【第一次序列大戦】其の三
◇◆◇ 天魔神教 潜魔館 第一階層闘技場 第六公子 日月慶雲 ◇◆◇
「そこまで! 勝者、陸巌門!」
「オオオっ!」
――おおおおおお!!
舞台上では陸巌門が勝鬨を上げ、それに呼応するように観客席から歓声が上がった。
此度の一戦は【八俊】の一人、刀魔三家の呉家の子息・呉泰峰と七魔の血統、金魔陸家の嫡男・陸巌門という第六回戦では屈指の好カードだ。
呉家の独門武功である【百重刀法】を振るい強力な攻撃を繰り出す呉泰峰と、赤手空拳でありながら呉泰峰の攻撃をまるで寄せ付けぬ陸巌門。
特に陸巌門の外功を活かした振る舞いは、本座をして見事としか言いようがないものであり、観客席の潜魔たちの盛り上がりも良く分かる。
「……いかがでしたか、我が君?」
「中々やるものだ。流石は【金剛不壊】で名を馳せた金魔の直系と言ったところか」
少なくとも以前軽く黙らせたことはもう忘れた方がよかろうな。それほどの成長を見せている。……あるいは一度叩かれたことで大きく伸びたか。
この試合を以てとうとうベスト16まで出揃った。
明日は第七回戦と第八回戦が行われ、第七回戦を勝ち上がった者は同日中に二試合することになる。
勝ち残った十六名は本座の勢力の者が六名、【八俊】が六名、残りの四名は名門名家の子息たちだ。この中には当然陸巌門の名も存在する。
本座はおそらく【八俊】の上位二名との連戦となり、白刻影と羅厳白の二人は両者ともに勝ち上がれば第八回戦、すなわち準々決勝で戦うこととなる。
「厳白。どうだ?」
……まあ刻影はともかく、厳白が勝ち上がることは難しいかもしれぬが。
「拙者、力の限りを尽くします……」
羅厳白の第七回戦の対戦相手は陸巌門。
嘘から出た真、いや願ったり叶ったりと言うべきかもしれぬが、以前ポロリとこぼした願望が見事的中した形である。
まあ壁に当たることは決して悪いことではない。出来れば乗り越えて欲しいものよ。
◇◆◇
槍術の基本は三つの動作から成る。
檻を打つように振り回す『欄』。
巻貝のように螺旋を描く『螺』。
押すように相手を貫く『擦』。
穂先の刃を利用する刺突武器でありながら、柄を利用した殴打も可能とする長柄の武器、それが槍である。
「第七回戦、日月慶雲対王地狼。はじめっ!」
王地狼。
七魔の一人である槍魔の血統を受け継ぐ槍海王家の嫡孫にして、【八俊】の序列にあっては四位に数えられる者だ。
せっかくの槍の名門との対戦ということで、当然今回も本座は対戦相手に合わせた木槍を持って舞台に上がっている。
上位四名のうちの最下位では少しばかり物足りぬようにも思えるやもしれぬが、その実力は第六回戦で戦った朱明夏とは一段以上の差が存在する。
王地狼の鑑定結果がこれだ。
◇【王地狼】おうちろう
・種族:人族
・身分:潜魔
・地位:潜魔
・境地:一流
<天賦>武骨:四象之体
血脈:槍尊血脈
体質:無病長寿
<功法>心法:魔泉心法 四成
槍法:波浪連槍
〇詳細情報を閲覧する YES/NO
見ての通りである。決して侮れるものではない。
もとより八俊の上位四名には、その全員にAランク以上の武骨と七魔の血脈が発現しているのだ。今は一段二段程度の差であるが、月日が流れるにつれ有象無象は当然のこと【八俊】下位四名ですら彼らの影を踏むことも許されなくなるであろう。家門の力も含めれば猶のことである。
「波浪連槍第一招式、波浪貫戟」
――おっと……。
【八俊】の上位と下位の格差に思いを馳せていた本座は、ようやく序列戦へと意識を戻した。
流石に気を抜きすぎたかと反省しつつも、迫る穂先に槍の柄を絡ませ攻撃を防ぐ。この程度の速度であれば、朱明夏との戦いから『快』の妙理を学習した本座にとってはなんら問題にならぬ。
【波浪連槍】とは槍海王家の独門武功である【大海荒天槍】の礎となる基本功だ。
槍魔より伝わる【神功絶学】である【大海荒天槍】は、全てを包み込む大海を究極の目標とする【柔】の極致に至った武功とされ、【貫海天魔】を号する祖父・天雲外の【破天神槍六式】と双璧を成す天魔神教における最高の槍法の一つである。
「波浪連槍第二招式、大渦旋突」
――ふっ……ッ!?
