3.いい加減にしてください
緋岐VS.蘭子+α
「今日こそ決着をつけてやる、このヘタレ!」
「望むところだ」
何でこういう展開になったのかは、判らない。
判っていることは、何だかとっても白熱したバトルが幕を開けようとしているという目の前の真実だけ。
「あのぉ~……」
遠慮がちに、お伺いを立てるウェイトレスに紗貴は苦笑して言う。
「すみません、何だか騒がしくて……えっと……アイスコーヒーにアイスティー、カフェオレのミルク多め……トロピカルミックスジュース、お願いします」
席にさえ着かず、立ったまま両者睨み合う恋人と親友。
そしてまだ来ていない友人の好みを熟知している紗貴が勝手に注文する。
「かっ……かしこまりました」
注文を復唱するのも怖いのか。
さっさとウェイトレスは引っ込んで行ってしまった。
そんな些細な事象なんて眼中にない。
―― 目を逸らしたら負けだ!
そんな勢いの激しい睨み合いだ。
「ファミレスに睨めっこしに来たんじゃないでしょ~?課題しようよ」
無駄だと思いつつも、取りあえずそんな諌め文句を言ってみたりする。
「紗貴は黙っててくれ……私には、譲れない戦いがあるんだ!」
「そうだぞ紗貴。口は挟むな」
燃え上がる二人の闘魂を、どこか冷めた目で見ながら「はいはい」と適当な返事をする。
「勝負方法は【あっちむいてほい!三本勝負】でいいな?」
蘭子の提案に、緋岐は不敵な笑みを浮かべて頷いた。
「ああ、異論はない」
「……え?ないんだ」
思わず突っ込んだのは、蚊帳の外を決め込んだ筈の紗貴。
だが、既にバトルモードの二人には紗貴の驚きに満ちた声も届かなくて。
「ならば、いざ尋常に勝負!」
蘭子が気合いを入れて拳を上げる。
「紗貴の隣に座る権利は俺が頂く!」
緋岐も応えるように振り上げる。
「「ジャンケンポ……」」
―― 仁義なき戦いの火蓋が切って落とされたまさにその時……
「遅くなってごめん」
「あ、将くんこっちこっち!」
―― ストン……
紗貴の手招きの導くままに、将は隣に腰を下ろした。
行き場のなくなった拳を振り上げたまま、緋岐と蘭子は固まる。
意気込んでいた二人の間に、木枯らしが吹き抜けたのだった。
●いい加減にしてください
/(c)螺旋の都
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