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コインの約束  作者: 摘美花-ツグミカ-
8/24

私の病気と、みーくんとまーくん

夏休み後半、私は毎年検査入院をする。


小学校に上がる前、私は心臓の手術をした。


手術は成功率50%だと医師に言われていたらしい。


うちの両親はとても心配しただろう。


当の本人は小さかったから、その当時のことはあまり覚えていない。


今は年に一度の検査入院をして経過を見ているんだけど、これも今年の検査で異常がなければ来年からは日帰りの検査になるという。


心臓の手術って言っても、今では走ることもできるし特に自覚症状もないから病気のことなんていつも忘れてるんだよね。


いよいよ明日から1週間の入院。


私は和真にそれを伝えようか迷っていた。


言ってしまったら、余計な心配を掛けさせてしまうんじゃないかって。


結局私は和真には内緒で入院をすることにした。


翌日、親に連れられて、病院へやってきた。


うちの親は初日の入院手続きと退院の日しか病院には来ない。


来てもらっても私は元気だから心配もしていないみたい。


今日は入院2日目。


午前中検査をして、午後は何もすることが無いから、私はいつも小児病棟へ行き、入院している子供たちと遊んでいる。


遊ぶ、っていっても色々な病気の子がいるから、折り紙やお絵描き、時には絵本を読んであげたりして。


子供たちの笑顔に私が癒されているんだよね。


今日も小児病棟で絵本を読んであげていると、その子の病室に主治医の先生が入ってきた。


「一年ぶりだね、芽衣ちゃん。元気そうで良かったよ」


「新海先生、お久しぶりです。また子供たちに相手してもらってます」


新海先生は小児科の先生で、私の病気を見つけてくれた先生。


小児病棟へ来る理由は、新海先生に会いたいからという理由もあるんだよね。


大好きな先生なの。


「そうだ、芽衣ちゃん。今日は新しい先生を紹介するよ。彼はね、ここの病院の院長のご長男で、今年から小児科を担当しててね。私はもう引退だから、彼に色々と教えているところなんだ」


「芽衣ちゃん、結城和己ユウキ カズミです。よろしくね」


「柚木芽衣です。こちらこそ、よろしくお願いします」


そっか、新海先生はもう引退する年齢なんだ。なんだか寂しいな。


私が退院するときまでにお礼のお手紙書こうかな。


来年はもう会えないかも知れないんだもんね。


そんなことを考えていたから紹介された新しい先生のことは良く見ていなかったし、名前も聞き流していた。


私はその夜、和真にメールをした。


≪和真、補習が終わっちゃったから、バスケの練習観に行けなくて寂しいよ。毎日頑張ってる?≫


既読にはなるけど、すぐには返事が返ってこない。


これはいつものこと。


忘れた頃にやっと返事が来ることが多いの。


それなのに、今日はすぐにメールが返ってきた。


≪俺も会いたい。明日、部活休みだし、芽衣の家まで会いにいってもいいか?≫


えっ? ウチにくるの?


