第21話 【天魔神教】の元劣等生
◇◆◇ 天魔神教 潜魔館 第二階層 第六公子 日月慶雲 ◇◆◇
本座の壮大にして偉大なる決意から数日。
我らはすでに幼魔館を巣立ち、潜魔館へ入館していた。
ここ潜魔館には我ら新疆本館出身者を始め、各地に散らばる幼魔館分館の出身者と、幼魔館を経ずに潜魔館に入館することを選んだ家門学習組が集められている。
流石は神教の未来を担う子供たちの修練施設というべきか。
その総数は本座と同年の者だけでも10000人を超え、管理者たる洞主や教官衆の激務が憂慮される限りである。
……潜魔館は五学年ゆえ、単純計算で50000人か?
すごいな、神教の未来。
そんな新たな環境にあってまずすべきことがある。
人間関係の潤滑油であり、これさえやっておけば礼儀知らずには思われぬ行い。学生あるいは社会人の諸君ならばもうわかっておろう。
そう、挨拶である。
……やはり挨拶、挨拶は全てを解決するっ……!?
まあ、冗談はさておいて。
真面目な話、幼魔館がそうであったように、ここ潜魔館であっても天魔の血筋は特別扱いされるわけでは無い。
教官たちから特に丁重に扱われるわけでもなく、住環境も食事内容も血筋で配慮されるということもない。修練内容も他の者と同一のマニュアルに沿って行われるのだ。
ただそれでも天魔の血筋への敬意を忘れぬため、同学年に天魔の御子がいた場合は『挨拶』をするという暗黙の了解があるらしい。
これはその時の話だ。
◇◆◇
「フン、貴様が【白葦公子】か。俺様は偉大なる七魔の一人・金掌魔尊が末裔、陸巌門だ。貴様はまともな武骨も持たぬクズだそうだが、仮にも貴き天魔の血筋だ。大人しくしていれば見逃してやろう。せいぜい目立たず過ごすことだ」
――強い侮蔑、軽蔑、そして自尊心。
……分かりやすいな。確か甘粛第一分館のトップだったか?
なにやら勘違い宣言を高らかに語り、それに満足したのか肩で風切って去っていく。
その背中にとりあえず鑑定。
◇【陸巌門】
・種族:人族
・身分:潜魔
・地位:潜魔
・境地:一流
<天賦>武骨:四象之体
血脈:金尊血脈
体質:無病長寿
<功法>心法:魔泉心法 四成
外功:狂象剛鉄功
〇詳細情報を閲覧する YES/NO
――ふむ、Aランクの武骨に七魔の一人である金魔の血脈・【金尊血脈】、更に幼児期に何らかの霊薬を飲まされているようだ。なかなか悪くない。
金魔の別号は【金掌魔尊】。
外功と掌法で名を残した武人なれば、その子孫もその流れを組むと見て間違いあるまい。事実、既に外功をある程度学んでおるようだしな。
うむ、臣下への砥石役に丁度よさそうだ。特にどこか名前の似ている羅厳白の当て馬にぴったりだな。
たしか甘粛第一分館は大体2500人位だったか。その中で頂点に至ったことは評価しよう。
次。
「お目にかかれて光栄で……」
つまらん。次。
「ご尊顔、拝謁叶いま……」
こいつもつまらんな、次。
「「六公子様にお会いできまし……」」
次!
「お初にお目にかかります六公子様。骸塔魔君が子、趙誠がご挨拶申し上げます」
――侮り、好奇心、自尊心。そしてそれらに隠れているのは……強い野心だな。
うむ、悪くない。
先程省略した者たちは甘粛第二分館と青海第一・第二分館の代表者たちだ。
そしてこやつは潜魔館からの入館となる家門学習組の代表者。
どいつもこいつも判を押したように同じことしか言わぬな。陸巌門の勘違い宣言の方がマシに思えてくるわ。
ちなみに自らの勢力を築いたトップと代表者とでは、全く違う意味を持つ。
例えるのであれば、封建制の君主と絶対王政の君主。あるいは戦国時代における国人領主の寄り合いの盟主と戦国大名。
力を振るってトップを勝ち取った者とは違い、対話や談合で代表者の座に就いた者は、やはり誰一人としてパッとしない。二人が代表者として挨拶に来た分館もあったくらいだからな。
だがこやつはどうだ?
代表者ではあるが、幼魔館の外で他家の子息を部下にするわけにもいかぬ以上、それは判断材料にはなりえぬ、はずだ。
少なくともある程度の部下はできても、大きな勢力を築くことは難しかろう。大人同士の利害関係や人間関係があるからな。
となればどのようにして代表者の座に就いたのかな?
ふむ、取り合ったのか、あるいは押し付け合ったのか……。
そもそも家門学習組は本座をどう評価している? いやそれ以前にどの程度本座の情報を抑えておる?
……やはりもっと情報が欲しいな。
こやつ自身もそうだが、他にもちらほらと侮りを見せる者がおる。
少なくとも、そやつらは本座の魔泉心法が五成に達していることを知っているとは思えぬな。
だが、それにしては侮りを見せぬ者もいる。表情に出さぬということか、そもそも本座に対してあまり興味がないということも考えられるか?
