奴隷契約2
スクゥーレ達が軍議を開始する際に、今朝の暗殺騒ぎのことが報告される。
「それでレオ殿は無事なのか?」
「はい、その暗殺者の火傷の治療までして、割当場所である南門に向かわれました。敵の雑兵の背景に心を痛めているようでしたが」
「そんなことはどうでも良い!それよりも、その奴隷から敵の内情はどれほど入手できたのだ!?」
「はい、所詮は徴兵された末端の者ですので情報は限定的ですが。まず、簡単に蹴散らせると見込んでいたのに上級魔法使い達に何かと邪魔されて焦っているようです。また、王都の常設軍の割合は半数ほどで後は徴兵された者たちとのことです」
「ふーむ。それで、先日の兵糧焼き討ちの影響などは?」
「末端なので割合までは分かっていませんが、それなりの痛手ではあったようで、上官たちがかなりイライラしていたようです。かなりの戦闘不能者が出ている焦りも合わさっているようです」
「所詮は雑兵か……」
「しかし、国王軍が今回の手段に出てきていること、昨日昼間の攻撃が激しくなかったことを踏まえると、現時点でもかなりな痛手を与えているのかと」
「このまま籠城が長引くと、我々には賛同する者たちが到着してきますが、国王軍はどうなのでしょうか」
「ふむ。基本的には国王軍は王都に居るのだから、王都から援軍が出されるのであろうが、王都の守りが薄くなるのを恐れてどこまで出してくるか……」
「ですよね。既に時間をかけて2万の軍勢をこの街に送り込んでいますので。少なくともここに来た国王軍の司令官・幹部たちは自身の保身のためにも、何とかしないという焦りはかなりな物な上に、時間がたつほど状況が悪化する懸念も出てきたのではないでしょうか」
「簡単に蹴散らせると思って来たのならば兵糧の残量も気になって来るか」
「はい、テスケーノの街からの補給もあてにしていたのが、逆に我々に抑えられているので」
「今日明日の敵軍の動きで焦り度合いもわかるかな。我々は無理をせずに守りを固めることにしよう」
レオは、特に敵の下級兵や徴兵された者たちが自ら望んで攻撃しているわけでないことを改めて思い知らされた。自身の攻撃魔法でそれらの兵士たちを殺したり大怪我させたりしているのである。これまでに何度も敵兵を倒して来たのであるが、具体的にその相手からそのことを言われたことは初めてであった。
レオの調子がおかしいのに気付いたゼキエッロ達はベラに背景を聞く。
「レオ様、今日も敵はあまり来ないようなので、せっかくやって来た脱走兵たちの治療をお願いしても良いでしょうか?」
「あんな危ない目にあったのに!?」
ベラの反対を押し切って、騎士たちに治療所へ行くことの了承を無理矢理にとるゼキエッロ。
レオは流されるまま治療所に向かい、ベラ、フィロと一緒に無心で治療にあたる。
「治療、ありがとうございます!昨日まで敵対していた私たちにまでこんな上級の回復魔法を!」
「早く国王軍を倒して、王都を解放してやってください。新国王による国民を大事にする新政権を早く!」
と言う声だけでなく
「実はあんた達を暗殺するよう指示されてきたんだ。ただ、武器も取り上げられたし、どうせなら早く王都を解放して家族を救ってやってくれ。このままお前たちが負けたら、失敗した俺の家族が酷い目にあってしまう」
と泣きついてくる者も居た。
余計なことを考える時間を与えないこと、そして今の行動を認めてくれる敵兵の言葉を貰うことを狙ったゼキエッロの意図をようやく認識するベラであった。
レオも気持ちの切り替えをさせてくれたゼキエッロの想いに気付き、こっそりと感謝する。
色々と割り切れたその日の夜、天使グエンに≪奴隷契約≫のことを思念で確認する。
『今日見た胸に埋め込む魔石、あれは従魔契約で魔物の胸の魔石を利用する代わりですか。人間に魔石は無いので』
『その通りだな』
『では、魔物ではない魔石のない獣にも同様に魔石で従魔契約のようなことができますかね』
『面白いことを考えるな。確かにありえるな。獣の頭の良さにも依存するだろうがな』
『あと、王様や貴族を奴隷にしてしまえば国を操れてしまったりしませんか』
『さすがにそこは上手く仕組みを考えているみたいだぞ』




