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Chapter.3"Bomb speech"

「では、しばらくここで待つこととしましょう」


「……あぁ」


 今日は金曜日。明日からは二日間にわたる休養日で、なんで柊と俺は放課後に海岸に来ているのかといえば、昨日の約束が原因といえる。なんで、OKしたんだろうな、昨日の俺。そして俺は半強制的にここまで連れてこられた訳なのだが……。


「本当にあんな作戦で大丈夫なのか?」


「もちろんです……とはいえませんね。出たトコ勝負なので。他にいい案があるのならば、受け付けますが、どうします?」


 柊は俺に名案が無いのを分かっていながら、意見を求めてくる。相変わらず嫌なやつだ。


「いや、いい。お前の作戦に乗ってやる」


「それはどうも。言っておきますが、あなたは完全に気配を絶ってもらわないとこの作戦は成り立ちませんよ?」


「わかってるよ。それと、洞窟の入り口付近からは死角で、逆に俺からは洞窟が見やすい場所で待機、そして目標の確保……だろ?」


「そうです。では、成瀬さんが現れるまで待ちましょうか。張り込みの雰囲気っぽくあんぱんと牛乳なんてあるのですが、食べます?」


「……いや、いい」


「では、僕はいただくとしますね」


「勝手にしてくれ」


 もう少し緊張感というものを学んでほしいものだが、真面目面したらしたでムカつくんだろうなぁ。そして、思考の対象を作戦内容に移す。よくわからないが、成瀬はもう一度現れ、洞窟へ入っていくというのだ。それを柊が追っていき、俺はその後ろからゆっくり近付いていく。そうしたら、成瀬は俺の目の前に現れるというのだ。この作戦の意味も、根拠も何も説明されていない。


「で、なんで俺に作戦しか言わないんだ? しかも凄いアバウトな指示で。その作戦の本筋が見えない」


「それは、追々説明していくので……今はただ僕の指示に従ってもらえませんか?」


「……了解」


 柊はいつもの微笑で答えると、あんぱんを頬張る。なんだか追求するのも面倒になった俺は、大きく欠伸をした。それっきり、会話は途絶えて、昨日に引き続き張り込みが始まった。あーあ、これからあのくそ長い時間の浪費としか思えない張り込みという名の地獄が始まるのか畜生。なんて思っていたが、非常にありがたいことに、昨日よりも早く成瀬は現れてくた。


「優さん、現れましたよ」


「分かってる」


「では、先に行ってきますね。作戦通りにお願いします」


 柊は、そういい残して車を降り、成瀬に気付かれないように近づいていった。しかし、あと30メートルというところで成瀬が急に立ち上がり、洞窟へ入っていく。実は、これが俺の行動開始の合図なのだ。なぜ成瀬が柊に気付けたのかを考えるよりも、行動を優先した。考えても答えは見つからないだろうし、それよりも自分の責任を果たす方が合理的だと思ったからだ。柊の予定通り、成瀬は洞窟に入る。次いで、柊も入っていった。俺は抜き足差し足で洞窟に近寄る。入り口付近から死角になり、かつ入り口に近い調度いい岩の影に隠れ、様子を伺う。柊は、必ず洞窟入り口付近に成瀬が現れると断言した。それと、何があっても声だけは出すなと、釘も刺された。俺だって、柊の言いなりになるのは多少なりとも気に食わないが、今はそれをそっと胸の中に閉まった。


 一体、中で何が起きているのだろうな――




 Chapter.3"Bomb speech"




 優と別れた柊は、作戦通りにことを運び、成瀬雫を洞窟に誘導することに成功した。今は、洞窟の前まで歩いてきている。しかし、本当の勝負はこれから。自分の言葉に全てがかかってくる。彼女がどうやって自分に気付かれずに洞窟を脱出しているのかはわからないが、二日連続でしつこく来ているのだ。彼女だって、脱出した後に自分を監視するかもしれないと柊は考えたのだ。だから、どれだけ彼女を動揺させ、自分のみに注意をひきつけられるか。それが勝負の鍵。一呼吸置いてから、中に入っていく。もちろん、昨日と同様彼女の姿は無く、洞窟内はもぬけの殻だ。


「……驚いた。噂は本当だったんですね」


 反応は無い。


「隠れたって無駄ですよ。悪いとは思いましたが、少々あなたのことを調べさせていただきました。もちろん、あなたのトリックのこともね」


 柊の言葉が洞窟内で反響する。もちろん、トリックがどうのとか、そういうのはでまかせで、これは単なるカマかけなのだ。


「信憑性にイマイチ欠けるものがあると思ったのですが、あの噂は本当のようですね」


(そろそろ……か?)