再び放たれた招式を迎撃すると、今度はこちらが絡めとられ巻き取られかける。いささか気を抜きすぎたか……いや、さすがは【柔】を追求した武功というべきか。
「波浪連槍第三招式、白波乱舞」
――?
ここで一つ違和感が芽生える。
何故次々と新たな招式を繰り出す?
本座が瞬く間に朱明夏の招式を模倣した前回の試合を見ていないのか?
あるいは本座が体勢を崩していたのであれば、追撃に打って出ることもわからぬでもないが、今の攻防は決してそのようなことは無い。先の一合も体勢が崩されたわけでは無く、むしろ苦も無くその招式を払い続けている。
「波浪連槍第四招式、渦潮連牙」
「フッ!」
芽生えた違和感を解消するため、新たに放たれた招式を今度は大きく吹き飛ばすように振り払う。
本座の膂力を受け流すように自ら後方へと飛んだ王地狼は、素早く体勢を立て直し冷静な面持ちでこちらに向き直った。
案の定である。まるで応えた様子はない。
本座の【超感覚】系の天賦が捉える王地狼の肉体は、呼吸が乱れることも心拍が早まることもなく、筋肉に過度な緊張が見られることも無い。
これまでは動揺を隠しているのかと考えていたのだが、これでは隠しているというよりも、最初から欠片も動揺していないとしか思えぬ。
「王地狼よ、何を思う?」
目論見通り距離を取らせることに成功した本座は、良い機会ゆえその考えを聞いてみることにした。
七魔直系家という家柄に産まれたこやつが、己がよりどころとなる家門の独門武功を破られて欠片も動揺が見れぬとはいかなることかな?
「なぜそのように次々と招式を繰り出す? 昨日の本座の一戦を観ておらんのか?」
「……」
「あるいはその上で模倣される前に勝負を決めようとしているのかとも思ったが、速戦即決を志しているにしては焦りが見られぬ。……今一度聞こう、何を思う?」
「……下教王地狼、六公子様にご挨拶申し上げます」
「ああ」
槍を構えたまま顔色一つ変えずに王地狼が応える。
本座の予想が当たっているにしろ外れているにしろ、何かしらの感情の起伏が見られればとも思ったのだが当てが外れたようだ。
「御下問にお答えいたします。我が家門の求道の先、極に至る『柔』において、不要な力みを生み出す怒りや焦りは大敵でございます。もし六公子様が私からそのような感情が読み取れぬことを不審にお思いならば、我が修練の結実かと」
「ほう? 力みを産む如何なる感情も生じぬと?」
「それこそが求める先でございますれば」
……なかなか興味深い。ならばこの一戦でやるべきことは決まったな。
「時に王地狼。いささか過剰な程に丁寧な敬語を使うではないか?」
「はっ」
「本座の下に着くか?」
「……許されるのであれば、この一戦で見定めたく」
予想通りの回答に笑みがこぼれる。
「許す。ならば本座は此度の比武、貴様の『柔』を超える『柔』にて勝利すると宣言しておこう」
先の一戦は快刀の名門・朱家の朱明夏に『快』で上回り勝利した。
ならば此度の一戦ですべきことは柔槍の名門・槍海王家の王地狼に『柔』で勝利することだ。
……ついでにこやつの思惑を崩してみようか。緊張を生むのは焦りや怒りばかりではないゆえな。




