テスケーノ街中の防衛
暗殺騒ぎのあった5日目だけでなくその翌日も国王軍の攻勢は大人しいものであった。
「国王軍はなぜ焦って来ない?何か別の策略があるのか?」
「何か我々は見誤っているのでしょうか……」
「住民の生活にも支障が出始めています」
「そんなのほっておけばよい。住民、国民のために我々は戦っているのだぞ!」
「いえ、東門から主街道まで安全な行き来ができるように護衛を用意しましょう」
「先日の暗殺者のようなことが起きるのではないか?」
「この街の身分証明書がある者のみ街に入れるように厳重に確認するのでいかがでしょうか」
「では、順次集まる応援軍、志願兵は街に入れずに、いったんは南東の陣営に合流させましょう」
「我らは住民、国民の支持を得られないとこの戦いの意味がない。可能な限り融通するように」
最後はスクゥーレの発言でまとめられる。
その他には小事として、西門の馬の死骸が腐臭を放つので撤去して生木でも良いので逆茂木にしよう、先日レオたちが夜襲するから回復魔法をできないと魔法回復薬を置いて行った代わりが安全のために欲しいと要望が強い、従騎士や冒険者の魔法使いからもゼキエッロ達のようにレオたちと一緒に行動することで上級魔法を身近で見たいとの声が上がっている等の話が議論された。
その結果、今は国王軍の攻勢はあまりないので、今のうちに傷回復や魔力回復の薬草と薬瓶をレオに渡して調合するように指示が下ったが、魔法使い達の要望はその上司たちから却下されることとなった。
マントーネのことやテスケーノでの初戦からのことが国内に伝わって行くにつれ、意外とクーデター軍が優勢、ならばそちらに味方しようという様子見だった貴族達、一般国民の志願兵たちが増え、またマントーネを含めた各地からの兵糧の差し入れ、商人による売り込み等もテスケーノの東側に集まってくるようになった。街の南西の国王軍にもその様子は知られているはずであり、余計に焦っていると思われる。
王都メッロへの増援要請だけでなく、王都との間の3つ目の街、テルセーナの代官にも「次はお前の街だぞ」という脅しも兼ねて支援の要請をしているはずである。
そうこうしていた夜、北門で騒ぎが起きる。街の北から襲撃を受けているとの鐘が鳴り響く。
最近の大人しかった国王軍に油断して、敵のいない北門の警備にゆるみが出た隙をつかれた形である。しかし、伝わってくる喚声の中に聞き捨てならない単語が混ざっていた。
「またハイオークの群れも一緒だぞ!早く増援を!」
一般の軍隊だけではなく、またしてもハイオークの襲撃というのである。
「城門が破られた!避難誘導を!」
街の中心部である代官館に情報が伝わるやレオ、ベラ、フィロ達3人と近くの宿の魔法使い達にも連絡が取られ、各々が即時北へ向かうように指示される。
レオたちも騎乗して北に向かうと直ぐにあちこちで火の手が上がっているのが見える。どちらかというと、国王軍は少なく暴れまわっているのはハイオークたちのようである。自分たちは危険なところに来ずに、使い捨てにするハイオークたちに非戦闘員である一般住民も巻き込んだ襲撃をさせているのである。
「魔物使いは前に捕まえたのに!」
「下っ端と言っていたし、その背後の黒ローブ・黒仮面の達は健在で、しかもその黒ローブたちがハイオークたちを連れて来ていたと言っていたから……」
「あれは!また大きいキングが居るんじゃないですか?」
「本当だ、装備も十分なファイターたちも居る!とても一般住民には太刀打ちできない」
レオたち少数の魔法使い達だけで何とかできる数でもなく、クーデター軍や衛兵たちの協力が無いと住民誘導や殲滅ができる状態ではない。しかし、キングやファイターなど上位ハイオークについてはレオたちが倒さないと他に対峙できる者はほぼ居ないということから、目に見えた上位ハイオークたちのところに向かうしかない。
「お前たち、こっちだ!」
逃げまどう住民を追いかけているファイターたちに≪火槍≫を飛ばし、盾の武技≪挑発≫も活用して少しでも囮になろうと大通りにて迎え撃つ。他の騎士や冒険者たちも順次駆け付けてきているが、まだまだ戦力不足である。レオは姿を消した天使グエンを≪召喚≫しつつ、それぞれ≪炎壁≫を連発してハイオークたちの行動を制限する。ベラとフィロも魔力回復薬を飲みながら≪火槍≫を数えきれないだけ連発する。3人とも、特にレオ、ベラ、フィロの順ではあるが、先日の修飾語と最初に宣言する魔力量による効率化を意識する練習にもなり、以前よりは魔力消費を抑えながら同等の攻撃力を維持している。
その3人の魔法に相変わらずため息をつきながら、上級モデスカル、中級ゼキエッロ、ブリツィオ、アベラルド、初級リンピーノ、ニアミッラも自分たちのできる範囲でハイオークたちに攻撃をしたり、住民の避難誘導をしたりする。
一番の戦力であるキングはファイターたちの奥でどっしりと構えていたのだが、レオたちがファイターたちを翻弄するのを見て、大通りを南下してくる。逆に、それら上位ハイオークたちをレオたちが引き付けたおかげで、順次集まって来たクーデター軍に、見張りのようについて来ていた国王軍や一般ハイオークたちは順次駆逐されつつあり、住民の避難も少し混乱が無くなって来た。




