隣国の噂
レオたちが中級狩り場を探したり、魔法訓練をしたり、羊皮紙やスクロールの製作、魔法回復薬の改良などをしていると、フィロの9歳の誕生日になる。
先日レオが自分の誕生日のときに決めていたように、フィロの誕生日は大いに祝うことにした。
とは言うものの、共通の知り合いもそれほど居るわけでないので、見かけたエルベルトたち3人にも声をかけて6人で豪華な食事を取り寄せて、騎士爵としての屋敷の食堂で誕生日パーティーである。
レオからは、まず大量の羊皮紙とインクを渡して
「勉強を頑張るように」
と言ってからかった後、少し上等な髪飾りを渡す。
ベラとフィロは日ごろの生活においては黒ローブと黒仮面はしておらず、最近ではエルベルトたちの前でも普通の格好をしている。そのため、素の服装でさっそくその髪飾りを着けてはしゃぐ。
「レオ、ありがとう!お母さん、どう?似合う?」
「レオ様、お高いものではなかったのですか?本当に何から何までありがとうございます。去年の誕生日は、日々に追われていましたので……」
「ベラさん、俺たちなんて、今でもそんなものだよ」
「おいおい、カントリオ、お前たちベテランの銅級冒険者だろう?」
「そうは言ってもなぁ。俺たち魔法が使えるわけではないから、武器や防具も消耗が激しくて、結局のところあんまりお金もたまらないんだよなぁ」
「いやいや、夜の街でお金を使ってしまう方が主な理由だろう?」
「ははは、違いねぇ」
「お三方とも本当に仲良しで良いですわね。同郷なんですか?」
「あぁ、隣のガンドリア王国の出身だよ。コリピサ王国の侵略のお陰で口減らしが必要になった時に、3人で相談して自分たちから出てきたんだよ」
「それは……」
「あぁ、たまには土産を持って帰っているから、実家と仲が悪いわけでは無いよ。心配しないでね」
「それより、聞いたか?」
「?」
「そのコリピサ王国、この前はルングーザ公国への侵略に失敗したからか、今度はガンドリア王国にって噂があるぞ」
「レオ、騎士爵になったのだしそっちの方から聞いていないか?」
「いや。また公城に行ったときにそれとなく聞いてみるよ」
「もし本当なら、故郷に帰るか。それともレオが出陣になるなら一緒に行くから声をかけてくれよな」
フィロの誕生日祝いのはずが、すこしきな臭い話になってしまった。
レオはさっそく公女たちに聞いてみると、やはり事実のようで、コリピサ王国で軍備が進んでいるらしい。ついこの前に公国に攻めてきたところなのに、本当にひっきりなしに戦争し続けないとまずい内情があるのだと信じてしまう。
公城へ公国魔術師団への指導に行った際にも探りを入れてみると、やはり同様の話があるらしい。さらに団長にはここだけの話として教わる。
「実は、魔術師団に声がかかりそうなのです。公国はコリピサ王国と不仲である分、ガンドリア王国とは友好関係にあります。第1公子殿下のお陰で力をつけてきた公国よりも戦力不足なガンドリア王国に、友軍として支援する可能性があるのです。ただ援軍ですので、単に兵士をたくさん連れて行っても兵糧など兵站が大変であるので、少数精鋭が望ましいのです。騎士団と魔術師団のそれぞれから選抜されると考えています。」
「なぜそのような重要なお話を私に?」
「魔術師団がコグリモ騎士爵のお陰で少し力をつけてきたから、というのもありますが、そうなった際に一緒に行って頂くこともご検討頂きたいと思いまして。もちろん公女殿下ともご相談ください」
「私の立場は何で?」
「公女付きの冒険者でも、公女付きの騎士爵でも、魔術師団の外部指導員でも。従士の2人をどうされるかもお任せします」
「公女殿下も出陣の可能性が高いとお考えで?」
「公爵陛下と第1公子殿下はマルテッラ様の活躍の場を増やされようとされていると推察しますので」
屋敷に戻り、公女にその話をする。
「魔術師団としては完全にレオを取り込んでいると外向きにもアピールしたいのだな。私もそれに巻き込まれたと」
「断りましょうか?」
「いや、素直にその話に乗ってしまおう。騎士爵としてついてくるが良い。恥ずかしくない体制で、だぞ」
さっそくベラ、フィロ、そしてエルベルトたち3人にガンドリア王国への友軍としての出陣準備を伝える。エルベルトたちは、前回の参戦のことを踏まえて、自分達も馬を手配するという。レオにしても、自身を入れて6人の騎馬となれば、公女に念押しされた騎士爵としては恥ずかしくない体制と思えるので安心する。
従軍するのであれば、とレオたちは準備を行う。フィロは薬草をたくさん採取し、魔物の毛皮を確保、ベラはその毛皮で≪治癒≫スクロールを数多く制作して資金調達を行い、レオはその薬草で魔法回復薬のストックを潤沢にする。




