2.いっそ好きだと叫べたら
緋岐→紗貴
何気なく、緋岐は外を眺めていた。
隣の三組は体育の様だ。
―― あ、居た……
すぐに紗貴は見付かって。
そして、眉をひそめた。
遠目でも顔色が悪いのが判る。
―― 次の瞬間……
紗貴の身体が揺らいだかと思うと、そのまま倒れ込んだ。
―― ガタン!
グラウンドから目を逸らせないまま、勢い良く立ち上がる。
「鴻儒?」
古典の穴屋教諭が不思議そうに名を呼べば。
「先生ちょっとお腹が痛いので保健室に行って来ます!」
言うなり駆け出したのだった。
―― ガラッ!
勢い良く保健室の戸を開ける。
いきなり開いた保健室の戸に、保健医は目を見開く。
13歳という歳にしては、落ち着き払った印象を持つ少年らしからぬ言動に呆気に取られていた。
「先生、紗貴は!?」
何でクラスが違うのに知っているのか。
そんな疑問が脳裏を過ぎるも、あまりに切羽詰まった緋岐の様子に気圧されて。
「心配ないわ、ただの貧血よ」
なんて、普通に返した。
「……良かった……」
心底ホッとしたのか、脱力したようにその場にしゃがみ込む緋岐。
そんな生徒に、保健医は苦笑しながら言う。
「無事が判ったならもう良いでしょ?早く教室に戻りなさい」
丁度その保健医の言葉に緋岐が返事をしようとしたその時。
「高橋先生。お電話です。至急職員室まで来て下さい」
そんな校内アナウンスに保健医……高橋教諭は慌てて保健室から出て行く。
「いい?早く教室に戻るのよ!」
釘を刺す事は忘れなかった。
残された緋岐は、静かにベッドに近付く。
「驚かせるなよ」
しかし、そんな抗議も熟睡している紗貴には届かなくて。
「好きだよ……紗貴……」
そっと囁く様に言う。
何時もは口に出せない本当の気持ち。
相手に届ける事は疎か、面と向かって伝える事すら出来ない。
「好きだよ……」
もう一度、噛み締める様に言って。
引き寄せられるように重ねたのは……
―― 微かに触れるか触れないか
「……俺……」
―― ガバッ……
勢い良く離れる。
顔は真っ赤だ。
何も知らずに寝息を立てる紗貴が目に入って。
気恥ずかしさに耐えられず、逃げるように走り去ったのだった。
●いっそ好きだと叫べたら
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