まあ他の者にも興味はあるが、そちらはおいおいだな。
とりあえず鑑定。
◇【趙誠】
・種族:人族
・身分:潜魔
・地位:潜魔
・境地:一流
<天賦>武骨:極魔之体
血脈:天魔血脈
血脈:刀尊血脈
体質:無病長寿
<功法>心法:魔泉心法 四成
刀法:鬼霊刀法
〇詳細情報を閲覧する YES/NO
……強い野心、か。なるほどな。
趙誠、野心を抱くに相応しいだけの凄まじい才能の持ち主だ。
Sランクの武骨・【極魔之体】に加え、傍系にも関わらず【天魔血脈】を有し、更には七魔の一人である刀魔の血脈・【刀尊血脈】も保有しておる。
さらにこやつの父親は天魔の信頼厚い親族である骸塔魔君だ。その子供となれば血筋も悪くない。
……ああ、言い忘れていたがこやつの父親である【骸塔魔君】は、かつて後継者争いで現天魔である本座の父に敗れ、服従することを選択した叔父上だ。
つまり趙誠は本座にとっての従兄弟ということになる。
ただ現天魔と骸塔魔君は異母兄弟であり、いささか血が遠いとも言える。
少なくとも本座は、天家の複雑な家庭環境という前提を差し引いても、こやつと従兄弟であるという認識はあまりない。
話を戻すが、確か骸塔魔君は母方からの繋がりから三公子に仕えているはずだ。
三公子にとっては、丁度本座にとっての【焔刀魔君】のような存在であり、本来であればこやつもそれに倣うはずなのだが……。
いや、これほどの才能と血筋を持つのであれば、その野心も理解できるというものだ。『強者尊』を掲げる天魔神教においては、三公子を、いや天魔の御子を差し置いて至尊の座である天魔を志す可能性も十分にある。
……うむ、なかなか面白いな。この予想が当たっていれば、こやつは本座の競争相手の一人である三公子にとっての獅子身中の虫だ。
すでに潜魔館を卒業している三公子は、今は手が出せぬ相手だ。こうなれば、趙誠は暫くは泳がせておくのが吉か。
本座にとっても競争相手が増える形にはなるのであるが、それこそ今更というもの。
まあ、こちらに手を出してくるようであれば潰すが、そうでなければわざわざ相手してやることは無い。
こやつも三公子も、いずれは本座の踏み台になってもらうとしよう。
◇◆◇
ちなみに【白葦公子】とは本座の蔑称らしい。
白葦とは荒地を意味し、此度の場合は転じて才能のないという事だな。
本座の白を思わせる外見とかけたのだろうが、なかなかよく出来た蔑称よな。
天魔の血筋とはすなわち武林最高の血筋。
故にどれ程出来が悪いと称された人物であっても、武骨ランクにしてCランク以上の武骨を持って生まれたと聞く。
そしてそれほどの血統に生まれたとんでもない無能が本座というわけだ。
これまでまったくもって意識したことなどなかったのだが、本座はそういう意味でも歴史に名を残しかねんような劣等生であったらしい。
『【天魔神教】の元劣等生』
これは売れるな。
……いやこれは冗談だが、本当に冗談抜きで血統に泥を塗るとして赤子の時に処理される危険性も十分にあっただろう。
これは少し違うが、Cランク以上確定のガチャを回してFランキャラが出てきた時にも似ている。
本座であれば、無言で売却なり還元なりして見なかったことにするが諸君ならばどうだ?
同じ対応をするという者も少なくないのでは無いだろうか?
おそらく六男という上に何人もいるような立場であったことと、長男あるいは甥を亡くした母上と伯父上に気を遣ったというところだろうか。
……ふむ、別にだからなんだという話ではないが、せめて母の顔に泥を塗らぬ程度の活躍はせねばなるまいな。
この辺りの情報と推察は【白葦公子】という蔑称について白刻影から聞きだした時のものだ。
正直なところ、高位層の子女と話す機会自体がほとんどなかった故、蔑称という情報であっても更なる情報の礎として十分に有益だ。
……ん? ああ、たしかに白刻影も高位層の子女ともいえるが……まあ、な。
いや、あやつは日月慶雲過激派なのだ。
本座の蔑称など死んでも口にせんだろうし、それに繋がる情報なども期待薄であろう。
今回のことも無理やりに口を割らせた結果だ。それ以外の本座の悪口になりかねん風評は言わずもがなだ。
とはいえ禁制から解放された今であれば、他の臣下からの情報収集も可能であろう。これからは日月宮に閉ざされていた本座が知りえぬ情報を聞いていかねばならぬ。
趙誠をもって甘粛第一分館・甘粛第二分館・青海第一分館・青海第二分館・家門学習組のトップあるいは代表者の挨拶は終わった。
陸巌門と趙誠、面白そうなのはこの2人だけであった故、本座の臣下の中に入ってしまっては埋もれてしまうような没個性の他の4人は割愛する。
ただ、挨拶に来なかった者たちの中にも興味深い者はそれなりにいる。特に家門学習組にはな。
フハハッ、楽しみなことだ。
それと例の勘違い宣言男こと、陸巌門だが一発殴れば静かになったということも伝えておこう。
本座も臣下のいる身なれば、言われっぱなしではいられんのでな。
やはり暴力、暴力は全てを解決するっ……!!




