3.「君の為に歌うよ!昼休み、放送回線ジャックして歌うから!」
詆歌→将
「嘘だろう?」
信じられないといった様子のクラスメートに、将はどこか遠くを見詰めた。
その瞳は、哀愁漂っている。
「これが嘘なら、どれだけ良いか」
寂寥感が込められたその言葉は、クラスメートの心に強く響く。
それだけ、将の体験が如何に壮絶だったか計り知る事が出来て。
囲う一人が、それでも信じられないといった面持ちで首を振った。
「完璧な人間なんていないんだな」
その言葉に違う一人が頷く。
「そうだな……」
“天は二物を与えず”
この言葉の持つ意味を、改めて心に刻んでいた。
「あの鴻儒が、ジャイ〇ンに勝るとも劣らない音痴だなんて!」
―― そう……
完全無欠の理想を地で行く。
同性からさえも羨望の眼差しを浴びる。
そんなパーフェクト人間だと思われていた鴻儒 緋岐の知られざる欠点。
―― 否……
正確には“緋岐の”ではなく“緋岐の兄”つまりは詆歌の欠点なのだが。
“一つの身体を共有している”
そんな奇想天外な事情を誰が納得するだろう?
故に、事情を知らない第三者には緋岐も詆歌も“鴻儒 緋岐”なのだ。
無論、クラスメートとて例外ではない。
緋岐にしてみれば、いい迷惑以外の何物でもない。
だが、将には将の言い分がある。
「もうあれは、ララバイという名のレクイエムだから!」
声を大にして主張する将。
実際の恐ろしさを知らないクラスメートは暢気なものだ。
「へえ、そりゃどんなもんか聴いてみたいもんだな」
なんて言いながら笑っている。
しかしその笑顔はすぐに引き攣った。
「人がいないと思って……随分と楽しそうじゃないか?」
全員の視線が声の主に集まる。
―― そこに居たのは……
「こっ……鴻儒……」
誰かが名を呼べば、見るもの全てを凍らせる程に凄惨な笑みを湛えた。
「……将……そんなに聞きたいのか?」
―― 俺の歌……
名指しされた将は、顔を真っ青にしたまま懸命に首を横に振るが。
「お前の為に歌ってやるよ。昼休み、放送回線ジャックして歌うから」
―― 有り難く耳をかっぽじって聴けよコラ
その日の昼休み……東森中学校を正体不明の毒電波に襲われたのだった。
真相は1年2組が知るのみである。
/(c)空をとぶ5つの方法
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