そういった男女関係に疎い紗貴でも、エロ本は流石に知っている。だが、知ってはいても耐性は皆無で……思わず咽て咳き込んだのだが、そんなのお構いなしにまだまだ不満は続く。


「下品だ、不潔だって言ったら、「男なんだから」とか言い訳するのよ!「理想を夢見て何が悪い」って、それって私が理想じゃないってことじゃないの、失礼じゃない!?」


そこまで聞くと、不安になった。


(理想の……?)


と、そこでまた別の友人が口を開く。


「わかるわー……なんで、男子高生ってあんなに馬鹿なの?胸の大きさしか見てないし!」


(胸の、大きさ……)


一緒に昼食を食べているクラスメートのお胸事情をこっそり伺ってから、自分の胸元を見て紗貴は少なからずダメージを受けた。だが、そんな紗貴の心境に気づかない周りの女生徒は続ける。


「でも、鴻儒くんは大丈夫そうだよね。いいなあ……私も鴻儒くんみたいな完璧な彼氏欲しいなあ」

「アハハハハ」


だけど、紗貴はいつものように真っ赤になる余裕もなく、ただ乾いた笑いを浮かべることしかできなかった。



※※※※※※



「……き、紗貴?聞いてるのか?」


ハッと意識が戻って来た紗貴の視界に映ったのは、ドアップの緋岐。


「はッ……ちょ、ちかッ……」


—— 近いって……


と続くはずだった抗議の言葉ごと、緋岐に飲まれてしまった。逃げるにも、がっちりと後頭部を抑えられていて、どうにもならない。

さらりと顔にかかってくる、少し長い緋岐の髪の毛がまたくすぐったくて、身をよじるのだが、どうにも逃げられなくて。だけど、息の仕方が相変わらず判らなくて、苦しいという気持ちを込めて肩を何度も叩けば、やっと解放されたのだった。


肩で息をしながら、恨めしそうに緋岐を睨む。


「ちょ、もッ……サイテー……」


だがしかし、真っ赤になった顔に潤んだ瞳で睨まれたところで、緋岐にとっては痛くも痒くもない。余裕すら感じる笑みをうっすらと浮かべて受け流す。


「はいはい。英語のテストのやり直し、手伝ってくれって言ったの紗貴だろ?なのに、聞いてなかったから、お仕置き……」


それを言われると、紗貴は何も言い返せない。

目下、紗貴の苦手教科は英語だ。高校入って初めての抜き打ち小テストの結果に焦りを覚え、緋岐を頼ったというわけだ。


今日は水曜日。部活もない日だということも相まって、緋岐達が住んでいるアパートに直行して今に至る。ちなみに、同居人は気を利かせたらしく、今は外に出かけている。


「ま、ここまで来れば、あともう一息だから、ちょっと休憩してからしようか」


緋岐の言葉に、紗貴はローテーブルに突っ伏す。


「もう、ホント、日本人は日本語だけでいいじゃない……」


ブスッと言い放つ紗貴に苦笑しながら、緋岐は立ち上がった。


「ちょっと、コーヒー淹れて来る」


言いながら紗貴の頭をひと撫でして部屋を出て行ったのを見送って、紗貴はのそっと上体を起こした。

いつも遊びに来ている見慣れたはずの緋岐の部屋……なんとなく手持無沙汰で見まわしていた時、ふと目に付いたのがベッド。


不意に、昼間のクラスメートの言葉が脳裏をよぎる。


『彼の部屋でテスト勉強しようってなって行ったら……エロ本があったのよ!?』


もしかして……と、思わずにはいられない。


『胸の大きさしか見てないし!』


そんなことはない、と否定したいけれど、自信が持てないのは自分のお胸事情が同年代の女子に比べると、ちょっとささやかであるためだ。


(エロ本隠すのは、ベッドの下って聞いたことがある……気がする)


脳裏をよぎったそんな不届きな考えを振り払うように、首を横に振る。


—— と、その時……


「紗貴」

「ひゃっ!!!」


背後から名まえを呼ばれて、飛び上がるほど驚いた。そんな紗貴の様子に首をひねりつつ、緋岐は続ける。


「ちょっと、牛乳切らしてるみたいだから、そこまで買いに行ってくる。ちょっと待っててくれ」


その言葉に慌てたのは紗貴だ。


「え、いいよ!私もコーヒーブラックでいいし、なんなら水でも……」

「いいから。ブラック苦手なくせに何強がってるんだよ。すぐそこだから、ちょっと行ってくるな」


言い募る紗貴を遮るように、緋岐は紗貴にそう告げると、自身の部屋の扉をパタンと閉じて、出て行ってしまった。遠ざかる足音に、悪魔が紗貴にささやきかける。


いつ探すの?

今でしょ!!