 

 柊がそう思った瞬間、洞窟の入り口付近から女性の悲鳴のような声が聞こえた。


「きゃあ!」


 柊は、勝利を確信し、いつもの微笑に戻る。


「あい、暴れるな! いて! けるな! くそっ!」


 それに次いで、優の悲鳴? も聞こえてくる。


「どうやら、作戦はうまくいったみたいですね。あ! 優さん、そのまま捕まえといてくださいよ」


 そういいながら、柊は2人の方に歩いて行き、成瀬雫を見下ろす。


「僕らの勝ちです」


 成瀬はしばし柊と優を交互に見たあとに、状況が理解できたらしく、抵抗を止め、頭を垂れた。


「そういうこと……。まんまとはめられたわね」




***




 必死で成瀬を押さえつけながら、勝ち誇ってる柊と何やら納得して頭を垂れている成瀬を見ながら、俺は完全にパニックに陥っていた。それもそのはず、俺の目の前にいきなり眩い光が現れ、思わず眼を瞑った。そして開けたら、そこには成瀬が居たのだ。なんとか捕まえはしたが……。意味がわからない!


「おい、何がどうなっているんだ? 意味が分からない! 分からなさ過ぎて死にそうなんだが……」


 一人テンパッている俺。しかし、成瀬の柊の2人は状況が理解できている様子。もうそろそろ俺頭から煙が上がってきそうだというところで、柊がやっと説明を開始する。


「順を追って説明しましょう。ことの発端は、僕がある筋から1つの情報を耳にしたことから始まりました。三年前、この世界に生けとし生ける生物全てに備わっていつエネルギーが発見されたことは知っていますね? 生命エネルギーのことです。それは、僕たちが暮らしているこの地球にも備わっています」


 一つ一つ丁寧に分かりやすく説明しているつもりなのだろうが、今の優にとっては、遠回りな説明は苛立ちに繋がった。というか、それがどうして成瀬と関係あるんだろうか。そんな俺の訝しげな視線を気にすることなく、得意そうに柊は続けた。


「そして、この人類と地球の生命エネルギーが互いに共鳴、反応しあうことがごくまれにあるらしいのです。その時に、人間は眠っていた才能を呼び覚まし、人類を超越した現象をおこせるようになる。人間の脳は常に肉体にリミッターをかけていて、通常時には本来の一割程度しか能力を発揮できないという話をご存知でしょう? それは、このことから言われていると推測できます。僕も最初は信じてはいませんでした。ですが、昨日のあの成瀬さんが消えるという出来事から、もしかしたらと思ったんです.

僕は思うのですが、成瀬さんもその1人なのではないかと」


 大真面目な説明を続ける柊。しかし、そんなとんでも話を急にされて、誰が信じるだろうか。少なくとも、俺は信じる気にはなれない。


「いや、そんな哀れむような目で見ないで下さいよ。僕はいたって真面目ですよ」


 柊がこの日初めて困った顔を見せた。俺は、柊の額に触り熱を確かめる。


「熱も無いです。いたって健康ですよ」


 更に困った顔をする柊。俺は最後の止めを刺した。


「頭いかれちまったのか?」


「だから言いたくなかったんですよ」


 柊がどうしようもなく溜息をつく。しかし、溜息をつきたいのは俺だと内心突っ込んだ。


「そりゃそうだろうな、そんな話、今の時代信じるほうがどうかしてる。生命エネルギーにそんな現象を起こせるなんて聞いたことない」


「それはごもっとも。しかし、今はあなたが無理やりにでも納得してくれないと話が前に進まないんですよ」


 何かもう柊が懇願すらもし始めているので、気持ち悪いから即刻話を進める。


「よおし、分かった。百、いや一億万歩譲って、この際その話が本当のことだとしよう。仮にそういう人を超えてる連中がいたとして、それがどうして成瀬が消えて? いきなり現れて? やっぱり意味が分からない」


