奴隷契約
夜襲で与えた被害がどの程度であったのか測りかねるスクゥーレ達。
「偵察部隊を送り込むか?」
「そういうのに長けた配下が居る方はいらっしゃいますか?」
「……」
「ならば、一度攻撃してみて反応を見れば良いのでは?」
「(脳筋が……)もともと戦力差があるのに打って出ることでの反撃のリスクはどうされますか?」
「やってみないと分からないだろう?」
「……」
幸いにして4日目は無事に過ぎて行った。西門は、攻城兵器と馬が逆茂木になったままであり、互いに遠隔攻撃を少し行いあうだけで終わりに。
正門でも生木の逆茂木を改めて置き直していたところへ雑兵が少しずつ来ただけで簡単に撃退して終わりになった。
お陰でレオたちは前日のドタバタの疲労回復かねがね、消費が激しかった魔法回復薬の調合を行うなどゆっくりすることができた。最近特に増えた大量な調合経験により、レオは高級回復薬も調合できるようになっている。
5日目もゆっくりできるとありがたいと思って就寝したら、早朝にたたき起こされる。
「レオ殿、治療をお願いしたい者がおります」
「え?昨夜に戦闘は無かったんですよね?」
「はい、国王軍からの脱走兵です」
「どういうことですか?」
昨夜のうちに、国王軍から南東の陣営に対して怪我人の脱走兵が数十人やってきたようである。国王軍では下級兵や徴兵された住民など雑兵扱いの者たちが怪我をしてもまともに治療して貰えないらしい。回復魔法が使える者が少なく、魔法回復薬は滅多になく、通常の回復薬も時間がかかる上に中級や高級となると数も少ないことは推測される。実際、公国でも公女たちと戦争で治療行為に当たる前は神官たちによる限られた治療だったことが思い出される。しかもこの王国は国民への搾取が酷いことから、なるほどと納得する。
担ぎ込まれていた治療所に向かい、左腕の大やけどの治療を始めようとしたところ、
「死ね!」
と隠し持っていた短剣でレオが刺されるが、相手も素人であったこと、レオがローブをまとっていたので体つきが分かりにくかったことから、腕に小さな傷を負うだけで済んだ。
急いで衛兵たちがその脱走兵を取り押さえて短剣を取り上げる。
「毒が塗られていますぞ!」
「レオ様!?」
「大丈夫ですよ」
急いで≪解毒≫と≪回復≫を自身に発動するのに合わせて天使グエンに全快していることを確認する。
「何をしようとしたのか、背景を吐かせる。奴隷商人を連れて来い!」
街の奴隷商人が連れて来られてその脱走兵を犯罪奴隷に処理していく。レオは興味があったので
「狙われ怪我をした私には、その犯人が誰かに殺されたりしないか見張らせて欲しい」
と、被害者の権利と言い張って処理をずっと見させて貰う。
グエンとの≪契約≫や先日の≪簡易従魔契約≫≪従魔契約≫に似た魔術語が使われていることと、魔法陣を刻んだ魔石を胸のところに埋め込んでいくことが分かった。
いったんその衛兵隊長らしき人物が主人として奴隷契約がなされたようで、なぜこのようなことをしたのかを尋問する。もちろん奴隷契約がされているので、嘘をついたり誤魔化したりすることは無いはずである。
「国王軍では俺たち徴兵された者たちや下級兵にまともな治療をして貰えないのは事実です。それにそもそもこの内戦では、クーデター軍に賛同したいと思っている者は雑兵では多いです。ただ、家族が王都に居るので、もし脱走したら家族がどうなるか分かるな?と日頃から脅されてこの街まで来たので」
「そこまでは分かった。で、なぜ暗殺をはかることになったのだ?」
「国王軍にすると簡単に蹴散らせると思っていたクーデター軍に、上級魔法使いが居て何かと邪魔と分かっているようです。それで、王都に家族が居ない本当の脱走兵に混ざって、その上級魔法使いを暗殺して来いと、その毒の塗られた短剣を渡されました。家族のためですが、私のこの火傷もこちらの魔法使いの誰かのせいだ、と自分を言い聞かせて潜入してきました。どうやって上級魔法使いのところにたどり着こうかと思いながら、こちらの陣地に来てみると、その上級魔法使いが攻撃魔法だけでなく上級回復までしていると聞き、先ほど行為に及んだのです。暗殺を指示されたのは他にも数人居るはずです」
「今回の脱走兵を急ぎ隔離しろ!所持品も検めるのだ!」
レオは見たいものは見られたと思い、この犯罪奴隷に≪上回復≫をかけて火傷を治してから立ち去る。暗殺未遂をして奴隷になった者は驚きで言葉もなく、泣きながら頭を下げて見送るのであった。
「レオ様……」
と言ってベラが肩を抱いてくれる。反対側からはフィロが腕を組んでくれる。




