クーデターの支援者たち
テソットの街に、少なくとも護衛対象のスクゥーレは無傷で届けることができて、いったんはホッとするレオたち。その後は、スクゥーレの指示に従い、支援者たちが用意しているという屋敷に向かう。
この街で一番の屋敷というわけではないが、あまりに質素ではなく、それなりの規模の屋敷であった。レオは御者台から降りて門番にスクゥーレの到着を伝えると、門番から話を聞いた者たちが慌てて門まで飛び出してくる。
「スクゥーレ・マストヴァ伯爵、ようこそご無事の到着で」
と跪く。伯爵への対応というよりは国王への対応のようである。
「待たせてすまなかった。詳しくは室内で話そう」
「そうですね、失礼いたしました。こちらへどうぞ」
ベラとフィロは、馬車と一緒に屋敷の馬屋に連れて行かれるが、レオはスクゥーレと共に屋敷の中に案内されていく。
この場に集まっているのは、スクゥーレを神輿にクーデターを企んでいる者たちである。
クーデターの支援者には伯爵も居るが、ほとんどは子爵・男爵・準男爵・騎士爵など下級貴族、準貴族であり、侯爵や伯爵など上級貴族のほとんどは今の王家に近く、今の王政や戦争で儲ける商人からの恩恵を受けているのであろう。
つまり支援者の中には、純粋にこの国の行く末を考えて賛同している者も居るが、貴族や商人などで主流派でないので、体制変更の際に勢力拡大を狙っているだけの者も居る。清濁併せ吞む器が無いと神輿になれないことはスクゥーレも認識している。
この時点でテソットの屋敷に集まっていたのは、王都で役職に就いていない者たちであり、それほど多くは無い。ただ、テソットにスクゥーレが到着して、蜂起を明らかにした場合には駆け付けてくる、もしくは王都や各街で同調する旨を確約している者たちが他にたくさん居る。さらに王都に向けて進軍するなかで、今の王家に不満を持つ者たちが合流してくることが十分に見込まれている。
その、現時点では少ない支援者のうち一番上位の者は、スクゥーレの母方の伯父であるホレイモン・ダラム子爵である。
「スクゥーレ様、公国からのご無事なご帰還、そしてテソットへの到着、お待ちしておりました」
「伯父上、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」
「すぐに身代金をご用意できれば良かったのですが」
「事情はもちろん認識しておりますので。逆にそのおかげで公国とも連携ができることにもなりましたので、災い転じて福となす、ですよ」
「まさにそうですな。では、このテソットでの状況をご説明します」
現段階では、あまり目立たないようにテソットに軍勢は揃っていないとのこと。しかし、スクゥーレのテソット到着にあわせて、数日以内に集まってくるという。
スクゥーレによる支援者たちとの面会が終わった後に別室で、ホレイモンにレオたち3人は呼び出される。
「ルングーザ公国からの護衛、ご苦労であった。話は聞いているが、これからについては王国内のこととしてそなたたちは公国に帰国して貰いたい」
褒賞として貨幣の入っているであろう布袋を差し出される。
「申し訳ございませんが、我々の任務はクーデターの成功までと指示を受けておりまして。スクゥーレ様もそのご認識のはずかと」
「しかし、他国の支援を受けて成功したと取られるのは問題なのだ!」
そこにスクゥーレが部屋に入ってくる。
「伯父上、私の使用人たちに何か御用ですか?」
「スクゥーレ様!」
ホレイモンは、レオたち3人に公国への帰国を促していたことを仕方なしに説明する。
「伯父上、お考えは分かります。しかし、彼ら3人が実際に護衛をしてくれたおかげで私はこの地に無事に居るのです。腕は確かです」
「なればこそ、これからの動きに公国の支援があったとなるのは困るのです」
「うーむ、その懸念は理解できますが、今からますます戦力が必要なときですし……公国からの支援ではなく、私が雇う冒険者というのでは?」
「屁理屈ではありますが、筋はつけられるかと。もともとこの街は魔の森手前であり冒険者が多いところであり、これから勢力として募集をかける予定でしたので。ただ冒険者が御側に使えるというのは目立ちますので」
「いや、レオはそれを上手くしてきた経歴があるそうですよ。冒険者としては仮面もつけた黒装束、使用人としては仮面のない今の少年姿で」
レオは苦笑いして頷いて、魔法の袋から黒ローブと黒仮面を取り出して見せる。
「なるほど。ではこの3人は自由時間を確保するために、スクゥーレ様直属の使用人として、使用人業務をあまり割り振らないように屋敷の者たちに指示しておきます」
さっそく翌日にはテソットの広場でスクゥーレによる王国再興を誓っての旗揚げ宣言が行われた。
それに合わせて、冒険者ギルドに各貴族からの戦力募集の依頼が出され、スクゥーレ個人からのレオ・ダンへの指名依頼も受領まで処理がなされる。




