テスケーノ防衛3
街の南側はクーデター軍の戦略通りになったが、西門の方は苦戦することになった。
やはり国王軍は前日に逆茂木を無効化した西門に注力して来ていた。数だけでなく、国王軍の限られた魔法使いの戦力もこちらに集中していたのである。
朝一番、正門の方で逆茂木にちょっかいをかけるそぶりをしていた頃、西門の方では城門破りのための丸太を乗せた台車を何台も用意し、城門の扉にぶつけに来ていた。当然、守勢のクーデター軍も城門などの上から火矢を打ち込むのに合わせて、中級魔法使いのゼキエッロ、ブリツィオによる≪火炎≫の打ち込みでも応戦していたが追いつかない。そこに、その国王軍の上級も含めた魔法使い達が魔法を打ちこんで来たのである。城門の扉だけでなく城門の上へ、もである。
守り手の数倍の被害者を攻め手が出しても力攻めされたことにより、城門の閂が折られてしまい、街の中への侵入を許してしまう。
ただ、侵入のすぐ後に、国王軍の方で混乱したような鐘が鳴り響き、それに伴い城門内外の国王軍も混乱をきたす。ちょうど、南でクーデター軍が国王軍を蹂躙しだしたのが伝わって来たのだと思われる。
クーデター軍もその隙を見逃さず反撃をして城門の外の敵まで撃退した後は、城門を固く閉じて再び守りに入る。
ぶり返したものの、怪我人が多く、回復魔法が使える神官たちが必死で治療にあたるが間に合わず息を引き取る者もたくさん発生した。
南から凱旋部隊が帰って来るや、レオたち回復魔法を使える者が呼び寄せられ治療にあたる。もちろん南側でも怪我人は発生していたが、西門ほどの被害ではなかったのでこちらが優先になった。
その中には城門の上から魔法を放っていたゼキエッロ、ブリツィオの姿もあった。敵の魔法使いからの火魔法を受けたようで火傷が酷い。急いで≪上回復≫を天使グエンと手分けして複数回発動させることで全快させる。
「レオ様、本当にありがとうございました」
「死ぬかと思っていました。約束通り、死なない限り治して貰えましたね」
「いや、少々の怪我ならと条件つけていましたよ。本当に良かったです……」
ベラとフィロとも分担して魔力回復薬を順次飲みながら、その他の瀕死や重症の将兵たちを可能な限り回復させる。それ以外については神官たちによる分担もあるので、南門側の怪我人の回復にあたる。
クタクタになり代官館の割り当てられた部屋に戻ると、翌日は街に籠った防衛であるとだけ聞いて眠りにつく。
レオたちが凱旋後に治療行為をしている頃、スクゥーレ達は軍議を行っていたのである。
「本日も全体としては圧勝でしたな」
「ただ、消耗が大きい。このままではこの街を守り切っても王都の解放が難しくなるのではないか」
「今回南側で消耗したのは志願兵がほとんどであり補充は効くのではないか」
「その考え方では今の国王派と同じである。国民を蔑ろにしている!」
「何!その国民を救うためのクーデター成功には最低限の犠牲は必要である!」
「その最低限の程度をどこまで減らすことが可能かを議論しましょう」
「今日の混乱に続くように明日も攻めたてるべきである!」
「いえ、本日の後半でも既に建て直しがなされていたので、明日にこちらから攻めると彼我の戦力差のまま厳しい結果になるでしょう」
「ではどうしたら良いというのだ!?」
「まず今日の明日では敵軍も警戒が強いと思われますので、少なくとも昼間は攻め込みません。もともと防衛側が有利なため、明日は南と西とそれぞれに十分な兵力を分散して昼間は持ちこたえさせます。そして、夜襲です」
「いや、練度のない志願兵たちに夜襲は無理であろう?」
「その通りです。経験のある従騎士・従士や、それらが得意な冒険者を中心に、数による夜襲ではない嫌がらせです。兵糧を燃やす、水樽を倒す等」
「なるほど、数が多いだけ兵站が大変であろうからな。それで弱った辺りで再度攻めたてるのか」
「仰る通りです。ただ、その際にも闇雲に攻めるのではなく臨機応変に、ですが」
「では昼の防衛のためにも、西門に逆茂木を復活させたいですな」
「何もないよりはマシなので、城壁内の大木を切り倒して生木のままでも転がしておきましょう」
夜中であるので、城門を一時開いても国王軍は罠などの仕掛けが気になり攻め入ることができず、その隙に街内から運び出した木々を設置していく。
テスケーノ防衛3日目は、マントーネから共闘になったゼキエッロとブリツィオが今日こそは一緒にと言うので、テスケーノから共闘の上級、中級、初級、初級のモデスカル、アベラルド、リンピーノ、ニアミッラを正門側に、レオ、ベラ、フィロとゼキエッロ達は西門に分かれることにした。おそらく今日も、逆茂木が無くなり城門も一度は破られた西門が攻めたてられると推測されているからである。




