2.傍にいてとすがる小さな手
将→香雅夜
「大事なくて良かったです」
そう微笑んで、ベッドの傍らの椅子に腰を下ろした香雅夜に、歳の頃5歳くらいだろうか。
幼い少年が申し訳なさそうに上目で姉を窺い見た。
「しんぱいかけて、ごめんなさい」
今にも泣き出しそうな少年に、香雅夜はふわりと微笑む。
「いいんですよ、将くんが無事だったんですから」
骨折した足を“無事”と呼ぶか否かはともかく。
“将くん”と呼ばれた少年は、香雅夜につられてはにかんだ笑みを浮かべた。
病院からの電話を受けた時、元気な将を見るまでは気が気ではなかった。
――事故に巻き込まれました
その一報を受けて、急いで駆け付けたものの、命に別状はなくて。
今日一日、検査入院したら明日には退院だ。
「では、今日お泊りする準備をして来ますね」
そう言って香雅夜が立ち上がった瞬間。
「あっ……」
将も無意識だった。
香雅夜の制服のスカートを握り締めていて。
「将くん?」
―― どうかしましたか?
首を傾げる香雅夜。
香雅夜の問い掛けで、改めて自分の行動を自覚し、慌てて手を離す。
「ごっ……ごめんなさい」
そんな将の心を察した香雅夜は、柔らかい笑みを浮かべて、再度椅子に腰掛けた。
「カヤ姉?」
不思議そうに自分を呼ぶ弟の頭を優しく撫でる。
「もう少し、ここに居ても良いですか?お茶煎れますね」
言ってから、インスタントの紅茶をニ人前用意して。
「紅茶を頂いたら、一旦お家に戻りますね」
そう言って結局、鋭と由樹が迎えに来るまで、香雅夜は将とたわいのない話をしていたのだった。
●傍にいてとすがる小さな手
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