【師弟之縁】と【萬術天魔】と『実践演習』
◇◆◇ 天魔神教 潜魔館 第五階層 私室 第六公子 白眉剣龍 日月慶雲 ◇◆◇
《術道の師と縁を結びました。サブシステム【師弟之縁】が起動します》
《おめでとうございます。報酬が付与されます》
《【丹薬・紫気魂念丹】十粒を獲得しました。【霊宝・養魂帝玉】を獲得しました》
《親子の縁が天倫ならば師弟の縁は人倫です。この縁を大切にしてください》
《【大試練・術道:第三位階到達】が達成されました。おめでとうございます。報酬が付与されます》
《『混元値』を50万獲得しました。【天賦・青華丹理】を獲得しました》
《【大試練・武道:超絶頂到達】が達成されました。おめでとうございます。報酬が付与されます》
《『混元値』を50万獲得しました。【天賦・流雲踏影】を獲得しました》
あの決勝の日よりざっと四年。
新入りの潜魔一号生たちの力を測ることが目的だったはずの第一次序列大戦は、紆余曲折というか大盛り上がりの末に本座の優勝に終わり、結果同年代の潜魔たちは一部を除きこぞって本座の傘下に入ることとなった。七魔の直系と天魔の御子があそこまで揃うことは大変珍しく、おそらく今後百年はこのようなことは起きないだろう。
今にして思えば……と言うほど昔の話ではないが、もし仮に将来自伝を書くのであれば、かの行事は本座の生涯にとって大きな転機として挙げられる出来事の一つであることは間違いない。
そして現在。
此度潜魔五号生となった本座は当然のごとく潜魔館の頂点に君臨していた。
◇◆◇
事が多かったこの四年。武道においては超絶頂、術道においては魂力第三位階に至り、さらに【潜魔序列】では一号生の途中より主座にあり潜魔館の頂点に君臨した。他にも修練施設に残る記録をすべて塗り替えたり、専任教官や階主たちを打ち破ったりと、我ながら随分と派手に暴れまわったものと言いたくなるような有様である。
だがそんな成就や偉業は数あれど、その変化の最たるものは別にある。
本座に【師匠】ができたのだ。
師の尊名は天桃琳。
現代においては【萬術天魔】の号で知られる、天魔神教の術道における比類なき偉人である。
もっとも今ここにいる彼女は萬術天魔本人というわけでは無い。
師の言によればであるが、彼女はかつて萬術天魔本人が神教の本拠地に敷いた【天外神魔大陣】に宿る陣霊(?)であり、同時に萬術天魔本人が作り出した自らの六つの魂体(?)の一体であるらしい。
すなわち、器物に器霊が宿るように術式である『陣』に宿った霊が陣霊であり、魂体とは萬術天魔が修める【六欲錬神重魂法】という錬魂法の秘術の産物である。
なお萬術天魔本人は今なおご存命であり、ゆえに霊と言ってもいわゆる幽霊のようなものではなく、本体から離れた生霊だとか幽体離脱中とでも考える方が分かりやすいのかもしれない。
さて、そんな説明からして難解な我が師であるが、その外見は『女傑』という言葉から連想されるような貫禄に満ちたものではない。
無論、これは貶しているわけではない。優れた武人が内功によって若さを保つように、卓越した術錬師は魂力によって肉体を最盛期に留めるため、たとえ五百年前の偉人であろうと、その見た目はせいぜい二十歳前後にしか見えないのである。
紫紺の長く美しい髪に、すっと通った鼻梁。
四肢は長く、体躯は均整が取れている。
面紗に隠された口元には艶めいたほくろが覗き、絶世の美女であることは疑いようもない。
しかし何より特筆すべきは、その瞳である。
魂体という霊体状態にあるがゆえ、本座の目には師の姿は半ば透けて見えるのだが――その双眸は淡く桃色に輝き、瞳孔の部分がハート型になっている。
