修飾語
街の屋台で買い食いをし従魔魔法の練習をした翌日、スクゥーレやホレイモンに昨日の休息のお礼と、ローブと仮面を黒から濃紺に変えたことも報告する。
「ローブなどの色を変えた意図は理解した、了解である。ただ休息についてはもっとゆっくりするが良い」
「そう、2つの街、マントーネとテスケーノを簡単に陥落させた立役者たちにはしっかり休んで貰いたい」
「まだ出発しないのですか?」
「うむ。今から3つ目の街に向かっても、おそらく王都からの軍勢と遭遇するであろうから、劣勢の自分たちはこの街で迎え撃つ方が良いしな。また、テスケーノの支配層の入れ替え調整や、増えた軍勢を迎撃に向けた再編する調整もしているのだ」
「レオたちには自由に動いて貰うため軍勢に組み込むつもりはない。ただ、マントーネで迎えた中級魔法使い2人以外に、テスケーノでの上級1人、中級1人、初級2人をまた預けるので挨拶だけしておいてくれ。迎撃ではまた活躍を期待するから、休むときに休んでおいて欲しい」
「それよりも従士の2人は冒険者ギルドで昇格できるのではないのか?ハイオークたちと渡り合っていたのだから」
「かしこまりました。ありがとうございます」
テスケーノの防衛側に居たという上級、中級、初級、初級の攻撃魔法を使える魔法使い、モデスカル、アベラルド、リンピーノ、ニアミッラに挨拶を受ける。マントーネでのゼキエッロ、ブリツィオと共に代官館の近くの宿に居た。6人のうち女性はニアミッラだけであり、何かあればベラとフィロの相談相手になって貰おうと考える。
その後は、クーデター軍のトップに休め、冒険者ギルドに行けと言われたようなものであり、ベラとフィロを連れて冒険者ギルドに向かう。
「そうですね、ベラ様とフィロ様がBランク魔物のハイオークファイターたちへの魔法攻撃で活躍されたことは認識しておりますが、従騎士様たちも含めた多数対多数であったとも認識しております。ですので、今回のお話だけで銀級への昇格は認定できません。同様に、レオ様がAランク魔物のハイオークキングを実質お1人で倒されたという噂も認識しておりますが、金級への昇格認定への証跡とするわけにはいきません。申しわけありません」
「いえ、仰ること理解できました。実際に、皆様のご協力の上でしたので。ご確認ありがとうございました」
ギルド受付に言われた言葉には少し残念ではあったが3人とも気にしていない。それよりもレオにとって初めての冒険者ギルドに来たことで、魔導書の本棚を見に行きたい欲求の方が上であった。公都ルンガルよりは小さいギルドの建物であったが、魔術師委員会の部屋も個別にあるようだった。
「魔導書の閲覧をさせてください」
「ん?もしや今回に大活躍だったお三方かい?大歓迎だよ。初級は銀貨1枚、中級は銀貨5枚で閲覧できるが、お三方に役に立つ物はあるかな……」
「まず拝見させてください」
「ページをじっくりめくるのでなく、手に取るぐらいならお金は取らないから」
と言われたので、表紙と裏表紙、著者や写本した者の辺りだけ見て行くが、未習得の魔導書は中級光魔法の≪照明≫だけであった。がっかりするが、自身が所有済みの魔導書とは著者が異なるものは全てお金を払い、閲覧させて貰う。経済的に余裕があるので、少しでも他の著者と異なる表現からヒントを得られないかとの思いからである。
その思いが通じたのか、≪水生成≫の魔導書で気になる表現を見つけた。魔術語で効果を変化させるために修飾語をつけることがあるという認識はあったが、無詠唱に慣れたレオは、新しい魔法を習得した後には、それぞれ何となくの感覚で魔法の発動結果を大きくしたり小さくしたりしていた。この魔導書には、水生成の量を小さくするにはminor、大きくするにはgrandeと書いておきながら、最初の発動工程の記載では「必要となる魔力量を10だけ体内から集める」として「dedicare-decem」としてあった。別の≪水生成≫の魔導書では5だけ集めるに対してquinqueとしていたものがあるように、最初に数量で設定することとの差異に気付いたのである。
慌てて冒険者ギルドの訓練場の端に移動して、10の魔力量としておきながら小さく小さくとわざと詠唱した場合と、5の魔力量としておいて詠唱した場合など比較してみると、修飾語を使用した方が魔力のロスがあるようである。レオは最近の戦争で使用していた≪火壁≫も、無詠唱ながらに後から後から大きいものへと意識して発動していたので、かなり無駄があったのかと想像できた。天使グエンに思念で確認すると、その認識であっているとのことであった。
今回に見つけた魔導書のようにこれらのことは正しく認識されていない可能性を踏まえて、自作の魔導書においてはその注意事項も書き足すことにした。
レオが納得した顔で落ち着いたところを見計らってベラが声をかけてくる。
「もうよろしいのでしょうか」
「あ、ごめんね、勝手に動き回って」
レオは今の内容を2人に伝えるがフィロは直ぐには理解できなかったようでベラが後で実践しながら伝えることになった。
その後は、屋台での買い食いで昼食として代官館に戻り、閲覧した魔導書の写本を作成したり、魔法回復薬の調合をしたりして暗くなるのを待つ。そして新しく入手した≪照明≫の魔法の訓練を行う。初級の≪灯り≫が部屋1つ分ほどであったのが、この中級≪照明≫は家1つ分ほどを明るくするようで、何事かと兵士たちに駆けよられてしまい、魔法練習であったことを説明して謝罪することになってしまった。




