【第一次序列大戦】後日談
◇◆◇ 天魔神教 潜魔館 第一階層 闘技場 第六公子 白眉剣龍 日月慶雲 ◇◆◇
冷仙月を破った決勝の後、幸いにして互いに治療を要するような傷は無かったため、場はそのまま表彰の儀へと移った。
今回の【序列大戦】の褒賞の授与は本選出場以上の者に行われ、本選出場者へのいわゆる参加賞は少魔丹一粒、ベスト64には少魔丹二粒、ベスト32には少魔丹三粒が与えられた。それ以上になると褒賞の少魔丹は魔精丹へと変わり、ベスト16には魔精丹一粒、ベスト8には魔精丹二粒が与えられた。
さらにベスト4以上となると魔精丹に加えて副賞も付き、ベスト4の趙誠と白刻影には魔精丹二粒と百錬精鋼製の武器が、準優勝の冷仙月には魔精丹三粒と玄鉄製の武器が、そして優勝した本座には魔精丹三粒と万年寒鉄製の武器が与えられることになっている。
随分と奮発するものよとも思ったが、既に本座には持て余すほどの名剣である母の形見【鋭寒】がある。ゆえに左程の興奮もなく聞き流していたのだが、後に続いた話を聞くに本座にとってそちらは唯の前座であったらしい。
表彰の儀の終わり際。我ら潜魔一号生の専任教頭とも呼べる二階主から、今後の序列戦と絶頂の境地に至った者が受けられる待遇についての説明が行われたのである。
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まずは序列戦についてだが、今後我ら潜魔一号生は潜魔館内の序列を決める【潜魔序列】へと正式に参戦することになるらしい。
今回の序列大戦で『至玉の世代』とも謳われるほどの輝きを見せた我が同輩たち。既に風評において『例年であれば今回の十六強の者でも優勝できた』とまで噂されており、『例年』呼ばわりされた二号生や三号生の警戒心を大いに煽っているそうだ。まあ実際のところ八俊の上位や金魔陸家の陸巌門、そして本座の両腕である白刻影と羅厳白など、その序列を脅かすであろう者は決して少なくない。正しい危機感である。
さらにその大豊作の中でも一際頭角を現し、【白眉剣龍】などという別号までついた潜魔一号生筆頭こそ本座である。
当然、出る杭は打たれるとばかりに上級生からの対戦希望が殺到し、本座はこの潜魔館で闘いの日々を歩むことになる…………となってくれたら良いのだが、残念ながらそうは問屋が卸さぬらしい。今のはただの願望だ。
事の次第を語ってくれた二階主の言によればであるが、言わずもがなと言うべきか、齢八つで絶頂に至るという理解が及ばぬ才への恐怖に二号生はおろか三号生までもが怖気づくだろうとのことである。
かといって絶頂の境地に達した者も少なくない四号生や五号生には一号生などという格下と戦っている暇などない。ゆえに対戦を希望する者はごく少数にとどまるとのことであった。
では戦う相手がいないのかと言うとそれは否、対戦を希望してくるその少数こそが最も重要であるとも。
他の者のように怖気ることなく、かといって無視することも無い。そのような者は確固たる目的がある人物である。腹に一物抱えていると言い換えても良い。
……はっきりと言おうか。天魔の御子である我が兄姉の手の者、あるいは兄姉当人が『名を売った弟』という名の危険分子に灸をすえにやってくるということである。
さて、ではかような危機が迫る中で本座はどうするのか?
二階主は本座の身を案じてこのような注意をしてくれたのだと思うが、残念ながら逆効果である。
いよいよ後継者争いの渦中に入っていくのだ。ワクワクするな?
