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コインの約束  作者: 摘美花-ツグミカ-
9/24

怖い和真と優しい和真

あっという間に夏休みが終わり、今日から新学期。


クラスに入ると、真っ黒に練習焼けした湊と夏樹。


それになんだか色っぽくなった由真と久しぶりに再会した。


「由真、なんか雰囲気変わったよね?何かあったの?」


私は由真にしか聞こえないようにそっと聞いてみた。


「芽衣、報告が遅くなってごめん。夏休みに夏樹から告白されて、付き合うことになったの」


「わー!やった!おめでとう、由真と夏樹!!」


私からの祝福に2人は顔を見合わせて、照れているようだった。


「ほら、湊からも祝福の一言!!」


「おう、2人とも良かったな。おめでとう!」


「そう言えば、湊も凛ちゃんと付き合うことになったんでしょ?」


由真がそう教えてくれた。


「まじで、湊!!凛ちゃんにOKしたんだね。良かったね」


私は皆が幸せになっていて、嬉しかった。


「いや、凛には俺から告ったんだ。女からは言わせられないだろ」


あら、湊。意外と男気あったのね。見直したわ。



「それで、芽衣は?夏休み中、結城くんと一緒にいたんでしょ?湊から聞いたよ。しかも勉強も教えてもらったとか」


「うん、そうなの。私も和真とお付き合いすることになりまして」


3人から祝福されて、これで親友全員が幸せになったんだね。


嬉しい。


そして嬉しい続きで、2学期に入ると修学旅行があって。


今年は、ってこの学校は毎年京都方面の古都巡りなんだけど。


楽しみだな。


ただ一人、浮かない顔をしている湊。


「お前らはさ、付き合ってる奴と一緒に修学旅行に行けるから浮かれてるけどさ。俺はなんで凛と一緒に行けねぇんだよ。やっぱ俺、留年するかなー」


湊、寂しいんだね。そこまで凛ちゃんのこと好きになって、良かったね。


「湊、私も和真とはクラス違うから自由行動の日以外はずっと湊と一緒にいるし。そんなに落ち込まないで」


クラスが違うと会える機会なんて殆どないんだよね。唯一、最終日の自由行動の時だけしか一緒にいられない。


ふふっ。それでも、湊よりはマシかな。


「芽衣、口元笑ってんぞ。自由行動も俺と一緒にいてよ。じゃなきゃ俺、暴れる」


「無理。自由行動だけは譲れません!」


「ちぇっ」


「湊、もう部活の時間だよ。早く行かなきゃ」


どうにか暴れる湊をなだめて、私は体育館へ急いだ。


和真と会える貴重な時間。


バスケ部の練習を見学するために体育館の2階へ行くと、もうバスケ部は練習してて。


私が2階から顔を出すと和真がすぐに気づいてくれて、恥ずかしげもなく手を振ってくれる。


私とお付き合いするようになってから、和真は柔らかくなったと和真のお友達に言われたことがあって。


いつも眉間にしわを寄せていた顔も優しくなったし、最近は声を掛けられれば女子とも話すようになったとか。


和真から話し掛けることはならしいけど。


そんなんだから、最近の和真はモテる。


和真の近寄りがたい雰囲気があったから告白なんてされなかったみたいだけど、今はどう?


この体育館の2階にも和真目当ての子が何人もいるし、2学期に入ってから何人からも告白されてるって。


そうだよね、和真って背も高いし顔もかっこいい。


それに頭もいいんだから、悪いところを見つける方が大変だよね。


モテる人が彼氏って、結構しんどい。


私も色々なことに気を抜けない。


和真の隣にいてお似合いだねって言われたいもん。




バスケ部の練習が終わると、私は体育館の出口で和真を待つ。毎日のこと。


そして和真が誰よりも先に急いで私の所へ来てくれる。これもいつものお決まり。



ん?でも今日は体育館からなかなか出てこない。


他の部員はぞろぞろと帰っているというのに。


部活の顧問と話でもしているのかな?そう思って体育館の中を覗いてみた。


すると2階に上がる階段の前で和真と女の子が立ち話をしている。


和真が女の子と話をしているところなんて見たことが無かったから、ドキッとした。


あの子は和真と同じクラスの、確か高柳さん。


背が高くて綺麗で、和真と並んで立っていると絵になる。


背の低い私から見たら羨ましいよ。そんな二人を見るだけで、胸がズキンとする。


高柳さんが少し興奮気味に話しているから、私の所までその声が聞こえてきた。


「柚木さんとは不釣り合いよ。あなたは結城総合病院の息子なのよ。私の親も医者だし、対等に付き合えるのは私くらいでしょ。あの子と別れてよ」


えっ?どういうこと?和真への告白だけじゃなくて、私を全否定した?


私は和真と対等ではないの?