≪ごめん、明日は家にいないの。会うのはまた今度でいいかな?≫


≪そっか、残念。会える時に言って。俺、いつでも会いに行くから≫


≪楽しみにしてるね。おやすみ≫


はぁー、検査入院のこと、話しておいた方がよかったかな。


私は少し後悔した。


翌日の検査はMRIを撮影しておしまい。


私はまた小児病棟を訪れた。


ここにいる子供たちが私を慕ってくれて、顔を覗かせるだけで大騒ぎ。


ベッドから移動できない子には病室まで入って行き、体に負担が掛からないことをして遊ぶ。


私も昔はこの病棟で過ごしていたんだな、なんて昔を思い出したりもして。


「あれ?今日も遊びに来てくれたの、芽衣ちゃん」


そう声を掛けてきたのは昨日紹介された結城和己先生。


新任の先生ってだけあって、まだ若い。


「今日もお邪魔していまーす」


私は微笑んで結城先生に返事をする。


「ん?芽衣ちゃんって、どこかで会ったことある?」


「え?先生とですか?いえ、初対面だと思いますけど」


うーん、としばらく考えている先生。


「あっ!思い出した!芽衣ちゃんって小さい頃、ここに入院してたよね?」


「はい。この病室にいましたよ」


「その時にさ、芽衣ちゃんと同じ年位の男の子と小学生の兄弟といつも遊んでいたの、覚えてない?俺がその時の兄貴なんだよね」


私は記憶を辿って考えてみるけど、思い出せない。


「すみません、記憶にないです」


「そっかー、そうだよね、あの頃はまだ芽衣ちゃんって小学生にもなってなかったもんね」


「はい・・・。」


「それにしても芽衣ちゃん、可愛くなったね」


そんな先生と私の会話を聞いていた子供たちが、


「和己先生、芽衣ちゃんのことナンパしてるーーー」


なんて騒ぎ出すから、


「これは、違うよ。ナンパじゃないよ」


って、何故か私が弁解してるし。


結城先生も困った顔になり、「じゃ、他の病室診てくるね」なんて言ってここから出て行った。


「そうだ、芽衣ちゃん。その弟の方が今日来るんだよ。会ってあげてよ」


「は、い」


弟さんに会ったところで思い出すわけないんだから、困るな。


午後になり、少し眠くなったからお昼寝をしようと思い部屋に戻りベッドに横になると私は一瞬で眠りに落ちた。


どれくらい眠っていただろう。


廊下が騒がしくて目が覚める。


ここは病院なんだからもっと静かにできないのかな。


廊下から「芽衣!芽衣!」そんな声が聞こえてきた。


「待てよ、和真。芽衣ちゃんは休んでいるから静かにしろよ」


そんな会話をしながら2人の男の人が私の病室に入ってきた。


一人は和己先生。と、後から入ってきたのは、


「和真?」


「芽衣!」


「和真、どうしてここに?」


私の質問に答えることなく、和真は私の側まで来て私を抱きしめた。


「大丈夫なの、芽衣?どうして言ってくれないんだよ」


和真が涙声で、少し怒ったように私に話す。


「ちょっと、和真、離れてよ。ここ病院!!」


「うるせー!ここがどこだろうと、いいんだよ。心配させんなよ」


私の頭では理解ができない。


と、あることに気付いた。


2人とも『結城』だった?


この病院って『結城総合病院』だった?


ちょっと待って!


頭が追い付かない。


この2人は兄弟?この病院の院長は和真のお父さん?



あ!待って、待って!何かを思い出した。



「みーくんと、まーくん?」



私がその名前を口にすると、和真が


「やっと思い出したのかよ!遅いんだよ、芽衣ちゃん」


そう、私はみーくんとまーくんに芽衣ちゃんと呼ばれていた。


「なんだ、和真。芽衣ちゃんのこと、知ってたのか?」


和己先生が和真に問いかける。


「俺が、見つけたんだよ。兄貴には芽衣を渡さない。芽衣は俺の大切な人なんだよ」


「ははっ、バカだな和真。俺は何歳になったと思ってるんだ。あんな幼い頃の約束なんて、もう俺には時効だよ」


「時効なんて、あるかよ。俺にとって芽衣はずっと探していた人なんだ」


「そうか。再会できて良かったな。今日は芽衣ちゃんの検査はもうないから、和真はここでゆっくりしていくといい。俺はまだ仕事だから。じゃ、芽衣ちゃん、また明日ね」


和己先生はそう挨拶をしてくれて病室を後にした。


「和真・・・検査入院のこと、話さなくてごめんなさい」


「どうして俺に隠し事をするんだよ。そんなに俺は信用ないの?」


「そうじゃないよ。いつも和真が私の体調を気遣ってくれてるの分かってたから、余計な心配掛けさせちゃうと思って、言えなかったの」


「そんなの当たり前だろ。俺は芽衣がどうにかなったら生きていけないんだよ」


「私はどうにもならないよ、和真」


こんなにも私のことを心配してくれる和真。


「和真、ずっと私のことを探してくれていたの?」


「ずっと探してた。そしたら、あの日。電車を降りてきた芽衣を見て、すぐにあの芽衣ちゃんだって分かった。大きくなって、凄く可愛くなってて。でも具合悪そうにしてたから、本当に心配した」


「あの時。私を見つけてくれてありがとう、和真」


「俺と芽衣は同じ年なのに、なんで俺があの時の約束を覚えていて、芽衣が忘れてるんだよ。やっぱりお馬鹿だな、芽衣は」


「みーくんとまーくんは思い出したよ。かずみの”み”でみーくん。かずまの”ま”でまーくん、でしょ?」


「そう。俺の親父が覚えやすいようにって芽衣にそう紹介してたんだよ」


とっても優しいお兄ちゃんのみーくん。


いつも私にくっついて離れなかった弟のまーくん。


あの頃、私はこの2人が大好きだった。


「私、和真とどんな約束をしたの?ごめんなさい、思い出せないの」


和真は頭を抱えてため息をついた。


「芽衣が病気で入院している時、毎日俺たち兄弟は芽衣に会いに来てたんだよ。俺は芽衣が大好きだった。多分、兄貴もな。芽衣の手術の日が決まって、芽衣とは明日からもう会えないって突然言われたんだ」


和真は当時のことを思い出して、切なそうに話してくれている。


その頃から私のことを想っていてくれたのに忘れていたなんて、私って酷いよね。


「最後に会った日に、芽衣がさ。もし元気になったら、どっちかのお嫁さんになるって。だから芽衣のこと必ず見つけてね、って。そう言って別れたんだ。その後は芽衣が元気になったのかも、いつ退院したのかも、まったく教えてもらえなくて。もしかしたら芽衣はそのまま死んじゃったんじゃないかって」


和真は約束のことをすべて教えてくれた。


「和真、その約束ってまだ有効なの?」


「当たり前だろ。でも兄貴には無効だかんな」


「うん、私は和真だけだよ。私をお嫁さんにしてくれるの?」


「逆に聞くよ。芽衣は俺でいいのか?」


「和真じゃなきゃ、イヤだよ」


「芽衣。やっと会えた」



和真は抱きしめていた私を解放し、私の目を見つめる。


私もそれに応えた。



そしてどちらからともなく、口づけをした。


私の検査入院も無事終了し、体に異常がないことが確認されて、来年からは年に一度の日帰り検査になることを主治医から聞いた。


毎年言われていることは、長時間の運動は避けること。


また、体調に不安があったらすぐに受診すること。


これだけは守って下さい、と。


私の両親は全然心配していないんだろうと思っていたけど、異常がないと聞いて、涙を流していた。


「お父さん、お母さん、長い間不安にさせてしまって、ごめんね。私は元気だから、もう安心してね」


そうして私たち家族は結城総合病院を後にした。


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