公国魔術師団
先日、魔術師団長に技術交流の相談を、と言われていたレオは、公女とも相談し、公国魔術師団を訪れることにする。公女も、もちろん付いて行くという。
団長への公女の発言、レオナルドとレオ・ダンは別人であるという念押しから、黒ローブと黒仮面でのレオ・ダン・コグリモ騎士爵として、公女から団長の意図を聞いたという振りをすることになる。
仕方ないので、黒ローブで公女の屋敷を訪れて、公女と一緒の馬車に乗り公城に向かう。公国魔術師団の拠点は公城の中にあるからである。
「これは公女殿下、そしてコグリモ騎士爵、ようこそ公国魔術師団へ」
「お招きいただき光栄でございます」
「まずは施設のご案内をさせて頂きます。公女殿下も初めてかと思いますのでご一緒にいかがでしょうか」
「もちろん拝見するわ」
公女の屋敷から団員に案内されて来るときに気付いていたが、魔術師団の拠点はそれほど大きくない。その比較対象が公国騎士団であり、彼らは騎馬での集団訓練もあるのと、さらに団員数が段違いであるからである。
「そう、そもそも魔法使いが1,000人に1人と言われるなか、戦闘に使える魔法まで使える者の母数が少ないのです。さらに優秀な者は、稼ぎの良い冒険者などの方に流れるので、公国魔術師団には冒険者を引退した者や、跡継ぎの目が無い貴族の三男や四男が多くなります。あ、公女殿下、決して公国批判ではなく現実を申し上げているだけですので」
「分かっています……」
「大国では魔術学校などをつくり、成人前で魔法が使える者を育てる営みもしていると聞き及びますが、この近辺の国々では同様な程度と聞きます」
団長はレオの方に向き直り姿勢を正して話し出す。
「そこで、コグリモ騎士爵。若くして上級魔法を習得された貴殿は、騎士爵として公国に属することになられた。公国のために、公国魔術師団の発展にご協力いただけないでしょうか」
「魔術師団に入るように、ということでしょうか」
公女の方をチラリと見た上で返事をされる。
「いえ、それは本業もあり難しいでしょうから、たまに来訪されて指導を頂くだけで結構です」
「外部の若僧の指導を素直に聞いて貰えるでしょうか?」
「はい、全員は難しいと思います。ただ、成長したいと望んでいる者も少なくないと信じ、上に立つものとして機会を与えたいと思っています」
「失礼ながら私が得られる物は何になるのでしょうか?」
「公国魔術師団には市井には無い書籍という宝があります。魔導書そのものだけでなく、魔術語の辞書や字典もです。禁忌の物もありますので、それらを除いた物への閲覧権限はいかがでしょうか。持ち出しはできませんが、図書室でご覧いただくだけでも」
「破格なお申し出ですが、逆に指導への要求が恐ろしいのですが」
「新たに得られた知見、魔法についてを団員への指導の糧にしてください。それが条件です」
公女は頷いているので、レオも受諾の旨を回答する。
では早速、と図書室に案内されると、冒険者ギルドの魔術師委員会の本棚とは比べられないだけの書籍があった。
団長としてもむやみやたらと閲覧許可は出せないということで、しばらくは辞書と字典だけと限定された。レオからの団員への指導が進むのに合わせて、閲覧対象を増やしていくとのことである。まずは厚みの薄い辞書と字典を1冊ずつ手渡される。レオは記憶できる程度に1枚ずつページをめくり眺めて行く。
「いかがですか?興味を持たれたかと思いますが」
「はい。読み進めるのが非常に楽しみです」
古代語でもある魔術語は、魔法の所作、現象、効果などを表現する文字や言葉が豊富であり、例えば、一般人が雑草としか表現できない草花を学者は一つ一つ区別して呼べるように、または一般人が色に対してあまり語彙が無いものを専門家は様々に名前を使って区別しているように、である。だから、正しく魔導書を読み解くには魔術語の辞書や字典が重要である。レオは入手済みの古代魔導書の解読が進むことへの期待が膨らむ。
さらに上級以上の魔法の魔導書もきっといくつもあると想定されるので、そちらにも期待がある。
その後は魔法訓練所に移動し、あらかじめ団長が集めていた、若くて意欲のあると思われる者たちの前で、上級魔法の実演を求められる。
レオは今後の閲覧対象が増えることも期待して、≪火槍≫だけでなく先日習得した≪氷槍≫≪岩槍≫も見せる。
「さすがですね。上級以上は習得者が少ないため、後進者がイメージすることもできなく余計に育ちにくいという悪循環があります。コグリモ騎士爵が、図書室で得られた魔法を実演して貰うだけでも団員の育成には効果が期待できます」
団員に向かって
「今日から指導をしてくださるコグリモ騎士爵である。数少ない上級魔法の習得者である。真っ黒な風体に惑わされず、色々と教わるように」
と紹介されるので、挨拶をしておく。
変なプライドが邪魔をしないメンバを集めたのか、次々と質問をされたり再度の実演を求められたり、上手く行かないところへの指導を求められたりした。もちろんレオ自身が分からないこともあるのだが、そのことを変に隠さずに素直にその旨を答えたのが好印象だったのか、団員たちへの受けは良かった。
帰り際に、公国魔術師団の外部指導員と記された身分証明書を渡され、今後はこれを用いて通行するように、と言われる。