親の職業が医者じゃないと、対等じゃないの?


「じゃあ、俺と付き合う?」


えっ?和真?今、和真がそう言ったの?


私はいたたまれなくなってその場を後にした。


今のは、なに?


自分の見たこと、聞いたことが信じられなかった。


嘘だと思いたかった。


でも、確かに和真が言った。「俺と、付き合う?」って。


和真の彼女は私じゃないの?


小さい頃に好きだった人だなんて、大きくなって再会したらこんなのだったのか、って幻滅したの?


ふっ、ふぇっ 涙が出てきた。こんな所で泣いちゃダメ。


部活帰りの人たちが沢山いるこんな場所で。


「あれー、芽衣?なんだ、一人なのかー?」


少し離れた所からサッカーの練習を終えた湊と夏樹が声を掛けてきた。


「みなとー。なつきー。うわーん」


私は二人に駆け寄り、湊と夏樹に抱き着いた。


「どした?芽衣?」


夏樹がびっくりして、泣いている私の目線まで腰を屈めて覗き込んだ。


涙で言葉が出てこない。


「うっ、ふぇっ、かずま、がね。かずまが・・・」


「なんだよ、結城がどうしたんだよ、芽衣」


湊は私の泣いている理由が分からなくてイライラしてる。


「つきあうって。付き合うって言っててね」


「何言ってんだよ、芽衣はもう結城と付き合ってるって言ってたじゃねーか」


「わたしじゃ、ない。他の人と」


『はぁ?』


湊と夏樹の声が被る。


「私、どうしよう。どうしたら、いいの?」


「ちょ、ちょっと待て、芽衣。一旦落ち着こうぜ。いや、俺が落ち着いてないのか?なぁ、夏樹、どう言うことだよ?」


私より湊がパニックになってない?


「いや、俺に聞かれてもな。俺、結城じゃないし。取り合えず、話せる場所まで移動しよう」


夏樹の提案で私たち3人は駅の側の公園までやってきた。


少し落ち着いてきた私は二人に謝った。


「二人とも、ごめんね。付き合わせちゃって」


「芽衣、話せるなら話してごらんよ」


夏樹が優しく聞いてくれた。


私はさっき体育館で見たこと、聞いたことを二人に話した。


「なにか誤解があるんじゃないの?結城はあんなに芽衣に一途だったのに」


夏樹が冷静にそう言った。けど、冷静な時に聞いた言葉だもん。


聞き間違いじゃない。「俺と、付き合う?」って。高柳さんに言った。


さっきから携帯がずっと震えてる。着信の相手は見なくても分かる。


多分、和真から。


今更、何の用があって電話してくるの?


私は携帯の電源を切ろうとして携帯をカバンから取り出した。


それを湊に取られて。


湊は着信相手の名前を見て、私の携帯に出た。


『もしもし、芽衣?今どこ?』


「結城、お前なに?芽衣に電話してきてんじゃねーよ!ふざけんなよ」


『誰?もしかして、湊か?芽衣は?芽衣を出せよ』


「お前を見損なったよ。もう芽衣に近づくな」


湊はそう言うと電源を落とした。


「ん、携帯勝手に出てごめん」


「私こそ、ごねんね。二人に心配掛けちゃったね。話を聞いてもらって少し落ち着いたよ。ありがとう」


「きちんと話した方がいいよ。誤解したまま別れるなんて、絶対にだめ。誤解なのか、芽衣が振られるのか分からないけどさ。振られるならきちんと振られないと、結城をいつまでも引きずるだろ」


