中級の狩り場
レオはときどき公女や公国魔術師団への魔法指導を行うようになったが、ベラとフィロは特に冒険以外に用事は無い。レオが不在のときでも薬草の採取、低ランクの魔物の狩りには2人でも特に危なげなく行けるだけでなく、冒険者ギルドで有償訓練を行ったりしている。直近では盾の中級武技≪盾叩≫を習得した。
また、経済的に余力ができたので、狩った角兎ホーンラビットの肉などを手土産に、スラム街でお世話になった人たちのところに顔を出したりしている。スラム街を出るときに騒動があったので、本当はレオには自分が一緒のときしか行かないようにと言われていたが、忙しいレオの手間を取るのも申し訳ないというベラの気持ちからである。
他の用事のあるレオに代わって、神殿に魔法回復薬の納品に行くことや、安いときの薬瓶の仕入れ、屋敷の掃除や馬たちのお世話もしている。
それでもスラム街で暮らしていたときに比べて、時間的にも経済的にも生活に余裕がでている。特に食事が十分とれるようになり体も動かすようになったからか、成長期が来たからか、フィロの身長が伸びていることを感じるようになったことを母親としてベラは喜んでいる。精神的にはまだまだ子供なのを悩んでいるが。
レオも揃って冒険者ギルドに行ったある日、数少ない友人であるエルベルトたち3人組と顔を合わせる。
「お、真っ黒3人、元気か?」
「なんだ、そんな呼び方?」
「知らなかったのかい?真っ黒なレオが、真っ黒な姉妹と行動するようになったから、真っ黒3人って呼ばれているぞ。二つ名というほどの物ではないがな」
「そうか……」
「まぁ仕方ないですよね、昼間では目立つ真っ黒ですし」
「ベラたちもやめたい?」
「いえ、絶対やめたいわけでは……」
「……」
「そうだ、エルベルトたちに聞きたかったんだ」
「なんだ?改まって?」
「鉄級や銅級の冒険者はどこに狩りに行っているんだ?」
「おい、こんなところで堂々と聞くか?皆それぞれのノウハウと思っているだろうに」
「そうか、すまない」
じゃあ、と個室のとれる食堂に移動して話の続きをすることになった。
「そんなこと言っても、レオはどこで狩りをしているんだ?」
草原のEランク角兎ホーンラビット、南の森でEランクのゴブリン、魔の森でDランクのオークと来ていたが、その先に悩んでいることを告げる。できれば日帰りでCランク魔物の狩りをしたい。
「そうか。俺たちは野営も訓練と思って、魔の森のさらに奥のハイオークでも練習していたな」
「それだと荷馬車も森には入れて行けないし、肉が勿体ないだろう?」
「そう、そうなんだよ。魔法の袋でもあればな。ただ諦めていたな。優先順位を考えて」
「やっぱり……」
「それがな、最近は良いところを見つけたんだ。前に一緒にダンジョンに北の山に行っただろう?その山の西側、魔の森との境目を少し行ったあたりがちょうどCランク魔物でな。ロック鳥、岩亀ロックタートル、牙虎サーベルタイガーなどだな」
「そう、そこならば馬でも行けるし、道を選べば馬車も行けるかもな」
「内緒だぞ。まぁレオたちならば、今日のここの食事を奢ってくれるだけで良いけどな」
「良いのか?ありがとう!」
さっそく3人で、まずは馬で行ってみる。彼らの話の通り馬車でも進めそうな道もあるにはある。
最初に現れたのがロック鳥、巨大な白い鳥であり、通常武器での攻撃は難しく、レオの≪火槍≫で何とか倒せたがベラとフィロの≪火球≫程度では難しいと認識する。空を自由に飛ぶ魔物への攻撃が難しいことを実感する。
その後に現れた岩亀ロックタートルは、ベラたちの短槍ショートスピアを上手く用いてひっくり返すことができたときには、弱点である腹部への攻撃が楽になるが、それまでは硬い甲羅に苦労する。
牙虎サーベルタイガーは、冒険譚にもよく出てくることからレオの冒険者に成る直前の悪夢でも見たトラウマがあるが、他の2種に比べると、長い牙や突進力などCランク魔物らしい脅威はあるものの、まだ素直ではあった。
とは言うものの、上級攻撃魔法をいくつか習得しているレオと違い、初級攻撃魔法までのベラとフィロには、魔法ではなく武器、しかも今回はまだ習得して間が無い短槍ショートスピアの中級武技が攻撃の中心となったので、苦労する場面が多かった。少々の怪我はそれぞれの回復魔法で何とかなるので、命の危険まではならなかったが、習熟不足を認識する機会となった。ベラとフィロが銅級冒険者に昇格するにはこれらCランク魔物を1対1で倒すのと同等の力が必要になる。
逆に考えれば、ベラとフィロの成長の良い訓練場所になると考え、しばらくはここに日帰りで通うことにする。せっかくの狩りの成果もしっかり持ち帰るために荷馬車も引いてくることにする。
悔しかったのか、特にフィロがやる気を出して、もっと強い攻撃魔法を学びたいと言い出したので、拠点に戻ってから2人に≪火炎≫と≪氷刃≫を指導する。フィロは≪種火≫≪火球≫より強い炎になる≪火炎≫はイメージしやすかったようであるが、≪氷刃≫は氷やそれを刃の形にイメージするのは難しかったようで、何度も見本をみせて指導した。