「そうですね……。例えるなら、テレポーテーション。もしくは透明になる能力。というのはどうでしょう? これなら消えたり現れたりできますね」


「そんなもん、あってたまるか」


「そう言いたい気持ちは分かりますが、現実に有り得ないことが目の前で起きた。これは事実です。正確なところは、僕にも分からないですが……。せっかく成瀬さんもいることですし、聞いてみたらどうでしょう?」


 事実。その言葉には、どうにも反論できなかった。だって、どういうトリックにせよ、目の前で起きたことは事実なのだから。視界の中に急に人が現れるっていう現象は、今までに経験したことなんてない。柊は俺が無理やり話を進めたことに感謝はしていないと思うが、いつもの微笑が戻っていた。俺と柊はお互いに顔を見合わせたあと、同時に成瀬を見つめる。


「な、何よ?」


「どうやって洞窟から脱出したのか、教えてくれますね?」


「さぁ? なんの話をしているのか、さっぱりね」


 一瞬、その場の空気が凍りついた。空気読めよ。と、多分柊も思ったことだろう。


「流石に、そう簡単に認めてはくれませんか…」


 しかし、柊が予想の範囲内という顔をして呟いた。


「では、こちらから1つ条件を提示します。あなたの身をかくまう……というのでどうでしょう? その様子だと、最近は家にも帰れなくなったようですね」


「はぁ!?」


 ちなみに、この「はぁ!?」は俺。そして、その言葉に、成瀬が少しだけ反応した。よく考えれば、成瀬は一週間もどこで過ごしてきたのだろうか? 帰れないということは、逃げているのか? すでに俺にとっては一杯一杯の状況にもかかわらず、また1つ謎っていうか、悩みって言うか、そんな感じのものが増えてしまった。全く、なんなんだろうな、おい。もう、俺のことは放っておいて……って、それはそれで悲しいな。


「なんとなく状況は理解できますからね」


「俺は理解できないけどな」


 渾身の俺の突っ込み虚しく、未だに成瀬は黙りこくったままだ。もちろん、誰も俺になんの説明もしてくれない。成瀬は、柊と俺をずっと交互に見つめ続けている。まるで、品定めでもするかのように。しばらくして、成瀬が俺の肩にもたれかかるようにして、立ち上がった。随分お疲れのご様子だが、勝手に人を杖代わりに使わないでくれ。


「私に関わってもろくなことにならないわよ? あんたたち、何がしたいの? 何が目的?」


 成瀬が鋭い眼光で柊を睨みつめる。たちなんて一くくりにしてくれているが、俺は巻き込まれただけで、目的もクソも無い。一般ピーポーだ。そんな俺を他所に。


「……強いて言うなら、僕も舞台に上がってみたくなった。そんなところです」


 柊はいつもの微笑に何か鋭いものを含ませて言い放った。その言葉の裏には、どんな意味が含まれているのか。初めて、柊が心の内側を口にしたような気がした。そして、少しの間柊と成瀬にらみ合った後、沈黙を破ったのは成瀬だった。


「なるほどね。……その条件、受けさせてもらうことにするわ」


「それはどうも。ではさっそく――」


「ただし!」


 柊が言葉を繋げようとしたのを、成瀬がさえぎる。それも、まさかの爆弾発言で。


「かくまう役はそっちの人にお願いするわ」


 成瀬の指差した指した先には、恐らく俺が捕らえられんだろうなぁと冷静に状況を分析し、人事のようにその指を見つめていた。そして分析し終わったあとに、結局成瀬が家に帰れない理由は分からなかったけど、成瀬の言わんとしていることの重大さに気付いたのであった。




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