上位ハイオーク再び
天使グエンを召喚したレオは、新たに侵入して来たハイオークファイターたちの足止めを考える。時間さえ稼げば、落ち着きを取り戻した従騎士たちにより、絶対数の多さで対処できると見込んでいるからである。
本当は密集している味方への影響が少ない≪氷壁≫などの水魔法が好ましいが、ベラやフィロが合流した際に彼女たちに期待できるのが≪火槍≫などであることから、効果減少させないため同じ火系統である≪炎壁≫を使用する。
近寄ってくる先頭のハイオークファイターを≪豪炎≫で燃やしながら、注意を引いた味方に対して
「そちら、危ないのでどいてください!」
と叫び、意図した場所を開けさせていく。開いた端からグエンと協力して≪炎壁≫によりスクゥーレたちの居るはずの本陣との間の経路を制限する。
そうこうしているとベラとフィロが合流して来た。
「レオ様、お待たせしました」
「あっちは目途がついたよ。こっちにもたくさん残っているね」
と言いながら、魔力回復薬も使用して≪火槍≫を飛ばしてくれる。
「ありがとう。こちらはハイオークファイターばかリみたいだから気を付けて!」
少し余裕ができたレオは、切られて倒れていたゼキエッロとブリツィオに近づき≪上回復≫をかけ、自分たちで後方に下がらせる。
「レオ様、ありがとうございます!」
「助かりました!」
「まだ気を抜かないで。余力があれば≪火炎≫を放って」
しかし、落ち着いてきたはずなのに周りの喚声がおかしい。
「キングだ!ハイオークキングだ!」
という声が聞こえてきたと思えば、対応しているハイオークファイターたちの向こう側に、大きくて目立つハイオークキングが姿をあらわす。
「また!?」
と声が漏れてしまうレオたち。前回より自分たちの実力は上がっているが、あのときに盾になって亡くなった騎士のことも思い出される。
「距離を取って!」
とベラとフィロに指示をしながら、特にキングだけを隔離して、ファイターたちは集まって来た従騎士たちにできるだけ任せるように≪炎壁≫を操作する。
レオも魔力回復薬を飲みながら、グエンと共に≪豪炎≫を連発する。ベラ、フィロ、ゼキエッロ、ブリツィオそれぞれの≪火槍≫≪火炎≫も合わさってキングといえども体力が削られているようで、ダメージを覚悟で≪炎壁≫を越えてレオに飛び掛かってくる。
慌てて≪結界≫でわが身を守るレオと並行して、グエンが放った≪豪炎≫が止めとなったようで、振りかざそうとした大剣を支えにしかけたものの耐え切れず倒れるキング。念のためにグエンに再度≪豪炎≫を放たせ、完全に動かなくなってから≪結界≫を解除して、キングの首を切り落とす。
まわりをみると最初の騒動の方のハイオーク達は倒しきったようであり、こちらの残っているファイターも2匹のみで、周りを囲んでいる従騎士たちの数からもう安全であろうと、深い息を吐く。
「レオ様、お疲れさまでした!」
「お疲れー」
と寄ってくるベラとフィロに、余力のある限り≪上回復≫などの治療を一緒にするように声をかけて、身近なところで倒れている者たちへ回復魔法をかけ始める。
スクゥーレやホレイモンたち幹部もいつの間にか本陣から出てきて様子を見ていたようで、
「皆、大儀であった!怪我をした者は重症の者から、この黒ローブの3人のところに集まるように」
と指示を出す。
手遅れだった者もわずかに居たが、多くは命を取り留め3人に感謝の言葉をかけていく。回復した者から順に怪我人の誘導、騒動でかき乱された陣の復旧や、ハイオークの死体寄せ集めに参加していく。そのなかで、騒ぎ立てる者が捕縛されて連れて来られる。
「離せ!足が折れているんだ、丁寧に扱え!」
と騒いでいる茶色ローブの男。
「どうしたというのだ?」
「先ほどキングたちが入り込んだ向こう側で、頭を切られて絶命した馬の下敷きになっていました。明らかにあやしいので連れてきました」
「よし、訳を話せば治療してやる」
「……俺は見ていただけだ……」
「そんなわけないだろう。夜中に、いつ戦闘が始まるかもしれない陣営の近くに、一般人が居るわけが無いだろう!」
「ハイオークキングが馬をやったんだよ。俺はその下敷きになっただけだ……」
「なんでハイオークキングの近くに居たんだ?」
「……」
「所持物を検めろ」
男が身につけていたのはナイフと魔法の杖であり、皆の目がますます警戒するものに変わる。男に覆い重なっていた馬に括られていたという荷袋の中身が、皆の前で広げられていく。水筒など一般的な物以外に、布に厳重に包まれた茶色い表紙の冊子が1冊と、かなり大きめな首飾りのようなものが複数でてくる。
「これは、従魔の証ではないのか!?」
集まって来ているハイオークたちの死体のなかで、ハイオークキングやハイオークファイターの首には無いが、ハイオークには従魔の証がかかっている。それと同じ物が荷袋から出てきたのだ。




