2つ目の街テスケーノ
2つ目の街テスケーノは主街道の北に隣接しているため栄えており、マントーネの街と同様に代官たち支配者層は当然に現政権派で私腹を肥やしている者である。
その代官エミリンドは副官に怒鳴る。
「おい、王都からの援軍はまだ来ないのか!?マントーネはあっさり陥落したんだろう?」
「はい、残念ながら。ただ、マントーネがどうやって陥落したのか分かりませんが、テスケーノの街には精鋭部隊が500人も居ります。徴兵も1,500人まで済んでいます。冒険者は費用がかかるのと裏切りも懸念されるため募兵しておりませんが、十分かと」
「敵には上級魔法使いが何人も居てやられたという話だが、当方の魔法使いはどれだけ集まっているんだ?」
「貧乏貴族たちの集団ですからその噂は眉唾と思っております。ちなみに、こちらには本物の上級が1人、中級が1人、初級が2人もおります。いずれも攻撃魔法を習得した者たちです」
「いよいよスクゥーレ達が陣を築きだしたそうだな」
「はい。街の南、主街道との間かと思われたら、王都からの援軍を警戒してか、街の南東でした。弱腰ですね」
「そうか。しかし、マントーネは先制攻撃を中途半端にして失敗したと追加情報が来ている。我らは王都からの援軍を待つのだぞ」
「かしこまりました」
一方のスクゥーレ達の陣営。
「今度は街から出陣してこないか。マントーネでの失敗が伝わっているのかな。我らにしてみると後続隊の到着まで時間を稼げるのはありがたいな」
「とは言っても、王都からの援軍が来ると厄介ですが」
「そのために早期の陣営の構築なのであろう。十分に堀や柵などを準備しておこう」
設営がある程度できて安心して眠りについていた夜、喚声があがる。
「いったいどうしたというのだ!?」
「魔物の襲撃です。ハイオークとのことです!」
「なぜこんな場所で!?まさか!?」
「はい、先般のルングーザ公国に対して用いた魔物使い、テイマーによるハイオークの可能性があります。王都からの軍勢到着には時間がかかるので、先発隊なのかも」
「一般兵士ではなく装備も十分な騎士たちに当たらせろ。レオ殿たち魔法使いも!」
一人前とされる銅級冒険者が1対1で倒せるCランク魔物であるハイオークが多数、達人である銀級相当のBランクであるハイオークファイターも何匹かで夜襲してきた模様である。レオたちはスクゥーレの護衛のため本陣近くに居たので、ハイオークが入り込んだと思われる喧騒の場所、陣営の端の方からは離れている。
「ハイオークってことは、スラム街に送り込んで来たヤツ、魔物使いも来ているのかな。仕返ししてやる!」
「今回も近くには居ないと思うから、先走って遠くに行かないようにね!」
フィロにはくぎを刺しておくが、陽動の可能性もあるから本陣は離れたくないのに、ハイオークたちの排除の指示も受けている。悩ましいが、ベラとフィロの2人を喧騒の方へ、本陣の方は先日からレオ預りになっている中級のゼキエッロとブリツィオとの3人で守ることする。
ベラたちが到着すると、従騎士を含めてある程度の個人戦闘力がある者たちが対峙していてハイオークは何とかさばけているようだが、ハイオークファイターには苦戦しているようである。ベラたちは少し離れた場所から上級魔法≪火槍≫でハイオークファイターを狙い撃ちしていく。ハイオークたちに比べて絶対数が多い従騎士・従士たちということもあり、何人かで取り囲んで対応することで対処の目途がたったと思われた頃に、陣営の反対側からも喚声があがる。
最初の喧騒の方に陽動されてしまい手薄になった側に、もっと多くのハイオークファイターたちが入り込んで来たのである。レオたち5人を除くと、先発隊に居る魔法使いは従騎士の中級が1人だけであり、その1人もベラたちの近くに居たため、奇襲の方には向かえない。
仕方ないので、レオはゼキエッロとブリツィオの2人を第2の襲撃側に派遣しつつ、自身はゼキエッロ達の後詰めのように本陣との間に構える。
手薄になった側であるため、新たに増えたハイオークファイターに対峙できる従騎士たちの数が少なく、ゼキエッロ達はベラたちのように離れて安全なところからの魔法攻撃が難しい。中級≪火炎≫で攻撃しているのだが、自分たちへ敵意ヘイトを集めてしまい、盾で抑えこもうとした従士を振り払って迫って来たハイオークファイターの剣に切りつけられ倒れる。ゼキエッロが切られたのを見た恐怖で足が止まっていたブリツィオも別のハイオークファイターに切られて倒れる。
中級とはいえ剣とは別の攻撃手段であった≪火炎≫の使い手2人が倒れたことから、ますますハイオークファイターたちの勢いがついて本陣に迫ってくる。
それを見たレオは、姿を消したままとして天使グエンを召喚して備えると共に、ベラたちを呼び戻すように周りの者に依頼する。




