魔法の袋
遠征から帰国したので、約束通り魔法の腰袋を公女に返すために、腰袋に入れていた魔法回復薬の処分を考える。コリピサ王国に夜襲したときに連続で魔法攻撃をする際に魔力回復薬を使用した以外は、まったく使用しなかったので、大量に余っているのである。
最近はスクロールの製作も出来るようになったのもあり、それらの納品先を探すことにする。神殿への納品では安くなってしまうと神官トンマンドが指摘してくれていたからである。
冒険者ギルドでおすすめの店を聞いて行ってみると、シラクイラの街で師匠ロドに連れて行かれた魔道具の店を思い出す怪しさであった。店主ローレアは耳が尖っている美女であり、明らかにエルフなのであろうが、そのことに触れることすらためらわれる雰囲気があった。
何の用途か不明な魔道具らしきものもたくさん展示しているが、鑑定魔法をかけてマナー違反を店主に叱られるわけにもいかず、素直に自作の魔法回復薬とベラと一緒に製作しているスクロールなどの納品を相談する。
「中級上位の魔法回復薬は、銀貨5.5枚だね。スクロールは初級だし一般的な魔法なので銀貨1枚。もっと上級を作れるようになれば、もっと高く買うよ」
神殿での買い取りは、魔法回復薬の中級はすべて銀貨5枚、スクロールも≪治癒≫だけを銀貨1枚であったので、今後は神殿にも付き合いの量は納品しつつ、残りはここに納品することにする。今回は戦争で使用しなかった大量な魔法回復薬を、魔法の腰袋から出して買い取りを依頼する。
「へぇ、魔法の腰袋?良い物持っているじゃないか」
「はい、借り物でして。返す必要があるので、中身を売却しようと思いまして」
「中身が、一辺が1mの立方体の腰袋ならば在庫があるよ。金貨10枚だけど、どうだい?在庫は3つ」
「3つとも、ぜひお願いします!」
今回の納品で得られたお金で足りない額は、準男爵への支度金や今まで貯めてきた金貨を使用する。公女に借りた腰袋に比べれば27分の1ほどの大きさになってしまうが、それでもその便利さはお金に変えることはできない。一度経験した魔法の袋の便利さは手放せなくなっていた。自分で製作できるようになれば別だが、いつになるか分からないので、ベラとフィロの分も合わせてあるだけ衝動買いしてしまった。
後からベラには叱られてしまうが、魔法回復薬やスクロールを今後も納品すれば良いと答えておく。
その後に公女マルテッラに魔法の腰袋を返却すると、
「本当に返しに来たの?今回の働きの褒美にでも、と思ったのだけど。じゃあまた今後ね。貸してあげるのはいつでも良いからね」
と言われ、価値観の違いに脱力してしまう。
魔法の袋での公女の発言の気落ちから回復すると、今度は公国魔術師団に向かう。
いつもの団員への指導に合わせて、今回での出陣における団長の気遣い等へのお礼である。
「これはコグリモ準男爵、ようこそおいでくださりました。お声がけをしようと思っていたのですよ」
「何かありましたか?今回の色々への御礼に参ったのですが」
「お礼は逆にこちらからです。ガンドリア王国へ連れて行った団員が活躍したことを受けて、他の団員もコグリモ準男爵の指導を希望するようになったのですよ。やはり上級魔法が使えると活躍できますからね」
「団員の皆さま、私が準男爵に陞爵したことを疎ましく思う方ではなかったのですか?」
「逆でしたね。魔術師団でも出世の可能性があることを示して頂いたことになりますね」
確かにレオが上級魔法を実演しようとすると、今までよりも参加者が増えている。しかも皆の目線の真剣度合いが変わっている。
改めて、現在レオが使用できる上級の、戦場でも使えそうな魔法である≪氷槍≫≪氷壁≫≪火槍≫≪炎壁≫≪雷撃≫≪岩槍≫を順に発動していくと、特に今まで参加していなかった団員が驚いた顔をしてから、ますます真剣な表情で食い入るようにこちらを見るようになった。
その後は、交換条件である図書室の閲覧に向かい、水魔法の上級≪氷結≫と火魔法の上級≪豪炎≫の魔導書を熟読する。これらも戦いで役立ちそうな攻撃魔法であるが、これらはその上位で範囲攻撃である王級≪霧氷≫と≪爆炎≫の単体攻撃版であるので、今後の成長にも期待ができる。
これら2つの魔導書の写本も作成し、自作魔導書への反映も合わせて行っておく。




