1.震える指先
紗貴
―― しっかりしないと……
紗貴は、挑むように異形のソレを睨み付けた。
日常には存在し得ないそのバケモノ。
―― 妖と呼ばれる闇の眷属
「しっかりしろ!」
震える自身を叱咤する。
―― こいつらを倒す為に、私は今まで頑張ったんだから……
―― そう……
総ては、妖を倒す為の修行。
厳しい……そんな生半可な言葉では片付けられない程、熾烈を極めた日々。
それでも、やはり初めての実戦に竦みそうになる。
致し方ないだろう。
まだ13の年の端にも満たない子供だ。
しかも対峙する相手は、元々“ヒト”だった。
一つ大きく息を吸い込んだ。
肺を冷たい夜気で満たせば、気持ちも段々鎮まっていくのが判る。
神経が、髪の毛先まで張り詰める感覚。
風が木々を揺らす。
それが合図だった。
―― ズクッ……
肉を貫く感覚が、己れの武器を通してリアルに伝わる。
―― ギャアアァアァァアアァァ
不気味な断末魔と共に、妖は大気に溶ける様に還って行った。
紗貴は、肩で息をしながら自身の手を見下ろした。
ガクガク震える指先を、身体で抱き締める。
「……大丈夫……大丈夫……頑張れる……」
涙が零れない様に、歯を血が滲む程噛み締めた。
それは、京の都より帰って、初めて祓師としてその業を果たした時の事。
●震える指先
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