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【第一次序列大戦】其の二

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 潜魔館(せんまかん) 第一階層闘技場 第六公子 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



 あれから数日。

 本日はいよいよ第六回戦、すなわち待ちに待った【八俊(はっしゅん)】との対戦である。


 ……であるのだがその前に、一応気にかける者もいるやもしれぬゆえ、第一回戦から第五回戦までの臣下たちとの試合も軽く語っておこうと思う。すべての試合においてリプレイの如き有様なれば一度きりでご容赦願おう。


『参ります! ハッ!』


――カンッ! (振り下ろされた剣・刀や突き出された槍を弾く音)


――シュルッ! (不安定な体勢のまま振るわれた剣・刀・槍を絡めとる音)


――スッ…… (無手となった相手の首に剣を突き立てる音)


『……参りました』


 以上だ。


 招式の乱れをついて弾き、死に体となった武器を奪い、隙を見つけて剣を出すことで欠点を指摘する。


 これまでの臣下たちとの対戦は、比武の名を借りた指導のようなものであり、皆がみな同じような過程をたどった。ワンパターン極まりない。

 諸君らにも、本座が今日の戦いを待ちに待ったと称する理由が欠片でも理解できれば幸いだ。


 さて。

 かような何の面白みもない単調な比武も、すでに終わったことなればもうどうでもよいこと。

 ある意味今日この日こそ本座にとっての初対戦である。気合を入れていこうか。


◇【朱明夏(しゅめいか)

・種族:人族

・身分:潜魔

・地位:潜魔

・境地:一流

<天賦>武骨:三才之体

    体質:無病長寿

<功法>心法:魔泉(ません)心法 四成

    刀法:霹靂(へきれき)刀法(とうほう)


〇詳細情報を閲覧する YES/NO


 本日の対戦相手である【八俊】のひとり、序列五位の朱明夏の鑑定結果がこれだ。


 保有するのはBランク武骨。

 【体質・無病長寿】が発現している以上それなりの霊薬なり丹薬なりを服用しているのだろう。

 この時点でその将来が明るいものとなることは疑いようがない。一般に天才と持て囃されるだけの事はあるようだ。


 朱明夏の家門である朱家は『快』と『幻』を重視する刀法の名家である。

 七魔の血統という訳では無いが、七魔の一人である刀魔に存在した三人の弟子の内の一人が興した家門とされ、天魔神教においては天家や七魔家を除けば最も古く力ある家柄である。


 刀魔の正式な別号は【音刀(おんとう)魔尊】。

 かの()()は音功と刀法で名を馳せた武人であり、三人の弟子たちはそれぞれに、音功を受け継ぐ者、重刀を受け継ぐ者、快刀を受け継ぐ者として別々に家門を興した。


 現代においてもそれぞれの家門が長老(魔尊)を排出しており、刀魔三家と呼ばれる彼らは長い年月を経て尚、天魔神教を支える柱石の役割を果たしている。


 ちなみに刀魔は始天魔の第二夫人でもある。ゆえに刀魔の直系は天家とも言え、天魔の弟を父に持つ趙誠(ちょうせい)に【刀尊血脈】が発現したのはそういうわけだ。



◇◆◇



「第六回戦、日月慶雲対朱明夏。はじめっ!」


 ついに始まりし本番。

 せっかくの刀法の名門との戦いということもあり、本座は刀を持って舞台上に立っていた。念のため言っておくが木製である。


霹靂刀法(へきれきとうほう)第一招式、霹靂斬(へきれきざん)!」


五行刀法(ごぎょうとうほう)、木行」


――カンッ!


 まずは一太刀。

 なかなかに素早い。


 彼女が使う【霹靂刀法】は彼女の家門・朱家の【基本功】であり、朱家が誇る【神功絶学(しんこうぜつがく)】・【玲瓏(れいろう)雷華(らいか)刀法】の礎となる『快』の妙理が込められている。


