テスケーノ街中の防衛3
最後に残ったのは、街の中でも北部の大通りにおけるレオたちとハイオークキングたちの対峙である。
自分たちのことで精一杯であるレオたちには、西門や正門の外での空気が変わったことなど認知できず、何とかハイオークファイターを少しずつ減らしているところであった。主にベラとフィロがファイターを相手にし、レオが天使グエンと共にキングを相手にしつつベラたちに複数のファイターが向かわないように≪炎壁≫による攻撃と誘導を並行して実施していた。
大通りの上位ハイオーク以外、横道などで住民を目掛けて散っていた一般ハイオークの殲滅や住民避難も何とか落ち着いて来て、大通りに騎士や冒険者たちが少しずつ集まり、残ったファイターたちに攻撃を与えだす。それによりレオがファイターへ気をまわす必要が無くなり、ベラとフィロも少しずつキングへ攻撃をまわすことが出来るようになってきた。
少し気持ちに余裕ができたレオは、自分たちの戦いを住宅の屋上から遠目に見ている黒ローブ2人に気付く。天使グエンに念話してこっそりとその黒ローブ達に≪雷撃≫と≪氷結≫を使うように指示する。
グエンによるキングへの魔法が減ったことで、レオが物理的にキングに切りかかられる隙ができたのに注意を向けさせて、その隙に黒ローブ達に攻撃させるのである。レオはわざと作った隙であるのでギリギリのところで≪結界≫によりキングの攻撃を防御するが、その直前にグエンが放った攻撃は黒ローブ達にまともに発動され、氷で拘束された2人が地面に落ちてくる。さらに≪氷結≫で追い打ちをかけさせた後は、騎士たちに声をかけて様子を見に行かせつつ、キングへの攻撃に再び専念することで何とかキングを倒しきる。その頃には残ったファイターも騎士や冒険者たちに任せられる程度の数になったため、急ぎ黒ローブ達のところに駆けつける。
1人は既に死亡したようで、もう1人が虫の息であった。軽い回復魔法は行いつつも、奴隷商人を呼んで来させる。元気になり何らかの魔法を使ったりされては面倒なので、まず息がある方から黒ローブと黒仮面を剥ぐと、身長が高いので男と思い込んでいたが顔つきや胸の膨らみから女のようで驚きつつ、魔法発動体と思われる杖を取り上げて腰袋や短剣などを取り上げて魔法の袋にしまう。奴隷商人が到着するには時間があったため、もう1人の死体を魔法の袋に入れてみて完全に死亡していることを念押ししておく。いつまでも死体を袋に入れたくないので装備品だけ袋に残して、死体は他のオークの死体の近くに転がしておく。
西門や正門も片付いたらしいという伝言を騎士から聞いたので、ベラとフィロも近くに来て、フィロは魔法回復薬でお腹いっぱいと言いながらレオの近くに座り込んでいる。本当は騎士や冒険者、住民たちへの治療行為にまわるべきとは思いつつ、今は休憩、とレオも座り込む。夜中にたたき起こされて、何度も魔力が空になるだけの魔法を使いながら格上の上位ハイオーク達、またしてもキングたちを相手にしのぎ切ったのである。
ウトウトとしかけたときに、騎士が奴隷商人を馬に乗せてやってくる。騎士からも魔法使いの対処が分からないと、取り急ぎの主人にはレオを指名して奴隷契約を行うことになった。奴隷契約が完了した後にようやく≪上回復≫をかけて延命させておき、大人しくしておくように命令する。
瀕死の者たちが近くに居ないことを確認し、治療行為は翌日に、とベラ、フィロたちと共に代官館に騎馬で帰る。色々と動いてくれた騎士がそのまま黒ローブの女を同乗させて、一緒に代官館に向かう。ベラとフィロには寝るように指示して、レオは騎士、黒ローブと共に尋問部屋に移動する。
そこでは記録係としての文官も参加して、諸々の話を聞くことになった。
「まずは名前から教えて貰おうか」
「シュテア」
「今回、ハイオークたちを先導してきたのはお前たちか」
「その通り。先ほど死亡していたもう1人と2人で行った」
奴隷契約で素直に話すように指示してあり、諸々のことを淡々と話しだした。
見張りのような国王軍も居たので確実とは思いつつ確認すると、黒ローブ達は国王軍と連携して北門から攻め入ったとのこと。ただし国王軍ではなく、傭兵のような立場であったという。先般、この街の南東部の陣営にハイオークを送り込んだのも自分たちであるという。
レオとしてはハイオークキングの操り方など諸々が聞きたいところではあったが、取り急ぎ騎士たちが知りたいところはそこまでのようで、騎士たちはスクゥーレ達幹部のところへ情報を報告しに行く。
レオは色々と聞きたいが体力も気力も限界であり、奴隷契約をしているので逆らうこともできないとの言葉を信じて、シュテアにも一応独房で休むよう言い、自室でベッドに倒れ込むのであった。




