【第一次序列大戦】其の七
◇◆◇ 天魔神教 潜魔館 第一階層闘技場 第六公子 日月慶雲 ◇◆◇
名門名家の達人たちがその後継者に優れた武骨を求める理由。
それは武骨の最大の特徴である武学の習得速度と悟性の強さにある。
名門名家の誇りであり柱石ともいえる神功絶学。極めて難解な武学であるそれらは、天賦の才なくば生涯の練磨を重ねたとて大成にたどり着ける者はそういない。
無論、類稀なる奇縁や過酷な修練の果てに悟りを得る場合も当然存在するが、優れた武骨の真骨頂とは、そのような過程を飛ばし人をより高い景色へと誘うことにある。
そして彼の場合。
◇【趙誠】
・種族:人族
・身分:潜魔
・地位:潜魔
・境地:一流
<天賦>武骨:極魔之体
血脈:天魔血脈
血脈:刀尊血脈
体質:無病長寿
<功法>心法:魔泉心法 四成
刀法:鬼霊刀法 八成
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Aランク以上の武骨が天才と称されるこの俗界において、それを遥かに凌駕するSランク武骨【極魔之体】に、天魔と刀魔の血脈による魔功と刀法への適性の増幅。さらに刀魔の伝承を受け継ぐ男のもとに【刀尊血脈】を持って生まれたという偶然と、それを十全に発揮するために与えられた霊薬などの資源。そして家門学習組の最大の利点である三年間の家門教育。
これら天凛と偶然、資源と教育が折り重なって出来上がったものこそ、九歳にして家門の基本功である【鬼霊刀法】を八成まで達成した英才・趙誠である。
あと一年もあれば絶頂にたどり着くとも噂される彼は、齢10で絶頂に至った天魔神教歴代最高の天才、太上教祖をも上回る成就が期待されている。
◇◆◇
――カンッ!
――カカンッ!
――コッ……ガカッ!
「――血進剣法第五招式、血響断空……フッ!」
「クッ! 鬼霊刀法第六招式、邪霊刎首!」
――ガガガッ!!
第九回戦はこれまでの八戦すべてを足した時間よりも長い戦いとなった。
しかし苦戦しているわけでは無い。
武学において本座の展開する【血進剣法】と趙誠の【鬼霊刀法】は互角であるが、その以外の内功・肉体・感覚のすべてにおいて本座に分があり、絡め手ともいえる【鬼霊刀法】の内に込められた音功による攻撃も【三頭千魔】の【冷徹無欠】と【超聴覚】の前には意味をなさぬ。
魂力に至っては修練した形跡すらなく、一方的に勝ちが拾えることは間違いない。例え瞳術以外にまともな術がなくとも、魂力を放射して精神を圧迫する程度であれば容易く可能なのだ。
これなる上は【瞳術・幻夢眼】のような鬼札を使わずとも、少しその気になるだけで勝負を決められることは明白であろう。
「血進剣法第三招式、血浸透破」
「鬼霊刀法第五招式、鬼哭刃震! ハァッ!」
――ギンッ!
ではなぜ未だに終わらせておらぬのか?
まず勘違いして欲しくないのだが、バカにする意図があっての手加減……いわゆる『舐めプ』をしているわけでは無い。ちゃんとした意図があってのことだ。
本座の此度の序列大戦における一番の目的が優勝にあることは間違いないが、ただ漫然と優勝を目指すだけでは非常に勿体ないと言わざるを得ぬ。
やはり志すは絶頂の境地であろう。
これまでの八戦において多種多様な戦闘経験を積むことも数多の武功を学ぶことで武学の幅を広げることも行ってきたが、それらはすべて絶頂の境地への壁を乗り越えるための助走。あるいは踏む台である。
そして踏み台というのであれば、このわずかの思考の間にも瞬く間に技量を上げどこまでも食らいついてくる趙誠もまた、素晴らしい踏み台……素晴らしい人材である。本座の武学を磨く上で、なんとも役立つ砥石であろうか。
「――鬼霊刀法第七招式、無痕鳴殺!」
「むっ!?」
「ハッ!」
――キィィンッ!
「……ほう?」
手に伝わるのは先ほどまでとは明らかに一線を画す衝撃。腕に残る痺れについ息が漏れる。
なにも音功の振動だけが原因というわけではあるまい。また技量が上がったか。
――――ィィン……。
今の一合。木刀と木剣が交わったにも関わらず、響き渡った音は金属音に近い。両者が一流の境地である以上答えは一つである。趙誠も一流の極、充剣……否、充刀の境地に至ったのだ。
「(大したものだ)」
目の前で息を切らしながらも、目を爛々と輝かせる趙誠を見ながら口の中でつぶやく。
今の一撃に渾身の力を込めたのか、これまでの怒涛の連撃が止まり鍔迫り合いの形となっている。内功においても体力においてもその限界が近いのであろう。
「さて……」
思いのほか粘る。というよりもエリートが持つような打たれ弱さが微塵もない。それに以前感じた野心を思えば邪なものを感じてもおかしくないというのにそれも感じない。
あと三手もあれば終わらせられようが……いささか勿体無いな。このまま比武を終えるのも、こやつを埋伏の毒として放置しておくのも、実に勿体無い。……欲しいな。
「フッ!」
――――ィィン……。
木剣を大きく薙ぎながら下がり少し広めの間合いを取った。大した距離ではないが、お互いの獲物が届かない程度には離れている。
広がった間合いにこれ幸いと息を整える趙誠の姿を観察しながら【鑑定眼】を向ける。
もし本座の予想が正しければ……。
◇【趙誠】
・種族:人族
・身分:潜魔
・地位:潜魔
・境地:一流
<天賦>武骨:極魔之体
血脈:天魔血脈
血脈:刀尊血脈
体質:無病長寿
<功法>心法:魔泉心法 四成
刀法:鬼霊刀法 九成 UP!
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……うむ、やはり【鬼霊刀法】が九成に至っていたか。
【鬼霊刀法】は快刀と重刀、そして音功の妙理が入り混じる七つの招式からできている。
鬼霊刀法第一招式、鬼影開閃
鬼霊刀法第二招式、追魂連斬
鬼霊刀法第三招式、奪魄快刃
鬼霊刀法第四招式、鬼門重潰
鬼霊刀法第五招式、鬼哭刃震
鬼霊刀法第六招式、邪霊刎首
鬼霊刀法第七招式、無痕鳴殺
それぞれが基本功とは思えぬほどに複雑であるがそれもそのはず、【鬼霊刀法】とはまさに天下二大刀法の一つに数えられる【修羅月剛刀法】の礎なのだ。
この年齢で八成に至っていただけでも驚嘆すべきことであったというのに、事ここに至ってまたひとつ限界を超えた。流石は【極魔之体】の面目躍如と言ったところか。
――――ィィン……。
――――ィィン……。
――だがそれは本座もまた同じこと。否、面目躍如というのであればSSランク武骨【無極之体】を持つ本座をこそというべきか。
――――ィィン……。
――――ィィン……。
――――ィィン……。
実は先程から剣音と振動が鳴り止まぬのである。
最初は【鬼霊刀法】の中でも特に音功と重刀の妙理を含む第五招式と第七招式を連続して受けた反動が残っているのかとも考えたのだが、時が経つにつれ剣そのものが音と振動の発生源であることに気づいた。
――――ィィン……。
――――ィィィィン……。
――――キィィィィィン……。
鳴りやまぬどころか徐々に強くなる剣音と振動。
気付けば本座の口角は隠しきれぬほどに上がっていた。




