祝勝会
ガンドリア王国への援軍のうち騎士爵以上の者だけが謁見室に呼ばれ、その他の者たちは広場で待機になった。とは言っても、自由に飲食ができるテーブルが用意され、日頃は食べられないような物が並んでいた。実は第3公子によるコリピサ王国への迎撃隊にはそのようなイベントは無かったので、それだけ援軍に参加した精鋭たちの成果への褒美とねぎらいの意味が込められている。
「フィロ、食べるのは良いけれどお行儀よくね」
という声が聞こえてくる。
一方、謁見室では改めて公爵から第1公子と第3公女へのねぎらいの言葉があった。
「第1公子フルジエロ。ガンドリア王国への援軍だけでなく、我が国へのコリピサ王国の侵攻軍の撃退、そしてガンドリア王国への侵攻軍の撃退、獅子奮迅の働き、見事であった。ガンドリア王国からも感謝の言葉が届いておる」
「続いて、第3公女マルテッラ。ガンドリア王国への援軍において、フルジエロが約半数の部隊を連れて行った後も、残りの部隊を率いて、コリピサ王国への打撃、ガンドリア王国を中心とした怪我人への治療、素晴らしかった。そなたにもガンドリア王国から感謝の言葉が届いている。2人ともよくやった」
「また、公国騎士団長スタキーノ・ジョディネ、公国魔術師団長エルコンド・マストリノ、2人とも公子、公女を助け良く働いてくれた」
「そして、公国騎士団、公国魔術師団の皆も良く働いてくれた。感謝する」
公子や公女は爵位があるわけでないので陞爵も無く、騎士団長も魔術師団長も既に最高位の侯爵であるため陞爵は無い。しかし公爵家の2人と違い、団長たちには金銭か何かお盆に乗った物が下賜されていた。何人かの団員が、敵の司令官や指揮官の捕縛などに功績があった等の理由から陞爵されていった。
レオはそれを単に眺めていただけだったのに名前を呼ばれ、ビクっとする。
「レオ・ダン・コグリモ騎士爵、そなたは有り余る魔力を用いてコリピサ王国への攻撃及びガンドリア王国の将兵などの治療に貢献したことを称え、準男爵に陞爵する」
宰相の声に従い、先ほどまでの人たちと同様に跪きお礼の挨拶を述べる。ぼーと眺めていただけだが、真似をすべき前例があって良かったとホッとしている。
謁見室でのねぎらいが終わり、陞爵した者への官僚たちの説明があった後、広場での祝勝会に合流する。
官僚たちからの説明で重要だったのは、法衣騎士爵の年金は毎年金貨10枚であったのが、法衣準男爵は毎年20枚になるとの説明ぐらいであった。
その後、広間に合流しに行くが、当然、広場で食べ散らかされたテーブルではなく、間仕切りをしていた少しだけ段を上がった先にあった新たなテーブルになる。先ほどまでのテーブルよりも豪勢な食事や飲み物が用意されている。下段の者が上段に登ることは遠慮されていたが、上段の者が下段に行くことは許容されているとのことであり、レオは早々に下段に行こうと心づもりをしていた。
ここでは第1公子からのスピーチがあった後、乾杯になる。まずは公女に挨拶をしてから下段に向かおうと、公女への挨拶に並んでいると、第1公子と魔術師団長に捕まる。
「コグリモ騎士爵、いや準男爵。この度はマルテッラを助け、良くやってくれた。粛清で空いたポストがたくさんあるから、どんどん上がって来てくれ。公国も無駄な贅肉を削ぎ落として筋肉質の体質に生まれ変わるきっかけになった。これからもよろしく頼むぞ」
少しはたくましくなったレオであったが、第1公子のたくまし過ぎる手のひらで背中を叩かれるとよろめいてしまう。
「殿下、準男爵は魔法使いですから、そんな乱暴には。コグリモ準男爵、陞爵おめでとうございます。魔術師団員もご指導のお陰で活躍をすることができました。ありがとうございました。今後も外部指導員、引き続きお願いしますね」
この2人も当然に忙しい会であるはずなのに、早々に自分に声をかけてくれているのはありがたいやら迷惑やら。と思っていると、ようやく公女へ挨拶の順番がまわって来た。昨年の誘拐後はマルテッラの扱いも公国内で微妙であったが、公爵や第1公子の計らいもあり、こうしてまた皆の中に溶け込めるようになっている。ただ、そのことは、昔を知らないレオには違和感を覚える。
「レオ、今回も良く頑張っていたわね。私と話しているときにそんなにソワソワして、失礼よ。まぁ良いわ、従士たちのところに早く行ってあげなさい。陞爵のことも忘れずに言うのよ」
どちらが年上か、と思うぐらいこういうことには公女に頭があがらない。公女の屋敷で、きちんとお礼をすることにして、そうそうに下段のテーブル席に向かう。
夜のパーティーではあるが、灯りもあるため、黒ローブと黒仮面で真っ黒なレオは目立つのであろう。ベラとフィロ、エルベルトたちを探していると逆に見つけられる。
「レオ、こっちだ、こっち!」
「お貴族様の用事は終わったのか?」
気楽な扱いをしてくれる仲間たちであり、ホッとする。5人に対して、準男爵に陞爵されたことを伝え、準備金も貰ったのでその中で今回の報酬もしっかりと払うし、ベラとフィロには賃金の増額をすると申し出る。
「何言っているんだよ。あらかじめ決めていた額で十分だ。アレも教えて貰ったしな。お前たちの頑張りのお陰で母国を救って貰えたんだし」
「私どもも、賃金以外に製作物や魔物素材などの売上の一部をいつも分けて頂いているので十分です」
「そんなことより、上段のテーブルから旨いものを魔法の袋に入れて持って来てくれよ。その魔法の腰袋、返す前にもうひと働きして貰わないと」
改めて仲間たちのありがたさを感じる。ローブをかぶって人との接触を避けていた昔には考えられない感情である。
その仲間たち。援軍で暇なときにレオはベラとフィロにすぐに使う≪火槍≫と≪上回復≫を教えたり、ベラたちと一緒にエルベルトたちから武技について指導されたりしていた。レオは片手剣の上級≪飛斬≫≪受流≫、体術の中級≪俊足≫、ベラとフィロは体術初級の≪回避≫≪肉体強化≫である。
お礼にエルベルトたちには、既に武技の習得で何となくは彼らも知っていたはずの魔力操作について、回復魔法を使っての指導を行い、空で無色透明になった魔石への魔力注入の訓練方法を教える。それにより武技の上達が早くなったり効果が増えたりするだろうと付け加えておく。
「おい、これって!」
「もちろん、部外秘な」
「……」