『鴻儒くんは大丈夫そうだよね』


眉目秀麗

文武両道

冷静沈着


これが、概ね緋岐に対する評判だ。そんな緋岐に言い寄る女子生徒は数知れず……だったのだが、それは高校の入学式からものの2週間程度で終わりを告げた。


紗貴を前にした緋岐は、とてもじゃないが冷静沈着とは言い難い状態だったのだ。

今となっては、校内公認カップルである。


だからこそ、きっと他の男子とは違うはず……と、思いつつも紗貴は押し寄せる不安に押し負けてしまった。


「ここから最寄りのコンビニまでだったら、片道3分……往復6分。よし!!」


腹を決めたら行動に移すのは早い。

周囲の気配を伺いつつ、ベッドの下を覗き込む。


「これは、小学校の時の卒アル……これも違う……」


ベッドの下に腕を伸ばして、色々と拾っては中身を確認して戻す。だがしかし、やはり怪しいものは一向に見つからなくて。ホッと胸を撫でおろした瞬間……


「あれは……」


再度覗き込んで確認していると、奥の方に厳重にしまわれた段ボールを発見した。何とか取ろうと手を伸ばすが、あと少しのところで届かない。


上半身をベッドの下に潜り込ませて、思いっきり右手を伸ばせば、何とか届きそうで……やっと手が触れた……と、思った瞬間。


そわりと太ももを撫で上げられた。


「ひゃッ!!?」

「人の部屋で何、探してるのかな?」


顔を見なくても判る、絶対零度のその声音に、紗貴は身の危険を感じたのだが、身動きが取れない。


「ちょッ!!!スカートの中に手、入れないでッ……」


聞き入れてもらえないと判っていても叫んでしまうのは人の性だろう。案の定、知ったことかと言わんばかりに敏感なところまで明確な意思を持って撫でられれば、その柔らかい刺激に紗貴は悲鳴を上げてそのまま脱力してしまった。その隙を見逃さず、緋岐は紗貴をベッドの下から引きずり出すと、自身にもたれかからせるように、だが絶対に逃れられないように上半身をホールドしたまま、そっと耳に顔を寄せる。


「で、何を探してたんだよ?っていうか、今日なんかあっただろ?正直に話した方が身のためだぞ?」


今日、様子がおかしいことには割と早い段階で気づいていた。

最初は、それほどまでに英語の結果が悪かったのかとも思ったが、どうも違うらしいということにも既に気付いていた。


更に、ちょっと部屋を離れた隙にの、この現状だ。聴くという選択肢の他、何があるというのだろう。


紗貴は紗貴で、中々口を割ろうとしない。その様子にしびれを切らした緋岐が、実力行使に出た。再度、制服のスカートの中に左手を忍び込ませながら、右手でリボンタイを外してしまう。


「ちょちょちょ、ちょっと、緋岐くん!!?今日は、勉強をしにッ……」

「その、勉強をしに来たはずの紗貴が上の空なのが悪いんだろう?」


流石に身の危険を感じた紗貴が慌てて止めるように手を添えるが、力で緋岐に勝てるわけもなく。


「クラスメートに、聞いちゃったの!!!」


観念した方に紗貴がのたまった言葉に、緋岐はぴたりと手を止めた。


「はい?」

「エ、エロ本隠してるかもって……男子は、胸の大きさしか見てないって!!!」


まさかの爆弾発言に、今度は緋岐が固まった。


「緋岐くんに限って、まさか、エロ本隠し持ってるとは思ってなかったけど、でも、やっぱり不安になって……ほら、私……」


—— 小さいでしょ?


最後の方は、もはや聞き取れないくらい小さな声で。緋岐に背中を預けたこの体制では、どんな顔をしているのか緋岐からは見えないのだが、耳朶まで真っ赤に染まってる。


その耳朶に近づいて、そっと甘噛みすれば、ヒクリと紗貴の肩が竦められる。


「それは、俺の頑張りが足りなくて悪かったな?」

「はい?ちょっと、そんな話は……」


身の危険を感じた紗貴は、離脱しようと身体を動かすが、もう時すでに遅し。がっちり、しっかりホールドされたこの状態では、右にも左にも動けない。せめてもの抵抗で顔を緋岐の方に向けて口を開けば、案の定塞がれてしまって。


(そろそろ、学習しなさいよ私ッ……)


気付いたところで、もう後の祭りだ。キスの合間に、吐息が溶け合う距離で緋岐が囁くように言う。


「大丈夫。俺は、紗貴がいればいいし。胸は大きさじゃなくて形が重要だし、俺がいるから」


何にも大丈夫じゃない!!!!


という紗貴の叫びは、やはりというべきか、緋岐に食べられてしまったのだった。



END


@確かに恋だった

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