コリピサ王国の2面作戦2
翌日、ルングーザ公国軍は休んでいたのであるが、前夜の奇襲成功を聞いたガンドリア王国の血気盛んな一部メンバが同様のことを企む。レオたちが襲ったのがコリピサ王国にとっての最左翼であり、かれらは最右翼の小さな陣地を狙ったのである。しかし、一部の貴族による先走りであり、レオたちほどの魔法使いの数を揃えることができずほとんどが火矢程度の火力であったこと、前夜のことを踏まえて夜警を増やしていたことから、敵陣の混乱をそれほど大きくすることはできず、追撃も受けてしまっていた。
翌日の昼間はその怪我人の治療に駆り出されたレオたちは夜襲のための移動ができない。
しかしさらに翌日には、ガンドリア王国が夜襲に失敗した陣地に再度ルングーザ公国軍が夜襲をかけ、火力の違いを活かして成功させている。
「マルテッラ公女殿下、なかなかの成果ですな」
「マストリノ魔術師団長をはじめとする魔術師団の活躍が目立っているよな」
「いえ、魔術師団は人数だけであり、魔法の成果で言えばコグリモ騎士爵を含んだ公女直轄部隊が火力もあり一番かと。それに魔術師団が安心して攻撃できているのは、ジョディネ騎士団長をはじめとする騎士団の皆様が殿など防衛もして頂けるからであること、重々認識しておりますので手柄は均等に」
騎士団の中に魔術師団を妬む声があるのは聞こえてきているが、政治にかかわりたくないレオは、それらの会話には参加しないで静観している。
それに実際に、初日ほどの成果は無いが、何十人、上手く行けばそれの倍や3倍ほどの死者や戦闘不能者を生んでいると思われる。当然に回復魔法の使い手もそこまで多いわけでないのと、遠征先で自国でないので回復薬や治療道具もそこまで用意できていないと思われるため、単に死者のみを生むよりも敵の直接戦闘力を減らしている可能性は高い。
そのように何日かに1回だけであるが、ルングーザ公国は自軍に死者を出さないようにしながら、コリピサ王国に打撃を与えて行く。ガンドリア王国も初回の反省を踏まえて、魔法使いを可能な限り集め、火矢を使える者も増やした上で防衛のための騎士も増やして、ルングーザ公国ほどの少数精鋭ではないが、ときどきの夜襲を行っている。おかげでコリピサ王国の意識も分散されることになりルングーザ公国軍の夜襲がますます成功している。
コリピサ王国もいよいよ攻勢に出てこようとするが、ガンドリア王国軍の方はしっかりした砦であり防衛側が有利であるため、コリピサ王国の被害を増やすだけの結果になっている。
ガンドリア王国軍も最初の失敗を踏まえて、敵陣地を確保する等まではせずに適度な距離を確保することで優勢を維持している。
もともと彼我の戦力数の差はそれほど縮まるわけではないが、戦意の差は明らかである。ガンドリア王国軍の上層部としても、いつまでも軍を出していることにより経費がかかることに頭を悩ませており、できれば短期決戦に持ち込みたいが、そうすると砦の優位性も無くなり戦力差による被害が増えるので、この状態に甘んじているしかない。夜襲による嫌がらせで、コリピサ王国が撤退することを期待するしかない。
戦果が、もともと大将であったフルジエロ第1公子や騎士団の半分が減ったはずのルングーザ公国に偏っていることも悩みの種である。
一方、騎士団50騎とその従騎兵のみを引き連れて北上し、ルングーザ公国に侵攻したコリピサ王国軍へ向かったフルジエロ第1公子たち。
人数を揃えて公都ルンガルを出発したイレネリオ第3公子、タージニア第4公女たちのルングーザ公国軍より先にコリピサ王国軍に向き合うことになる。コリピサ王国軍はフルジエロたちを想定していないようで、警戒されていないためそのまま気づかれないように接近し、偵察部隊を送り込む。
コリピサ王国軍の人数は、ガンドリア王国に侵攻した者たちより多く見えるが、騎兵よりも歩兵の数の比率が多く、どちらかというと威嚇のために嵩増ししているかのような装備の貧相さもある。徴兵された農民たちなのであろうか、隊列も揃っていなく歩き方も気合いが入っているように見えない。
公子は子飼いの側近の一部を紛れ込ませて、司令官や指揮官たちへの給仕など会話が聞こえるところまで潜入させることで、今回の背景を知る。
「やはりな。となると、公城に先に送ったアイツの働きにますます期待だな」
第3公子たちの到着を待たずに、第1公子は少数精鋭を活かして、だらけて伸びきったコリピサ王国軍に奇襲をかける。当然、農民たちを蹴散らすことが目的ではなく、彼らでは守りにならないことを見越して、各隊の指揮官を狙うのである。精鋭の騎馬で一撃離脱を繰り返すことで、何人かの指揮官をしとめつつ、煌びやかな意匠ではあるが太っていて戦闘力は無さそうな貴族と思われる者も確保して連れ帰る。
「わしを誰だと思っている!」
お決まりの文句で自らの氏名や身分を名乗ってくれるので、捕虜として適当におだてながら、潜入で聞き出した背景の裏付けを確認しておく。
何度か繰り返すことで、コリピサ王国軍は既に何割かが混乱に陥った状態で、ルングーザ公国軍のイレネリオ第3公子たちの到着を迎えることになった。
第1公子も自国軍の大将である第3公子のところに顔を出しに行く。ルンガルに送った側近も合流に間に合って、一緒に第3公子のところに向かう。