「夏樹、何で私が振られるのが前提なのよ!」


「そうだよな、芽衣が振られたら俺の胸を貸してやるからな」


「もう、湊まで!」


二人にからかわれて、私は泣き笑いしていた。


やっぱり私、この二人と由真が大好き。


「よし、俺、コンビニでアイス買ってくる。ちょっと待ってて」


そう言うと湊がコンビニへ走って行った。



「夏樹、ありがとうね。私、夏樹たちとお友達で良かった」


私は改めて夏樹に仲良くなってくれたお礼を伝えた。


「前に湊が芽衣は俺の大親友だって言ってたけどさ、俺だってそうだよ。由真は彼女だからもちろん大切だけど、芽衣のことだって大事に思ってるんだからね」


「うん。私は幸せ者だよ」


そこへ湊がアイスを持って帰ってきた。


ベンチに三人並んで湊からアイスをご馳走になって。


甘いのかしょっぱいのか分からない涙味のアイスだった。


「芽衣?そこにいるの?」


公園の外から和真の声が聞こえた。


固まって声を発せない。私は湊と夏樹の服をギュッと掴んだ。


「やっぱり芽衣だ。どうして居なくなった?心配しただろ」


和真の態度がいつもと変わらない。


そして和真は湊の方を向き、


「湊、さっきの電話、なんだよ。意味わかんねーんだけど」


「おまえさ、自分が何やってるか分かってんの?どの面して芽衣に会いに来てんだよ」


「湊、もういいよ。私、帰る」


そう言ってベンチから立ちあがり、駅に向かおうと数歩歩いたところで、和真に手を掴まれた。


「芽衣、待てよ。ちゃんと話してよ。俺、本当に意味が分かんねーよ」


「湊、俺たちが先に帰ろう。芽衣、きちんと振られて。じゃまた明日ね」


夏樹が湊に声を掛けると、湊は渋々それに応じて二人は私たちを残して公園から出て行った。


夏樹、きちんと振られてってさ。やっぱり振られるのが前提なの!


和真は私をベンチに戻すと、隣に座った。手は繋いだまま。


「芽衣、一体どうしたの?急にいなくなるとか、本当に心配するからさ」


「急にいなくなったことは、ごめん」


「どうして待っていてくれなかった?」


私はさっき見たことを和真に聞いた方がいいのか迷っていた。


夏樹の言う通り、本当に振られるかもしれない。


和真は私ではなく、高柳さんと付き合うのかも。


怖くて聞けない。


「ねぇ、芽衣。俺、芽衣に何かしたの?何かしたんなら謝るよ」


ああ、夏樹と湊。振られたらもう一度慰めてね。


私は意を決して、すべてを聞くことにした。


「・・・・高柳さん」


「えっ?何?」


「体育館で高柳さんと、さ。話しているのを聞いちゃったの。立ち聞きみたいになっちゃって、ごめん」


「あー、別に聞いててもらっても大丈夫だっただろ?あの返事じゃ不満だった?」


「ん?聞いてても良かった?何が?和真、酷くない?」


「そっか、あの返事じゃまだダメだったか。俺も本当はさ、もっとキツく言いたかったんだけど。流石にあれ以上は言えなくてさ」


なんか私たちの話が噛み合っていないような気がする。


「和真、言ってることが良く分からない。和真は高柳さんと付き合うんでしょ?」


「はぁ?なんでそうなんだよ?芽衣の思考力ってどうなってんの?」


「だって、俺と付き合う?って高柳さんに言ったよね?」


「芽衣、その先は?俺がなんて言ってたか聞こえなかった?」


「だって、その先なんて聞きたくないもん。私、和真に振られるんでしょ?」


怖い。私から先に振られるって言っちゃった。


あ、涙が出てきた。声を押さえてるから、嗚咽になってしまって。


「え?芽衣?なんで泣いてんだよ。意味分かんねーよ」


そう言って和真が両腕で私を包み込んだ。


「もしかして芽衣、その先を聞いてないの?」


私は頭をコクンと縦に振った。


「はーっ、もうさ、勘弁してくれよ。それじゃ俺があの女に交際を申し込んでるみたいじゃねーかよ。それ最低だろ」


「うん、最低」


「ばか!芽衣のこと悪く言われて俺が黙っていられると思うか?あの女、本当に最悪だよ」


「じゃ、じゃあその先はなんて言ったの?」


「えっ?俺が言うの?今、言うの?」


「言ってくれなかったら私、一生誤解したままだよ。いいの?」


「もうさ、芽衣には勝てないよ、俺」


和真は、ふぅ、と深呼吸をしてから、その続きを話してくれた。


「あの女が俺と芽衣が不釣り合いだとか言い出して。それだけでもキレる寸前だったけど、親が医者だとか、対等に付き合えるのは私だけだとか、最後には芽衣と別れろって言いやがって」


「うん、それは聞いてた」


「な、ムカつくだろ。だから、


『俺と付き合う?って言ったらお前、しっぽ振ってついてくんのかよ?最低だな、動物以下だなお前。親が医者とか関係ねーんだよ。俺が対等に付き合えるのは芽衣だけなんだよ。いや、芽衣の方が俺の先を歩いてんだよ。俺は芽衣と対等になれるように頑張ってんの。お前は親が医者ってだけで、お前自身は中身が何もないだろ』


的な?」


「和真・・・・」


「分かった?芽衣。本当はこの倍言いたかったんだけどさ。さすがに止めといた。芽衣も待たせてたしな。待ってなかったけど」


「かずまぁ~。やっぱり和真って怖い」


「なんでそうなるんだよ。ばか」


「ありがとう、和真」


「ん」


そう言って和真は私の涙を優しく拭ってくれて。


薄暗くなり人気のなくなった公園で、和真からキスをしてくれた。


それは長い、長いキスだった。



和真との誤解も解けて、平穏な日々が戻った。


湊と夏樹には事の顛末を話し、平謝りしたけど、二人とも


『芽衣が振られなくて良かったな、残念』


って。


どれだけ振られるのを期待してたのよ!


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