3.左手薬指は予約済み
鋭×香雅夜
「おい、いい加減泣き止め」
鋭は、濡れたハンカチを血の滲むひざ小僧に宛がわれて、思わず顔をしかめた。
「だって鋭……私のせいで……」
しゃくり上げながら、大粒の涙を零す幼馴染みに、鋭は困り果てていた。
今日の相手は6年生だった。
この頃合の子供の年齢差は大きい。
3年生の鋭にしてみれば、裕に頭二つ分は大きな相手だ。
しかも4人組で。
いちゃもん付けて来たのは向こうだった。
何を言われても、香雅夜が泣く事は滅多にない。
“大丈夫です”
いつも、そう言って笑っていて。
上級生からの嫌がらせに、我慢出来ないのは鋭ばかりだ。
―― 理不尽だ……
“何で俺ばっかり、こんなにイライラしなきゃならないんだ”
そんな不安を募らせていたのだが。
6年生を相手にした今日は、流石に無傷というわけには行かなくて。
いざ、香雅夜が泣き出すと何も出来ずにただ狼狽えるばかりだ。
「わっ……私はっ……鋭がいるから……平気なんですっ……」
―― 鋭が隣に居てくれるから、何だって耐えられるんです……
しゃくり上げながら、そう訴える香雅夜。
まさかの告白に、鋭は返す言葉を失って。
「……馬鹿じゃねーの……」
口を吐いて出たのはそんな悪態だ。
すると、香雅夜は更に泣き出して。
「すっ……すみません……私……居ると……鋭……怪我ばっかり……」
――私なんか、傍にいない方が良いですよね
一人で鋭から離れる決意を固めている。
タンマの声を上げたのは誰でもない鋭だ。
「おいコラ勝手に決めてんじゃねえぞ」
そして、乱暴に抱き寄せた。
擦りむいた傷口がヒリヒリ痛む。
そこに香雅夜の涙が零れ落ちて更に痛みは増したが。
傷の痛みは耐えられても、腕の中の温もり失う事は考えられなくて。
必死に繋ぎ留める様に抱き締めた。
「誰が、離してなんかやるかよ。お前は、ずっと俺の隣で笑ってりゃいいんだよ」
そこまで言うと少しだけ身体を離して、目に付いた黄色い花を茎ごと引き抜く。
そして、濡れた瞳で呆然と自分を見つめる香雅夜の小指に巻き付けた。
「ここ、大きくなったら本物の指輪、やるから……」
―― だから、ずっと隣で笑ってろ
●左手薬指は予約済み
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