公女とレオの決意
レオは週に1回、公国魔術師団に赴くようになっている。1週は6日、火・風・水・土・光・闇の曜日であるので、6日に1回は行っていることになる。
最初はレオが習得済みの上級魔法の実演をしていたが、団員それぞれが未習得の属性の中級魔法の実演や指導も求められるようになった。とは言うものの、やはりプライドが邪魔をするのか、団員すべてが指導を求めてくるわけではない。もともと想定内なので、そのままにするように団長からも言われている。
その報酬として、レオは未習得であった風魔法の上級≪雷撃≫の魔導書の閲覧許可を貰う。冒険者に成る前の悪夢ではその魔導書を入手した後に死亡していたので、その日は屋敷に帰るまで緊張していたが無事に帰りつき、いつものように写本しながら習得した後は、威力を減らしてしびれるだけにすることも調整できるようになっている。
もちろん習得後には約束通り、その≪雷撃≫も団員への実演の対象にしている。
「さすがコグリモ騎士爵ですな。次はこの魔導書がおすすめです」
「これは?」
「空間魔法の中級≪結界≫です。これは魔法や物理攻撃を防ぐ物であり、魔法使い同士が戦うときには必須になる物です」
団員でも習得できているものは全員ではないが、知識としては全員が知っている物とのこと。
初級の≪簡易結界≫を習得済みであるので、何となくのイメージをつかみやすかったので習得は早かったが、今後の活躍が期待できる魔法であるため、発動時間を短縮したり、大きい空間を守れたりするように日々の重点練習対象にすることにした。
また、レオは別のところで新たな魔法の習得も行っていた。
公女の屋敷では魔道具で風呂も温かいお湯を用意されていたが、ベラたちと暮らす屋敷ではそんな贅沢はできない。水も井戸から汲むのが普通なのだが、そこは特にレオがいれば≪水生成≫で用意した水を、≪火球≫で熱してお湯にしていた。都度、2属性の魔法を順次発動していたのだが、複数魔法の同時発動として≪水生成≫と≪火球≫をやってみると意外と上手く行った。
そのことを天使グエンに話したとき、古代魔導書のあるページを示して≪熱湯≫という複合魔法のことを教えて貰った。これは水属性と火属性の複合魔法の初級≪熱湯≫であるらしく、レオが行った複数属性の同時発動を1つの魔法としてまとめたものとのこと。その解説や魔術語の意味を知ると、確かにほぼ同じ内容であり、すぐに習得することができた。
となると欲しくなったのは、温かい風を送ることで乾燥させるものである。複数魔法の同時発動として≪種火≫と≪そよ風≫をやってみると、規模は小さいながらに思っていたことが実現できた。その上で天使グエンに相談すると、やはり≪乾燥≫というほぼ同じ内容の複合魔法があることを教わる。これは回復薬の調合などにおいて素材を乾燥させる際に欲しいと思っていたのだが、洗濯した物を乾かすにも重宝するなど、活躍の場が多そうである。
≪熱湯≫も風呂の温度よりもっと熱くすれば使い方によっては攻撃魔法としても有効かもしれない。
こうしてレオが習得魔法を着実に増やしているなか、公女マルテッラも励んでいた。既に元々の家庭教師が指導できる範囲を超えてしまっているため、現在はほとんどレオが対応している。
「先日、お兄様、第1公子から話があったの。このまま魔法使いとして成長していくと、ますます嫁ぎ先の選択肢が無くなるが良いか、と」
「はぁ」
「つまらない反応ね。まぁ良いわ。お兄様には、もちろんもっと習得していくと宣言したわ。すると、魔術師団を率いるかと聞かれたけど、そんな面倒なことは断っておいたわ」
「それが勿体ないことなのか、私には何が良いのかわかりません」
「ま、そんなものよね。私は公女だから指示されたところに嫁ぐことになる覚悟はあったけれど、前みたいに力が無くて、なすすべもなく誘拐されるのは嫌なの。あのとき私のために死んだエルパーノやトニーのためにもね」
「それは私にもわかります。あのときに私の人生は変わりました」
「そうよね。もっと強くなるわよ」
「かしこまりました」
とは言うものの、さすがに公女の立場で自由は限られる。貴族たちからの挨拶や呼ばれたパーティーへの参加などにも時間がとられるので、訓練に当てられる時間は少ない。冒険者として魔物相手に訓練する機会も得られないのもあり、どうしてもレオと差がついて行くことに不満が溜まる公女ではあった。
レオはベラとフィロのためでもあったつまずきやすいところへの追記などを行う自作魔導書について、公国魔術師団員や公女への指導で気付いたことも手直しをして行く。原本は公女の屋敷の自室に置いておきながら、ベラとフィロに1冊預けているだけでなく、不満の公女にも暇があれば読み込むように1冊渡すことにした。内容を見た公女に最初は驚かれたが、まぁレオならばとなぜか納得されてしまった。
あわせて、古代魔導書や自作の辞書と字典も含めた他の魔導書も、公女の屋敷の自室が原本の保管場所ではあるが、万が一のための写本は騎士爵としての屋敷の自室にも置くようになった。




