ルングーザ公国軍の本陣
第3公子と第4公女の同腹兄妹による大将、副将の本陣に、第1公子が側近を連れて現れる。
第3公子たちは、戦場に到着するとなぜか既にコリピサ王国軍との戦闘が始まっていた経緯も分からないため、まずはそこを第4公女が問い詰める。
「フルジエロ兄上、コリピサ王国への迎撃は私たちが父上から承りましたものです。長兄といえども越権行為ではありませんか?」
「もちろん陛下のご指示に逆らったつもりはない。ガンドリア戦線にめどが付けば応援に、というご指示に従っただけだ」
「ガンドリア戦線の方は大丈夫ということですか?」
「あぁ、マルテッラたちが十分に頑張っているよ」
「分かりました。では、フルジエロ兄さまは、イレネリオ兄さまと私の傘下に合流ということでよろしいのでしょうか」
「そう思うのも当然であるが、追加の陛下のご指示がある」
第1公子の指示で側近が前に出る。
「公爵陛下からのご指示です。コリピサ王国の迎撃において、フルジエロ第1公子が戦線に到着した際には、王国騎士団を中心に軍を二分し、1軍はフルジエロ第1公子が大将として率いるものとし、残る1軍はイレネリオ第3公子が引き続き大将として率いること。各々が大将として采配を振るえば良いが、全体の総大将はフルジエロ第1公子が担うものとする」
指示を読み上げた後、側近は後ろに下がる。
「な!」
第4公女は言葉を失うが、第3公子は素直に拝命する。
「かしこまりました。では、どのように軍を割るかご指示ください。フルジエロ総大将」
「ふむ、後ほどイレネリオと2人だけで相談するとしよう」
公女は副将である自分を相談に入れて貰えないことに顔をしかめるが、何とか黙り込む。
フルジエロは、翌日早々にも攻め込む必要性を認識していたので、足の遅い歩兵は望まず、魔法使いも貴族たちの軍も要求せず、公国騎士団の騎兵だけ引き受けることにした。既に従っている公国騎士団メンバとの連携も確実に行えること、自身の指示に思い通りに動いてくれることも、速度以上に重要であるためである。
結果、第3公子の方に人数だけはたくさん残したことになるので、元の大将に遠慮したように見えなくもない。
その夜のうちに、第1公子配下に切り替わった公国騎士団のメンバを集めて作戦会議を行っているが、第4公女の配下が様子を見に行ってもかたい守りのため、情報漏洩はされることが無かった。
そして夜がうっすら明けるのと同時に、第1公子は昨日までよりも多くの騎兵によって、コリピサ王国に攻め込むのであった。
狙いは司令官ただ1人。コリピサ王国軍の今回の侵攻の背景を明確に語れる人物を捕虜にするためである。
第3公子や第4公女たちが、第1公子たちが出立したことの報告を受けたのは、既にコリピサ王国軍の陣営に攻め込んでいた後であった。第4公女は昨夜の人数割りの結果のみしか知らないため、功を焦った第1公子が少人数で突っ込んで行った、としか思っていなかった。
しかし、もともと農民たちで嵩増ししただけの張りぼてのような軍隊であり、いくら本陣といえども夜明けと同時の大量の騎兵による集中攻撃には対応できず、司令官を捉えられ、そのことを高らかに宣言されたコリピサ王国軍は総崩れとなる。第1公子の軍は、農民たち雑兵には目もくれず、指揮官たちだけを狙い撃ちにして、可能であれば捕縛、無理であれば戦闘不能にするよう追撃を行い、太陽が真上に来るどころか、朝霧が無くなった頃には、剣戟の音も聞こえない静かな草原に戻るのであった。
あっけにとられた第3公子たちの方の軍は放置し、第1公子はまたルンガルに側近を派遣することにする。前回と同じものを再度急使に仕立てると共に、何名かを残してコリピサ王国軍の司令官と指揮官の捕虜たちを、ルングーザ公国軍の誰とも接触させない程度の騎士団員と共にルンガルに連行させる。
その上で、第3公子に、今度はガンドリア王国への支援に戻るとだけ伝えて、昨日分割して増えたままの公国騎士団を率いて南に向かうのであった。
残された第3公子たちは、戦場に残ったコリピサ王国軍の輜重などを回収してルンガルに戻ることになった。結局、戦闘らしき戦闘はしないままの往復になる。
ガンドリア王国の戦線でも、夜襲などにより疲弊していたコリピサ王国軍は、まったく予想もしていなかった北方からの騎士団の奇襲になすすべもなく、兵力差を活かすことも無いまま敗退、コリピサ王国へ撤退して行くことになった。
そのまま南下してガンドリア王国軍や公女マルテッラたちと合流した第1公子は、その晩のみは戦勝を祝った後、ほとんどの軍を公女に預けて自分と一部だけすぐにルンガルに向かうのであった。この戦いの最後の仕上げをするためである。
残された公女マルテッラと騎士団長、魔術師団長は流石にガンドリア王国への手前もあり、コリピサ王国軍の敗走後の陣地からの戦利品の分配などを含めた残務処理なども行ってからルンガルに向かうこととなる。
第1公子としても残していく彼女たちにはこっそりとこの戦いの背景を共有し、ルンガルに戻ったときには騒動が起きているであることをあらかじめ伝えておかれたので、彼女たちはガンドリア王国との最後の交渉も少し上の空になってしまっていた。




