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【天魔君臨歩】と【基礎武功】

◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 潜魔館(せんまかん) 第一階層闘技場 第六公子 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



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神教万歳(しんきょうばんざい)! 天魔不死(てんまふし)! 万魔(まんま)仰伏(ぎょうふく)!」


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「「「神教万歳(しんきょうばんざい)!!! 天魔不死(てんまふし)!!! 万魔(まんま)仰伏(ぎょうふく)!!!」」」


 その姿は天魔神教の神に相応しい威容であった。


「恩恵に感謝せよ! あの御方こそ我ら万魔の君主にして天魔神教の神! 天魔至尊にあらせられる!」


 ほんの少し。

 ほんの少しだけ高く、天魔()の足が上げられたのがわかった。


「刮目せよ! これなるは正派の悪夢にして! 君臨せし魔神の一歩!」


 その足が下ろされると同時に。


 大地はひっくり返った。


「天魔君臨歩!」


 衝撃波と共に襲う膨大過ぎる内功は、瞬く間に我ら潜魔たちの意識を刈り取る。


 ………………あぁ、なんと素晴らしい。


 薄れゆく意識の中そう思った。



◇◆◇ 天魔神教(てんまじんきょう) 潜魔館(せんまかん) 第二階層 第六公子 日月慶雲(じつげつけいうん) ◇◆◇



 人が空を歩き、大地は割れ、空間は鳴動し、踏み出した足が天地を覆す。

 神にも等しき天魔の武威。


 それを目の当たりにした本座たちは、当然のごとく興奮の冷めない眠れぬ夜を過ごした。……あるいは気絶していたことも眠れぬ要因かもしれぬが。


 そして一夜明けた本日、とうとう念願の武功教育が始まるのである。


「今日から貴様らには本格的な武功を教える!」


「「「おお……」」」


 二階主の膨大な内功の籠った大声が響き、高揚の混ざったざわつきが起こった。


 ここは潜魔館第二階層の一室。

 本座を含め400名の初年度潜魔がこの部屋にいる。


 我ら初年度潜魔は武功境地ごとに組み分けがなされ、ここに集まる第一組は一流の境地に達している者が集められている。魔泉心法でいえば四成の境地にある者たちだ。

 ここにいない者たちはそれぞれ二流の境地である魔泉心法三成の者と、三流の境地である魔泉心法二成以下の者に分けられ、それぞれの組が500名前後となるように分配されている。


 本座は魔泉心法五成を成した身であるが、武功境地自体は一流のため、こちらの第一組へと分けられた。絶頂の境地に至れば変わるかもしれぬが、とりあえず今は他の者と一緒だ。


 ちなみに現在の初年度生の人数は10737名であるゆえ、だいたい20組ほどに分けられていることになる。

 神教全土から集結しているだけありなかなかの数だ。管理者の苦労が偲ばれる。


「ここにある武器は、この武林において最もよく使われるものだ! 剣・刀・槍! この三種が武器術の基本となる!」


「「「おおっ!」」」


 組み分けで離れた臣下たちに思いを馳せてると、壇上で話す二階主の前には何時の間にやら教官たちが並び、その手に持つ武器を掲げていた。

 当然、剣・刀・槍の三種である。


 掲げられた武器の放つ煌めきに心奪われたのか、皆が期待の籠った笑みを浮かべながら歓声を上げた。まあ、気持ちはわかる。やはり武器というものは人の本能をくすぐる力があるのであろう。


「これからこの三種の武器に加え、拳法と歩法の基礎武功を授ける! 剣法は三才剣(さんさいけん)! 刀法は五行刀(ごぎょうとう)! 槍法は七星槍(しちせいそう)! 拳法は六合拳(りくごうけん)! 歩法は風雲歩(ふううんほ)! 貴様らは全ての基礎武功を学んだ後、一生を共にする武器を選ぶことになるだろう!」


「「「はっ!」」」


 武功の名称が聞こえる度に、皆が笑みを深めた。

 ようやく武人としての人生が始まるのだ。気が高ぶらぬはずがない。


「昨日、教祖様にお見せ頂いた武功は覚えているな!? あれこそは【天魔君臨歩】! 天魔を象徴する歩法であり、この武林で最も高度な武功である天魔武芸の一つである!」


「「「……っ!」」」


 皆が身を固くする。その原因は緊張かあるいは興奮か。


 当然忘れられようはずもない。

 あれこそが神教の君主であり神。

 誰しもがその武威を眼に焼き付けているのだ。


「だがいかに天魔至尊であろうとも、その武学の全ては基礎からで始まっているという事実を忘れてはならん! これから貴様らに授ける物は、貴様らの絶対達人への第一歩となるだろう! 武功を身に着け、技を磨き、神教の新たなる力となるのだ!」


「「「「おおおおおおお!!!」」」」


 凄まじい熱の籠った二階主の言葉に皆が拳を突き上げた。

 

 無論、多くの者が絶対達人など望むべくも無いことは言うまでもなく、今の言葉は夢物語でしかないのだろう。

 諸君らは、身の程知らずと罵り、『井の中の蛙、大海を知らず』と称するだろうか?