 それに対して本座のそれは、基礎武功である【五行刀法】。


 本来であればその剣速……否、刀速は比較にもならぬはずであるが、そこは本座の【覇体恒星身(はたいこうせいしん)】である。

 その桁外れの肉体と身体能力を頼りに加速する刃は、始動が後手に回りながらも両者の中央で交わった。


「……っ!?」


 朱明夏の表情に動揺が走る。


 さもありなん。基礎武功で家門の独門武功(どくもんぶこう)の妙理を凌駕されたとあれば、動揺するのも致し方なし。

 しかし本座がそのような隙を見逃すはずもなく、返す刀で追撃の一手を放った。


「五行刀法、火行」


「っ! 霹靂刀法第二招式、雷獣出洞(らいじゅうしゅっとう)!」


 再び刃は交わり、本座と朱明夏は同時に後方へと飛ぶ。


 膂力と内功では本座が勝っているはずなのだが、三流武功である【五行刀法】と一流武功に類される【霹靂刀法】では、その運気要訣の影響で威力に大きな差が存在する。

 無論ただ力負けして吹き飛ばされたわけでは無く、ほぼ自ら後ろに飛んだのだ。……まあ予想以上の威力であったことも否めぬがな。


 かように華奢(きゃしゃ)な細腕であると言うのに……。


「くっ! 霹靂刀法第三招式、雷鳴刃網(らいめいじんもう)!」


「五行刀法、土行、金行、水行」


 開いた両者の距離を瞬く間に詰め、さらなる連撃を仕掛けてくる朱明夏。

 本座は【五行刀法】の残りの三招式を連続して繰り出して迎撃する。

 繰り出すごとに威力が増す斬撃は、網を張るように刀を振るう朱明夏を容易く吹き飛ばした。


 【五行刀法】は特異な武功である。

 通常の武功は、第一招、第二招、第三招と後半の招式ほど強力なものとなり威力が増していくのだが、五行刀法にはそのような性質はない。

 五行刀法の誇る五つの招式はその性質にこそ差はあれど、威力には差がほとんどないのである。


 ただそれだけであっても『快』、『柔』、『重』などの様々な性質を学べる基礎武功といては素晴らしい武功なのだが、実はもうひとつ特異とされる特徴がある。

 五行相生(木→火→土→金→水→木)の順に従い招式を展開することで、威力を増加させていく特性があるのだ。


 その五行相生の連環が生み出す威力は、霹靂刀法の第三招式を容易く弾き飛ばしたことからも感じ取れよう。


「……お見事ですね、六公子様。こんな凄い人になんであんな悪評がついていたのか。理解できませんよ」


「……そうか」


 速戦即決の狙いが崩れたのか、体勢を整えた朱明夏が話しかけてくる。


 そもそも悪い風評が流れていたことすら知らなかった本座に、そのようなことを言われてもという話ではあるのだが、答えを期待しての問いかけではあるまい。

 否、そのようなことよりも――。


「それで?」


「……はい?」


「まさかこれで終わりではあるまいな? 霹靂刀法は全九招と聞くが?」


「……っ」


 黙して語らずであるが、その顔には図星と書いてある。

 馬鹿正直……というよりも経験不足であるな。蝶よ花よと育てられたわけでは無いのだろうが、それでも未だ齢八つ。百戦錬磨というわけにはいかぬ。


 無論いかに経験が足りずとも、基礎武功で名家の独門武功は格が違う。

 本座の場合はBランクとSSランクという武骨格差、保有する天賦の格差、さらには肉体性能の格差に内功の量の違いという圧倒的なアドバンテージを有するため、負ける方が難しいという状態であるが、()()()()()()に勝つことは困難を極めると言っても良い。


「ふむ……こうか? 霹靂刀法、霹靂斬」


 ――本来であれば。


「――っな!? くっ! へ、霹靂斬!」


――ガンッ!


「雷獣出洞」


「雷獣出洞!」


――カカンッ!


「雷鳴刃網」


「雷鳴刃網!」


――ガカカカンッ!


 すべてを見通すかのごとき【超視覚】に加え、【黒龍六眼(こくりゅうりくがん)】の【解析眼(かいせきがん)】と【心眼(しんがん)】。


 これらの【天賦】が合わされば、いかに独門武功といえど目の前で展開されている【基本功】程度であれば見取ることなど造作もない。

 より高邁(こうまい)な【上乗(じょうじょう)武功】や【神功絶学】であるならばまだしもな。


 鏡合わせのように同じ招式が繰り出され、両者の間でぶつかり合っていく。

 そうなればその趨勢(すうせい)は、より内功と外功に長けた方へと傾くこととなる。

 すなわち本座の方へと。


 そしてそれに気が付かぬような朱明夏ではない。


「霹靂刀法第四招式! 雷轟断閃(らいごうだんせん)! シッ!」


 裂ぱくと共に振りぬかれたその刃はこれまで以上の力強さと、なによりこれまでとは一線を画す()()を備えていた。


 ほう、やはり隠していたか。意外でもないが……切り札ということか?


 迫る刃を観察しながらも思考を止めることは無い。【三頭千魔】の【天脳覚知】と【理智海賢神功】はその思考速度を爆発的なまでに高めた。


 ――ふむ、違うな。

 軸がぶれ、歩法がばらつき、なにより刀路が歪んでいる。未だ未完成の練習中と言ったところか。


 そんな不完全な招式で勝負をかけようなどとは。


「片腹痛い。霹靂刀法第一招式、霹靂斬」


 まずは歪んだ刀路を走る刀を叩き、招式を壊して体勢を崩させる。


「くぅ!」


 次に再現だ。

 完全な形での第四招式を見た訳ではなくとも、朱明夏の不完全な体勢から招式に込められた妙理は伝わってくる。


「霹靂刀法第四招式、雷轟断閃」


 ――正しくはこうであろう?


「……参りました」


 驚愕の眼差しで首に添えられた刀を見る朱明夏。

 瞑目の後、降参の言葉が漏れた。


「勝者! 日月慶雲!」


 対【八俊】戦、まずは一勝であるか。

 なかなか良い勉強となった。

 下位四名のうちの一人でこれなのだ、上位ともなれば如何ばかりか。

 先が楽しみである。


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