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【第一次序列大戦】其の六

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 潜魔館(せんまかん) 第二階層私室 趙誠(ちょうせい) ◇◆◇



 『日月慶雲(じつげつけいうん)



 私が初めてその名を聞いたのは……いや、私に初めてその名を聞かせたのは誰だっただろうか?


 いや覚えている。

 父、【骸塔魔君(がいとうまくん)趙武奏(ちょうぶそう)だ。


 いつのことだったか、そして何の目的があってその名を教えられたのかはわからない。

 あるいは父にも大した意味はなく、同年代に天魔の御子がいるということを聞かせておきたかっただけなのかもしれない。


 ただ覚えていることは、私にとってその名は特に意識するようなものではなかったということだ。



 私が初めてその悪評を聞いたのはいつのことだっただろうか?


 悪評とは所謂(いわゆる)白葦公子(しろあしこうし)』の蔑称のことだ。

 連れていかれたどこぞの家の宴席でのことのような気もするし、口さがない門番の噂話からであるような気もする。

 確実に言えるのは、こちらは父からではないということだ。


 父は神宮を守る四神護法隊の一つである玄武隊の隊主。

 玄武隊の職務は神宮外苑の守護であり、他の護法隊は青龍隊が教主大殿を守り、白虎隊が祖師堂を、そして朱雀隊が後宮を守っている。

 つまりその手の噂話を集めるには苦労しない立場……というか、黙っていても耳に入ってしまうような立場だが、父はそのような愚かな噂話に興じるような人ではない。


 ただそれでも一つ言えるのは、その噂話を聞いた私の中に確かに芽生えた強い怒りと深い侮蔑。


 今となっては愚かな限りだが、風評に揺れてあの()()を心底見下し、その場所に産まれなかった自分に何より怒っていたのだ。

 その時の自分の感情を具体化するのであれば、『自らがいるべき場所を場違い甚だしい出来損ないが奪った』、だろうか。

 まったくもって度し難い。



 私が初めて六公子様を怪物と認識したのはいつのことだろうか?


 六公子様の幼魔館での偉業が皆の前で表彰されたあの時のような気もするが、あの時の私はそれを根拠もなく不正と断じていたような気もする。


 三成や四成の達成者の中に六公子様がいなかったことで、『出来損ない』という悪評が正しかったと思っていたところをひっくり返されたので、その動揺から強く怒ってしまったのだ。


 つい前日に()()陸巌門(りくがんもん)が容易く沈められたさまを見ていたはずなのだが、その時の私の思いは『白葦公子』に負けた陸巌門への侮蔑のみ。


 これもまた度し難いことだが、その後の序列大戦において日が進むごとに私の中での六公子様への畏敬が大きくなったことを思えば、あの時の私はただ目を背けていただけなのかもしれない。



 六公子様の怪物性の証明。

 それは一度見ただけの武功を再現してしまうこと……などではない。


 その程度であれば天才と呼ばれる者にとってそう難しいことではなく、実際に私であっても、運気要訣の再現は難しくとも動きを模倣するだけであれば容易く行えるだろう。過去に存在した【天武之体(てんぶしたい)】の持ち主であれば、運気要訣の再現すら容易く行ってしまうに違いない。


 では何をもって怪物と称するのか。


 元来、武功とは模倣から始まった技術だ。

 亀のように固く、馬のように雄々しく、そして虎のように猛々しく。

 野生動物の動きを観察し、それを模倣することで原初の武功は作られた。


 つまり観察と模倣は武功の原点ともいえる行いであり、現代においては師門の武功を学ぶための行いである。そのことを得意とする武人は決して少なくない。


 野生動物の動きを模して造られた原初の武功は、のちに道教や仏教、天魔神教などの宗教の内に入り、その教理や思想を基に長い年月をかけて洗練されることで今の形になった。

 この洗練の過程で重要視されたものこそ『妙理(みょうり)』であり、それこそが武功の根本だ。


 長い年月をかけて洗練され深く武功に組み込まれた『妙理』。


 それを悟ることは極めて難しく、例え三才剣法や五行刀法のような三流武功であっても、生涯気づきが得られない者も珍しくない。ましてや一流武功に類される霹靂刀法や波浪連槍、血進剣法のような基本功であれば猶のこと。


 だからこそ六公子様の成したことはあり得ないことだ。


 数多の先人たちが苦悩と苦行の果てに悟りを得て、ようやく手にした『妙理』。

 それを児戯の如く修め、玩具の如く扱い、遊戯の如くまったく別の性質を持つ既存の武功へと組み込んでいく。


 これを怪物と言わずしてなんというのだろうか。



◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 潜魔館(せんまかん) 第一階層闘技場 第六公子 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



 本日はいよいよ準決勝。この第九回戦は先の一夜が三日にも感じるほどに待ちわびたものだ。


 本来であれば不完全燃焼であった第八回戦の不満から、一日千秋では足りぬほどに待ちわびたはずなのだが、本座の試合の後にあった白刻影と陸巌門の大接戦により三日程度にまで減った次第である。


 外功で鍛えた体を頼りに相打ち覚悟で着実に打撃を与える陸巌門と、軽功と歩法を頼りに素早い動きで翻弄する白刻影(はくこくえい)

 百合(ひゃくごう)を超える大激闘により武器を失いながらも、最後には陸巌門の麻穴(まけつ)を突いた白刻影が勝利した。

 両者ともに実に見事であったといえよう。


 ……刻影の戦いは本当に見事であったのだが、指法も習得せずに外功修練者の穴道を突くような真似をしたためか、その試合が終わるころには指が何本か折れてしまっていたらしい。

 残念ながら刻影の今日の相手はそのような状態で勝てる相手ではなく、すでに今日の試合を敗北しこの【第一次序列大戦】を準決勝敗退、いわゆるベスト4で終えている。


 というわけで決勝の相手はおおかたの予想通り万剣冷家の冷仙月(れいせんげつ)に決まり、彼女はこちらの決着を待つばかりである。そろそろ本座の試合へと話を戻そう。


 本座の第九回戦の相手はすでに皆も察していよう、【八俊】序列一位の趙誠である。家門組の代表者として本座に挨拶したあの男だ。


 言うまでもなくこの男こそ、天才たちが集められた【八俊】の中でも例外たる二人のうちの一人。

 もう一人である冷仙月が、とある事情から他の八俊と同程度の才しか発揮できぬことを思えば、この【序列大戦】では唯一の障害と言っても過言では無い。


 ……ここまで煽っておいてなんであるが、今までのように期待外れの可能性も決してゼロではない。

 上げすぎたハードルの下をくぐる覚悟だけはしておいた方がよいやもしれぬな……。


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