 だが本座は『されど空の蒼さを知る』と付け加えたい。


 ここにいる者たちがどのような道を歩み、どれ程の境地に至ろうとも、この想いを初心とするのであれば、誰しもがその憧憬への歩みを止めることはないだろう。


 『弱肉強食』にして『強者尊』。

 二千年以上に渡って育まれてきた天魔神教の根幹がそこにはあった。


◇◆◇


 二階主の激により火がついた第一組の潜魔たち。

 その興奮と歓声が冷めやらぬ中、気がつけば壇上には一人の男が立っていた。


「静まれ! これより神教の偉大なる魔尊がひとり、夢瞳魔尊(むどうまそん)様よりご指導頂く! 傾注せよ!」


 その男は一見青年のような面持ちであるが、二階主の言によれば魔尊の一人であるらしい。


 神教において、否、武林において、一定以上の境地にある武人には返老還童(へんろうかんどう)が起こり、その外見年齢と実際の年齢が釣り合っていないというのは有名な話である。

 本座の祖父である【貫海天魔(かんかいてんま)天雲外(てんうんがい)は、本座の父である【崩月天魔(ほうげつてんま)天武宗(てんぶしゅう)と比べても若く見えるほどなのだ。察するに神教の上層部の外見年齢は若者ぞろいとなっているのであろう。


「幼魔・潜魔両館の最高責任者、夢瞳魔尊じゃ。無駄なことは喋らぬ。心を楽にして受け入れよ」


 声も若々しいな、まあどうでもよいが。それより、心を楽にとはどういうことだ?


「『瞳術(どうじゅつ)開眼(かいがん)幻夢眼(げんむがん)』」


◇◆◇


 白、白、白、白。上下左右、どこを見ても真っ白だ。

 夢瞳魔尊の術は我らを夢幻の世界へと連れ去ったらしい。


 ……真面目に現実的な話をするのであれば、【術道(じゅつどう)】に類する術の一種である【瞳術】により、本座の精神に干渉して心象世界(しんしょうせかい)を作り出したらしい。

 ……まあ心象世界とやらが何かは本座にも分からぬが、【鑑定】で視た限りではそのように説明されている。


 【瞳術】という名だけしか聞いたことの無い術で構成された白い世界。

 これからここで何が起こるのか……。

 とりあえずただ佇んでいるのも勿体無いということで、いろいろと観察してみることとした。


 まずは情報をということで、定番の【鑑定】でより深い情報を探ってみたり、初めて見る術道の技術ゆえ【魂力】で探ってみたり。ただ思いつくままに手法を変えて観察していると、いつの間にやら目の前に影のように黒い人形が存在していた。


『…………』


 何をしゃべるということも無くただ佇んでいる黒い人形・黒形は、のっぺりとした顔つきながら、全身の筋肉と血管が忠実に再現されていることが見て取れる。この分では内臓や穴道も再現されているのであろう。……少し気持ち悪いくらいだ。


 その姿は諸君らには名探偵コ〇ンに出てくる犯人のシルエットと言えばわかるだろうか? あれの解像度があがって筋肉や骨格がわかりやすく見えている感じだ。

 あるいはサ〇ンパスのCMに出てくるCGキャラクターを黒く塗ったものを想像してみても良い。


 しばらく見つめ合っていた(黒形に眼球はないが)のだが、ふと気づくと何故か一本の木剣が本座の手の中にあった。

 

『……三才剣法。開』


 突如として手中に現れた木剣に興味を惹かれ視線を黒形から背けると、今度は黒形が急にしゃべりだし舞うように動き始めた。

 慌てて木剣から目を離して視線を戻すと、動き始めた黒形の手の中にも木剣があり、言葉と共に始まったその動きは簡易な動きで構成された剣法のようである。

 これが三才剣法なのであろう。


『……三才剣法。複』


 三才剣法はその名の通り、三招式で構成された剣法である。

 冗長的な動きも複雑な変化も存在しない三才剣法の演武は、こうして考えている間にも終わり、黒形はまた一言のみを発し元の棒立ちに戻った。


「……ふむ」


 少しの間様子を見るも再び動く気配は無い。だがこれ以上観察する必要もなかろう。今日の目的を思えば何をさせたいのかは明白である故な。


 学ぶは真似る。

 『複』ということは真似をしろということだ。


「さて……、三才剣法。開」


 まずは剣からか。

 それでは始めるとしよう。


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