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コインの約束  作者: 摘美花-ツグミカ-
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名前呼びって特別?

今朝は暑さで目が覚めた。


どうしてセミってこんなに早朝から鳴いてるの?


暑さに拍車をかける声だわ。


もう二度寝もできる時間じゃないし少し早いけど学校へ行く支度をして、めずらしくお弁当を作ってみた。



もうすぐ夏休み。



夏休み前の定期考査は散々だった。


由真と夏樹は成績優秀。廊下に張り出されるテストの成績順トップ30人に必ずエントリーしてるんだよね。


そして、問題は私と湊。


私たちの成績はドングリの背比べで、赤点を取る教科も同じ。


この前の赤点は数学と物理。


赤点組は夏休み中の夏期補習に強制参加させられるから、私と湊は抱き合って泣いた。


何が悲しくて夏休みに勉強よ・・・。


今日は学校へ行く準備が早くできたから、めずらしく1本早い電車に乗った。


電車のドアにおでこを付けて、流れる景色を見ながら盛大な溜息。


はぁー、夏期補習、やりたくない。


「芽衣?」


うなだれている私に声を掛けてきた人。


「ん?結城くん?おはよう」


「大丈夫?ドアに寄りかかってるけど、具合悪いの?」


「へっ?大丈夫、元気だよ。多分ね」


「多分、ってなに?体調悪かったら言って。芽衣ってさ、まだ通院して・・・。」


「えっ?通院?」


「いや、なんでもないよ」


結城くんから”通院”という言葉が出たのは、どうして?


私、病気のことを由真にも話していないのに。


私のことを前から知ってるって、結城くんは言ってたよね。


結城くんとは前にどこかで会ったことがあるの?


私は病気のことを悟られないように無理に明るく答えた。


「体はすっごく元気だよ。元気だけが取り柄だもん。ただね、来週からの夏期補習の事を考えてたらさ。自分が情けなくてさ」


「ははっ、もしかして赤点取った?」


「笑い事じゃないもん。しかも2教科だから補習も2倍だよ」


「マジで?芽衣って、お馬鹿さんだったの?」


「お馬鹿って!酷いよ、結城くん」


私は拗ねて結城くんから目線を外した。


「ごめん、ごめん。芽衣の色々なことが知れて嬉しいんだよ。本気でバカにしたわけじゃないから」


「じゃあさ、結城くんはどうなの?頭いいの?お馬鹿なの?」


「ふっ。学校へ行ったらトップ30の張り紙見てごらんよ。なんなら勉強教えてあげてもいいけど?」


そう得意気に言う結城くん。


「なによ、なんかイヤな感じ!」


そう言って私は笑った。


きっと結城くんは頭がいいんだろう。少なくとも、私よりは。


「ねぇ、芽衣。まだ俺のこと名前で呼んでくれないの?俺、ずっと待ってるのに」


「いいよ。名前呼び。で、結城くんの下の名前ってなんだっけ?」


私はさっきバカって言われた仕返しに、意地悪くそんなことを言ってみた。


「はぁ~。マジか。俺、今凄い衝撃を受けたわ。ここまで芽衣がお馬鹿さんだったとは」


「なっ!!!酷い!覚えてるよ、和真でしょ!」


「・・・・。」


あれ?和真で合ってるよね?まさかの間違い?


