テスケーノ防衛の中日2
北の森で集まった夜襲部隊は、弓矢や魔法など遠隔攻撃が可能な冒険者を中心とした50人ほどである。レオはベラとフィロ以外に、上級魔法使いのモデスカル、中級のゼキエッロ、ブリツィオ、アベラルドと共に来ている。夜襲効果を出すために火力が必要ではあるので初級リンピーノとニアミッラには留守番を頼んである。
先導役の騎士が、馬はここで降りて後は静かに徒歩で、と指示をする。馬の扱いの上手い別動隊が、逃げるときのためにある程度の戦場近くまで連れて行くとのこと。
それからの2~3時間ほどは、森の中をレオたちは初級闇魔法≪夜目≫で、魔法が無くても夜目が効くものはそのまま、それ以外の者は小さな明かりを足元にしか光が漏れないようにカバーした物で静かに進む。大きな物音は立てていないつもりでもこれだけの人数が進む気配があったからか、獣たち、また幸いに無謀な魔物による襲撃も無いまま、国王軍の裏手の森にまでたどり着く。
国王軍もテスケーノの街に到着してすぐに戦闘が続いているため、設営は簡易であり街側が主であるため、背面である森側には柵などの構築はなされていなかった。夜襲を警戒してかがり火がしっかりたかれているため、少し離れた森からでもそれらの様子が伺える。ここまで移動してくるのに時間もかかっているため既に真夜中であり、夜警当番以外は就寝している模様である。
また、夜襲の目的である兵糧などは荷馬車のままで集められており、兵士たちの就寝用のテントとは別であるので良く分かる。戦闘相手である街側から遠ざける配置であるので、いまの夜襲部隊に近い側に集まっているのである。2万の兵を賄うための兵糧であるから、いま目の前に見えているものだけが全てとは思えないが、これ以上の南、そして東に延びる陣営まで夜襲するにはこちらの人数が不足するのと、そこまでは森がのびていないので、諦める。
少し休憩した後、火矢や火魔法で、兵糧の荷馬車や就寝中の兵士のテントに攻撃をかけることにする。これらを先導の騎士を中心にした指令系統で順次伝えられる。レオたちは一番の火力を期待されている分、敵からも目立つであろうから護衛として大きな盾を持った騎士たちが先導することになっている。
「では、いくぞ!」
先導の騎士が右腕を上から前に下ろすのに合わせて数十人が一斉に駆け出す。音が出るので金属鎧は脱いでくるよう指示されていたが、流石に数百mを気付かれずに近づくことはできなかった。
はやく敵に混乱を起こすためにも、自身の射程距離まで近づいた者から息つく間もなく順次、火矢や火魔法を放ちだす。レオたちは射程距離が長いため、まず上級の火魔法である≪炎壁≫≪火槍≫を敵陣に打ち込み、兵糧の荷馬車やテントを炎上させる。
それから中級魔法使いのゼキエッロ達の射程距離まで進んで、全員が魔法を放てるところに移動すると、それだけレオたちはさらに奥まで届くわけであり、まだ燃えていないテントや馬の集まっているところなどに魔法を放ち、さらに混乱を発生させる。
何とか混乱を抑えて馬に乗って来る者や徒歩のままでも攻めて来る者に対しても、近づくまでの間に矢や魔法で攻撃をしつつ、そのためについて来た騎士たちが応戦をすることで、味方に被害が出ないようにしている。
魔法回復薬を持参しているレオたち以外は順次、矢玉が無くなったり魔力が無くなったりと申告して引き上げてくるので、レオたちも最後として連発してから、森の方に駆け出す。
森の手前に到着した際に、まだ後ろを追いかけて来ていた国王軍に≪炎壁≫≪火槍≫を放つ。その頃には別動隊で来ていた馬たちに合流できたので、後は一目散に北門に向かうだけである。
街に着いた後は、報告は騎士たちに任せられると聞いたので、すぐに代官館の自室に向かう。レオは、中日と聞いていたはずが誰にとってだったのかと思いながら、革鎧など装備を何とか外しただけでベッドに倒れ込んで眠りにつく。
スクゥーレ達は報告を今か今かと待ち構えていた。
「昼間の戦いもレオ殿たちが居ないと危なかったのに、結局夜襲にも駆り出しただと?」
「当初からその予定でしたので……」
「それは昼間が守り主体で負荷をかけなかった場合であろう!」
「そうおっしゃっても所詮は冒険者、いつ裏切るかもわからない者など使える間に使わないと……」
「その冒険者風情に何度も助けられているのは誰ですかね……」
「何だと!」
「軍属の皆様、口ばかりではないですか?」
「お前たち文官など現場も知らずに安全なところで勝手なことを言っているだけではないか!」
「今はそんなことを話している場合ではない!」
「ただいま戻りました!」
「おぉ待っておったぞ。して成果のほどは?」
「はい、森に近い北の端にあった兵糧拠点は完全に焼き払えたかと。また、こちらは無傷のまま離脱してきました」
「おぉ、それは祝着!しかしその兵糧拠点は全体の何割ぐらいだったのか分かるか?」
「申し訳ありません、そこまでは。偵察部隊でも居ればよかったのですが……」