◇◆◇
本来この天魔神教において、絶頂の境地とはすなわち【魔将】の位階にあることを意味する。
武力団の団主につくことが許され、運が良ければ天魔神教の最高部隊である護法隊への加入すらも叶う地位である。あるいはこの潜魔館の教官たちも【魔将】であることから、他者を教導できると認められた地位と言い換えても良いのかもしれない。
いずれにしても一廉の人物を表す位階であり、平凡な家系に生まれた平凡な才の持ち主が生涯をかけて目指す境地である。
しかし如何に外でそのような位階や役職を与えられようとも、ここ潜魔館は所属する全員の位階が【潜魔】へと固定される修練施設だ。ゆえに与えられる特恵は外の世界のそれとは異なり、あくまでこの潜魔館における特別待遇にとどまる。
潜魔館における絶頂の境地の特別待遇。
それは真剣の佩剣許可と個人修練室の貸与――そして潜魔館第八階層の秘笈書庫の閲覧許可である。
これを聞いた時の本座の心境は、先の序列戦や後継者争いの話がきれいさっぱり消し飛んだと言えばわかるだろうか?
今回の【序列大戦】にあってそうであったように、時に期待外れと言うものが存在する序列戦より断然こちらが優先である。
まずは【魔泉心法】の続きだ。絶頂の境地に至った今、六成成就まで一月もあれば十分であろう。
◇◆◇ 天魔神教 潜魔館 第八階層 秘笈書庫 第六公子 白眉剣龍 日月慶雲 ◇◆◇
秘笈書庫が存在する第八階層は許可証を兼ねた角牌を持っていなければ入ることができない。
この天魔神教において五指に入るほど重要な場所であるここは、各階層に存在する転送陣の陣核へと角牌をかざし、それを認証されることで初めて第八階層に入ることができるのである。
潜魔館自体が陣法で作られた【疑似仙跡】であるということはこれまで何度か伝えたと思うが、七魔直系家の神功絶学の秘笈すら存在する秘笈書庫は他の階層とは一線を画す警備を敷かれているのだ。
認証を終えて結界を抜け、まず目に入るのは万を超える書物と巻物で満たされた壁一面の書棚。四方の壁全てに存在するその威容は、本座にとって金銀よりなお輝いて見える宝の山である。
「さて……」
迷うことなく手に取ったのは【魔泉心法】の中巻と下巻。絶頂の境地に至り行き詰った本座にとって今一番必要なものである。まずは不足を埋め、超絶頂の境地への足掛かりとするのだ。
「清浄光明、大力知恵。天に善悪無く、魔に正邪なし。普天の……」
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本座は秘笈書庫に来るまで、物品の記憶を読み取る【在魂大法】が最も効果的なのは剣などの武器だと思っていたのだが、書物もなかなか捨てた物ではないらしい。いやむしろその功法に込められた深い【悟り】や【妙理】を思えば、武器よりも効率が良いのかもしれない。
既に魔泉心法の中巻と下巻を読み終わり、いつものように【無極之体】による同時修練を始めた本座は、七魔直系家の独門武功と刀魔三家の独門武功の秘笈を読み始めていた。
先の序列大戦における刀魔三家の朱明夏のように、武功成就が半端な者からはいかに本座と言えど半端にしか学び取ることができぬ。まあ率直に言えば続きが気になっていたのだ。
その最中に気づいたことこそ先述した【在魂大法】の使い方である。
確かに『武功の動きを確認する』あるいは『武功をどのように使ったのかを確認する』というような、動作や経験を読み取ることにおいては剣などの武器に軍配が上がることは間違いない。
しかしさらに深くにある『武功の一つ一つの動きの意図』や『そこに込められた妙理』を学ぶ場合において、そのことを強く思いながら書き記す秘笈が有利となることもあるようなのだ。
序列戦により実践経験を積み、秘笈書庫の武功で本座自身の武学の幅を広げる。
さらに今回もらった魔精丹三粒があれば本座の内功は三甲子(180年分)を超える。あるいは別の使い方も……。
――ともかく序列戦が多少物足りぬかもしれぬが、壁を超えるには十分であろう。
潜魔館を卒業する頃には超絶頂……いや化境だ。鳳雛ならぬ臥龍の名を欲しいままとして見せよう。