うわっ!人の名前を間違えるなんて。最低だ、私。


「か、ずま・・・だよね?」


「俺、ヤバい。芽衣が言う和真って」


やっぱり和真で合ってるんじゃん!驚かさないでよ。


「何わけ分からない事言ってるの?和真?」


和真はそれ以上何も答えてくれなくて、少し赤くなった顔を隠すように下を向いて、私から目線を逸らした。


以前、和真のお友達2人が言っていたことを思い出す。


『和真は女の子に対して優しくないし、話し掛けないんだよ。しかも下の名前で女の子を呼ぶなんて、考えられない』


あのお友達の話って、嘘だよね。


普通に話し掛けてくれるし、一緒に笑ってくれるよね。


それに私のこと初対面の時から『芽衣』って呼んでたし。


電車が学校の最寄り駅に到着し、同じ制服をきた学生たちがぞろぞろと電車を降りる。


私と和真は電車から降りた生徒たちの一番後ろで、学校までの道を2人で歩く。


なんか、変な感じ。見慣れない組み合わせだよね。


「そう言えば和真ってさ、部活なにかやってるの?」


「んー、バスケ部だけど。芽衣はバスケとか興味ないよな?」


「バスケって観た事ないかも。夏樹と湊のサッカーなら良く観るんだけどね。バスケ部には知り合いがいないしね」


「じゃさ、夏休みの夏期補習が終わった時間に体育館に来てよ。もうバスケ部に知り合いができたんだから、観に来てもいいだろ?」


「うん、分かった。デートの予定が入っていないときに観に行くね」


「へぇー、そんなこと言うんだ?芽衣のくせに、生意気だ!」


そう言って和真が私にヘッドロックしてきた。


と言っても優しく腕を首に回されただけなんだけど。


さすがバスケ部、並んで歩くと私と和真の身長差は20センチ以上あって。


和真の腕が丁度私の首に巻き付きやすい位置にある。


ってさ、そんなことはどうでもいいのよ。


何?この状況。和真に巻き付かれてない?恥ずかしいんですけど。


「ちょ、和真ってば。やめて。恥ずかしいよ。離して!」



そんな私たちの後ろから、湊が歩いて来ていたなんて気付かなかった。



和真と別れて教室に入ると、先に来ていた由真と夏樹に挨拶をして合流した。


私の後から湊も教室に入ってきて。


いつもなら湊も合流するのに、今日は自分の机に座るなり突っ伏した。


「湊?どしたの?具合悪いの?」


私が湊の所まで行って、声を掛ける。


「んー。何でもない。ちょっとほっといて」


私の顔も見ずに鬱陶しそうにそう言った。


「なによ、湊。心配してるのに」


すると湊は顔だけ私の方に向けて、


「なぁ、芽衣。アイツってさ、芽衣の何?」


「アイツ?アイツって誰の事?」


「お前を助けてくれたヤツだよ。さっき仲良く登校してたヤツ」


「あぁ、和真?和真は・・・なんだろう?友達?なのかな」


「和真、って呼んでんのか?」


「そうだね、そう呼んで欲しいって言ってたから」


それを聞いた湊が急に席を立ちあがり、廊下へ出て行った。


この様子を見ていた夏樹が急いで湊の所へ駆けて行く。


「湊、ちょっと待てよ。分かるけどさ、5組へ行ってどうするんだよ」


そう言って夏樹が湊を引き留めた。


湊と夏樹のやり取りを見て、私は由真に


「ねぇあの二人、どうしたの?特に湊がさ、変じゃない?」


「芽衣、あのさ。一度、湊と二人で話して欲しい。何を言われても逃げないで」


「なんで湊と二人で?」


由真は少し悲しい顔になって、


「お願いね」


なんて言うから、それ以上は何も聞かずに


「分かった」


そう答えた。


その日のお昼休み、夏樹と由真が私たちを二人にしようとしているのが分かったから、私から湊を誘った。


「湊、今日は久しぶりに中庭で食べない?」


「えー、外は暑いからヤダ」


湊にあっさり拒否られた。


「なによ、私が珍しく作ってきたお弁当を半分こしてあげようと思ったのに!じゃ、いいもん。夏樹と半分こするもん!」


「ちょっと、待てよ。食べるから。半分こして。ほら早く中庭行くぞ、のろま芽衣」


「湊!待ちなさいよ!なに急に態度が変わってんのよ!」


なんだかいつもの湊に戻ってるから少し安心した。


私と湊は中庭の日陰になっているベンチに座り、お弁当を広げた。


「やっぱ外は暑いな。日本の夏をなめたら死ぬぞ」


「何言ってんの、湊。いつも炎天下の中でサッカーやってるじゃない。これくらい平気でしょ?」


「俺はナイーブにできてんの、芽衣と違って」


「なんだと、湊!私の方が湊より100倍ナイーブだ!」


そんな不毛な言い合いも、いつも通りで心地いい。


「はい、卵焼き。今日はだし巻きだよ」


「俺、甘いのがいい」


「じゃ、あげなーい」


「無理!もらう」


そう言って私が箸で掴んだ卵焼きに口を近づけて「パクっ」と食べる湊。


「ん、うまい」


そんな湊を見て、私はふふっと微笑んだ。


そんな私の顔をじっと見つめてくる湊。


「なぁ、芽衣。アイツのこと、好きなのか?」


「さっきから湊の言うアイツって、和真のことなんだよね?」


「ん」


「和真は、助けてもらった人で。それだけだよ。他に何があるの?」


そう湊に言ったけど、心臓はドキドキしてて。


「じゃ、俺は?芽衣にとっての俺って、どんな存在なの?」


「とっても大好きな友達。いや、親友かな」


「そっか、親友か」


「うん。本当に大切な親友だよ。もしさ、湊に彼女ができたとしても、私は湊と親友でいたい。そんなのは、無理なのかな」


私は本当に由真、夏樹、そして湊とは一生の友達でいたいと思ってる。


「ん、分かった。じゃさ、もし芽衣に彼氏ができて、別れたとするだろ。その彼氏とはそこまでの付き合いだけど、俺たちは死ぬまで一緒にいられるんだよな?」


なんか、遠い未来の話になってるけど、湊の言っていることは間違えてないよね?


「そうだよ、湊。死ぬまで親友でいてくれる?」


「おう!俺は芽衣の介護でも下の世話でも何でもしてやるぜ!」


「ばっ、ばか!そう言う意味じゃないわ!!」



・・・・、こんな話でいいのかな?由真、私なにか間違えてる?



それから湊は普段の湊に戻り、私のお弁当の半分以上を食べた。

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