1.早くキミの元気な笑顔を見せて
鋭×香雅夜
いつもは賑わっている“陽だまりの家”が、今日はやけに静まり返っていた。
鋭は、勝手知ったる家に無断で上がる。
そして迷わず“彼女”の眠る部屋へと入った。
薬が効いたのか、今は寝息も立てずに静かに眠っている。
起こさないように、そっとベッドの脇に腰を掛けた。
――ギシッ……
ベッドが軋む。
スプリングのきいているベッドは少し揺らいだが一向に目を覚ます様子はない。
「おい……」
少し汗で張り付いた前髪を梳きながら、鋭は語りかけた。
「お前が元気に笑ってねえと、ちび共が静かで気味悪いんだよ」
いつも笑顔の絶えない家。
その中心にいるのが香雅夜。
香雅夜が体調を崩すのは珍しい事なので、いつも当たり前の様に思っていたのだが。
「俺も……お前が隣で笑ってねえと、何か気味悪いんだよ」
中々素直にはなれなくて。
「だから……早くよくなれよな」
声を潜めてそこまで言ってから、顔を近付けた。
重なる吐息が熱い。
「……んっ……」
そんな苦しげな香雅夜の声に、鋭は一瞬手放し掛けた理性を呼び戻した。
そっと顔を離す。
だがしかし、香雅夜が目を覚ます事はなくて。
―― 次に目を覚ました時には
「元気に、笑ってろよ」
そう一言残して、部屋を後にしたのだった。
●早くキミの元気な笑顔を見せて
/(c)螺旋の都
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