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【天魔仙跡】・【白蛇原始樹海】

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 潜魔館(せんまかん) 第五階層 広場 第六公子 白眉剣龍 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



「――明日より十ヶ月。諸君らはこれから送られる場所で独力のみで生き抜いて貰うことになる。さらに与えられた任務を遂行することで神教に功を立て、天魔至尊への忠節と信仰を――」


 潜魔館五階層にある舞台の上では、新任潜魔館主である焔牙魔君(えんがまくん)が我ら潜魔五号生に対し演習への激励の言葉を述べている。


 今日で潜魔五号生の最初のひと月が終わる。

 結局、焔牙魔君とその一党がこのひと月で動きを見せるようなことは無く、いつ仕掛けて来るのかと胸を高鳴らせていた本座の期待は残念ながらまたも空振りに終わった。


 まあ致し方なかろう。いかに焔牙魔君が化境の極に至った達人であり、その地位も潜魔館主の座にあるとは言え、その上に立つ夢瞳魔尊は玄境の達人であり、同時に魔尊として長老の職位まで持っているのだ。その武威も地位もまるで敵わぬとなれば、その膝元と言える潜魔館では策謀を巡らすことすら難しかろう。


 であれば改めて考えるまでもなく、焔牙魔君の狙いは明日より始まる『実践演習』で間違いないのだろう。

 この演習は毎年数人の死者が出ており、過去には天魔の御子が死んだという事例もわずか数件であるが存在する。無論、その時の潜魔館主には相応の罰が下されたとはいえ、少なくとも建前の上では、不慮の事故が起きても何ら不思議では無いということになっているのだ。


 そして丁度まさに今から、明日から始まる『実践演習』のため潜魔五号生たちは各々に指定された演習場へ転移陣で送り込まれることになる。


 ちなみに本座の演習場は当然のように一人隔離された場所であるらしい。



◇◆◇



 同じ番号の書かれた木片を手にした潜魔たちが同時に転移陣に入り、それを確認した術錬師(じゅつれんし)の教官が転移陣を起動させる。転移陣で一度に移動できる人数は百人が上限で、序列が下位の者から順に演習場へと送り込まれている。今送られているのは絶頂の入気境に相当する潜魔たちだ。

 一つの演習場への移動が完了すると、今度は数人の教官が転移陣へと入り同じ演習場へと転移していく。こちらは監視役である。

 ちなみにだが、この監視役の教官はたとえ潜魔が危機に陥ったとしてもそれを助けることはない。ただ一つ例外として潜魔同士による同士討ちだけは禁止事項として止めに入ることとなっている。


「主君。冷仙月(れいせんげつ)以下、我ら【白龍十五翼】。臣下の皆を代表してご挨拶に参りました」


「「「主君にご挨拶申し上げます!」」」


 以前説明されたことをつらつらと考えながら、なんとなしに転移陣で移動していく面々を見ていると、そこへ冷仙月を始めとする臣下たちが話しかけてきた。

 この四年、幾度もの入れ替わりを経験しつつもその武功を磨き抜いてきた【白龍十五翼】の者たちである。


「ああ。ご苦労だな仙月、そして我が【十五翼】よ。皆も励め。死なぬ事は元より、その方らはさらにその先だ。仙月を除いた十五翼の者は超絶頂の境地に至って見せよ」


「「「はっ!」」」


 かつては剣としか話すことのなかった冷仙月もこの四年で大分性格が丸くなり、年齢を重ねることで容姿も相応に大人びてきた今では、【白龍十五翼】のみならず本座の臣下たちの中心にいると言っても過言ではない。

 そればかりか臣下たちの中で唯一本座に続き超絶頂の境地に到達したため、その実力と美貌が相まって【小仙女(しょうせんにょ)】と呼ばれることも増えてきた。最近ふとした時に零れるようになった笑みは、まさに真に光輝いて見えるほどである。

 ……ああ、これは惚気と取ってもらって構わぬ。あの日より暗黙のままに()()()()関係なのだ。


「そして仙月、身体をいとえ。超絶頂の境地に至ったそなたなら、本座と同様に単独で別枠となろう。あまり無茶をするな」


「はい、主君――いえ、慶雲師兄」


 まあ例え暗黙のうちに始まった関係とはいえ、剣越しであれば想いを伝え合うこともある。ゆえに何の問題もない、心が通じているのだからな。

 ……いや今のセリフには問題ありであるな。どうか聞かなかったことにしてくれ。我ながら寒気がするな。


「――では全員、武運を祈る」


 その後適当な雑談を続けているとようやく絶頂の極の境地の者が呼ばれた。

 やっと転移陣の順番が来た臣下たちに激励の言葉を送りながら転移を見届けていると、ふと少し離れたところから視線を感じる。そちらに意識を向けてみると、そこには焔牙魔君と共に潜魔館へとやってきた巨魔(きょま)の教官の一人がニヤニヤとした笑みを浮かべていた。罠に飛び込もうとする者を蔑むような笑みだ。