そう、あれこそが師匠が本座に本気で惚れ込んでいる証……などでは断じてない。
あれは師が有する【天賦・瑶池重瞳】が顕在化したものなのだ。
ゆえに先ほどの無礼極まる戯言はどうか聞き流してほしいが、それでもなお、あの古き良きラブコメの恋慕的表現をその眼に宿した師匠から、『妾の弟子にならないか?』と誘われて『今時こんな惚れてますアピールの眼のヒトおる?』と思ってしまった本座は悪くないとは思う。
ともあれ、かくして本座には新たな師ができた。
そしてその導きにより、魂力を用いる功法や諸技を修める機会を得、さらには魂力も第三位階へと到達したのである。
……実は秘笈書庫の方でも大きな収穫があり、超絶頂の境地はそれによって到達したという奇縁もあったのだが、そちらについてはまた後日ということで。
◇◆◇
一般に天魔神教の教育課程には八年間もの時が掛けられている。
家門学習組という例外もあるが、基本的には五歳で親元を離れ幼魔館に入館、その後幼魔館で三年と潜魔館で五年の時を過ごし十三歳の時に卒業となる。
卒業後は数年の閉関修練に入り、その閉関修練の出関を以て冠礼(元服)して位階の授与が行われる。そうして初めて一人前の魔人として扱われるようになるのである。……一応ひとつ補足しておくのであれば、卒業と閉関修練は直通ではない。通常であれば潜魔館卒業後は一度家へと帰り、少し休んでから閉関修練に入るのが普通である。
つまり潜魔五号生とは潜魔館における最終学年であるとともに、神教の教育課程における最終段階でもあるのである。
しかしその一方で集大成であるはずのこの最後の一年は、最初と最後の一月を除いた十か月をここ潜魔館で過ごすことは無い。
潜魔五号生に与えられる潜魔館最後試練とは『実践演習』。
各学年の昇級試練を乗り越え、脱落の危機から今日まで生き残ってきた面々が、それぞれの力量に適した【仙跡】へと送りこまれ、そこで実戦経験を積みながら指令課題をこなし、その上で十か月間の生存訓練を行うのである。
現在の我ら潜魔五号生の人数は1254人。本座の臣下が1243人で、陸巌門の傘下が11人。
かつて一万を超える同期の潜魔がいたことを思えば昔日の感があるが、潜魔五号生への昇級の条件は絶頂の境地の到達であるゆえ大幅な減少は致し方ない。その上、例年であれば100人もいれば豊作と称されることを思えば、その十倍以上である今回もまた歴代最高記録であるし、錬丹を担当する術錬師の酷使が予想される人数でもある。
この試練で何人生き残るのかは知らぬが、あくまでこの世は『弱肉強食』であり『強者尊』。
【臣下共進】システムの【簡易機構】まで持たせているのだ。出来れば頑張って欲しいものよ。
◇◆◇
――おっと、そういえばもう一つ変化があったことを言い忘れていた。
潜魔館主が【斬拳魔君】から【焔牙魔君】へと変わったのである。
元々潜魔館には夢瞳魔尊が常駐しており、潜魔館主であった斬拳魔君も特に目立つようなことは無かったゆえ、ある意味どうでもいい人事と言ってしまえばそこまでなのだが、しかしこの【焔牙魔君】がどうにも引っかかるのだ。
本座の持つ【黒龍六眼】の能力の一つ、【計略看破】が『こやつは怪しい』と訴えかけてきておるようで、その堅物めいた顔の裏にある本座への警戒心と敵意がうっすらと伝わってきているのである。
まあだからといって既に決定した人事に口を挟めるほど、本座の立場は高くはない。
何気に【計略看破】が働いたのは初めてであるゆえ、これがこの後どう転ぶのかは定かではないが、如何なる策謀を練ろうとも諸共踏みつぶす所存である。
はてさて何が出るかな?




