3.もどかしい心の距離
由貴→翠琉
―― まただ……
由貴は庭先で遠くを見つめる翠琉の後ろ姿を目に留め、立ち止まった。
時折、翠琉は遠く想いを馳せる様に佇む。
―― やっぱり……真耶かな……
真耶……翠琉が○○した相手の名前。
ずっと隣に在った少年
今も翠琉を囚えて離さない存在
――俺は、こんなに傍にいるのに
気付イテ
――こんなに遠い
ココニ居ルヨ
今も尚、寄り添うのは真耶なのだろうか。
まるで、今の自分達を表しているような、このもどかしい距離。
手を伸ばせば届く距離だというのに。
絶対に届かない……
――ジャリ……
「由貴……?」
何の前触れもなく振り返った翠琉。
予測していなかった声に、由貴は呆けてしまった。
「そこで何をしてるんだ?」
「翠琉こそ……」
まさか本人を目の前に“翠琉を見てた”なんて言える訳もなくて。
「そんな庭先に突っ立てたら、風邪引くよ?」
言葉を続ければ翠琉は「ああ」と頷く。
そして素直に庭先から軒先に上がって来た。
身体が触れ合う程近くにいるのに
――遠いなぁ……
ぼんやり、そんな事を思っていると、ひんやりと冷えた手が額に宛がわれてはっとする。
「すっ……翠琉……?」
「うむ、熱はないようだな」
「ちっ……近いんだけど」
由貴の動揺に、眉をしかめる。
「何だ?やはり顔が赤いな……熱があるのか?」
どうやら、元気がない理由を勘違いしたらしい。
「いや!俺、めっちゃ元気だから!」
少し大袈裟なまでに腕を曲げて見せる。
「……変な奴だな」
言いながら、翠琉は苦笑を漏らした。
苦笑とはいえ、翠琉の笑みが見れた事が嬉しくて。
――,まあ、いっか
「うん、翠琉が笑ってるなら……いいや」
「何がだ?」
不審そうに眉を寄せて問う翠琉に、慌てて首を振った。
今は笑ってくれていれば、それで良い。
―― そう……
例えば心がここに非ずとも。
●もどかしい心の距離
由貴がまさかの、ちょっとセンチメンタルだと!?
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