 フッ、まあ面白い。存分に楽しもうではないか。

 ……だからな仙月。本座の意識を追って斬りに行こうとするのはやめないか? あれはこちらが処理するから。頼むから大人しくしていてくれ。



◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 天魔仙跡:白蛇原始樹海 第六公子 白眉剣龍 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



「……うむ」


 転移が完了し、演習場となる【仙跡】へと無事たどり着いた本座は周囲を見渡して一つ頷いた。

 先ほどの寒気がする失言とヤンデレ仙月の暴走は、既に本座の中では無かったことになっている。


「初めての外出……いや、はじめてのおつかい、か」


 前世のことを朧げにしか覚えておらぬ本座にとって、ある意味今回の演習こそ初めての外出と言える。さらに試練で与えられた課題として『毒蛇に類する霊物(れいぶつ)内丹(ないたん)』の採取という任務まで存在する。これはまさに『はじめてのおつかい』であろう。


「……多いな。この周辺だけで相当数の生物がいるぞ」


 ワサワサと無秩序に伸びた木々や地面に降り積った何層もの枯葉の腐葉土。

 本座の【超感覚】には、樹の上や藪の中、枯葉の下といった場所に蛇を始めとした生物が蠢いていることも感じ取れる。同時に急に大きな気配が()()現れたことで生き物たちが警戒心を強くしていることを感じるが、そちらは今は良い。

 まさにそこは人の手の及ばぬ大自然であった。


「『鑑定』……【白蛇(はくじゃ)原始樹海(げんしじゅかい)】か。なるほど、その名に違わぬ場所であるな」


 鬱蒼としたというという言葉を具現化したようなそこは、まさに原始の森という表現が相応しい。

 白蛇というのは分からぬが、あるいはかつて誰かが白蛇の霊物とでも戦ったのかもしれない。


「となれば『領域型』か」


 この世界に存在するダンジョン群・【仙跡】の形態は大きく分けて三つ。

 天に伸びる建設物の形態をとった『城郭型』と、ある日突然現れた洞窟の中に生じる『洞窟型』、そして元々あった地形を取り込んだ『領域型』である。


 そして『領域型』は元々存在する場所を取り込むことから、その場所の地名やその場所であった印象的な出来事が名称として使われることがある。此度の場合は『白蛇』がそうなのだろう。

 まあ、もう少し深く『鑑定結果』を読み込めばその辺の事情も詳しくわかるのかもしれないがそうは出来ない理由があった。


「……まだ動かぬか」 


 本座が感じた蛇たちの警戒心の原因。その大きな四つの気配とは一つが本座自身のことで、残り三つは共についてきた教官たちの者である。しかも誂えたように焔牙魔君とともに新たに着任した巨魔級の達人たちばかり。

 すぐに気配を消して本座を包囲するように散らばってはいるのだが、わざと隙を見せても未だ仕掛けてこない。ただそれでも押し殺したような殺気から、ただの監視者で終わるつもりがないことだけは伝わってきている。


(いつ動く? いやこちらから動くように仕向けるか)


「貴様ら誰の手の者だ? 端木武閃か? 百里朱岳か?」


 本座の問いかけに隠れた三人の内二人の体がわずかに強張るのが分かった。

 丁度、二公子の名前が出た時である。


「フッ、二兄殿か……」


 あまりにも素直な反応に、本座は口調に嘲笑と呆れが混じることを避けられなかった。本座自身も予期せぬそれは迂闊と言ってしまえばそこまでだが、しかし挑発としては合格点であったようだ。


「……っ! やれっ!」


「「はっ!!」」


 嘲りの籠った口調に激高したのか、それとも正体がバレたと悟って腹をくくったのか。

 なんにせよ、かかってくるのであれば悪くはない。既にひと月も待たされているのだ。これ以上待つのは本座の望むところではない。


「フッ、そうだな。こちらの方が話が早くて良い!」


 巨魔級の達人、すなわち超絶頂の境地にある達人が三人。一人が超絶頂の極で、二人が本座と同じ超絶頂の熟練。

 この三人が【剣陣】による合撃陣を敷いて襲い掛かってくるとなれば、それは本来化境の達人であっても互角以上に戦えるものであり、同境地の者であれば抗えるはずもない暴力である。


「巨魔級の武人! すなわち階主たち三人を相手取るようなものだな! 相手にとって不足はない!」


 しかし本座に限ってはその限りではない。


「フッ!」


 この四年で積み上げてきたもの。

 武道においては超絶頂の熟練。

 術道においては魂力第三位階。


「フハハッ!」


 さらに秘笈書庫で得た数多の武功と、桃琳師匠から学んだ完全なる瞳術と呪法。

 加えて【覇体恒星身】と【明月錬魂法】は共に十成にまで至り、既に我が身は心身ともに【金剛不壊】の境地と言っても過言ではない。


「ハハハハハハハッ!」


 さあ、お手並み拝見といこうではないか。


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