公女の魔法訓練
レオは騎士爵になり拠点を構えて、ベラとフィロとの冒険活動に明け暮れていたところ、公女から呼び出される。
「そろそろ落ち着いたでしょう?私の魔法訓練にも付き合いなさい」
機嫌も悪そうである。確かにしばらく公女の訓練に付き合っていなく、公女の屋敷に帰らない日も増えていた。
「この前、刺されたときも、その後も戦いの役に立たなかったから、私も頑張りたいの」
「公女様が自ら、でなくても良いとは思うのですが……」
公女の顔が怖いため否定してはいけないようである。
「かしこまりました。ご協力させて頂きます」
否応なく公女の魔法訓練に付き合うことになったレオは、現状の確認から行う。最近は冒険者業にかまけて、公女の家庭教師の指導へも護衛として参加していなかったからである。
前にレオが認識していたのは、回復魔法では中級≪回復≫が発動するぐらい、水魔法では中級≪氷刃≫が氷の生成まで、火魔法では上級≪火槍≫の練習開始、風魔法は初級≪風刃≫の練習中、土魔法が中級≪土壁≫で土の生成まで、であった。
≪回復≫は先日の前線での治療所でもある程度できるように成長していることは確認済みなため、他の魔法を発動して貰うと、≪氷刃≫はレオの半分ぐらいの大きさではあるが刃の生成まで、≪火槍≫はまだ槍の形づくりに苦労、≪風刃≫は≪氷刃≫でイメージができたおかげか習得し≪風盾≫を練習開始、≪土壁≫も小さいながらそれっぽい形になっていた。
「流石でございます。かなり速いペースでの成長かと存じます。続いて私が見本を行いますので、イメージをよくご確認ください」
≪氷刃≫や≪土壁≫では大きさ以外はできていたので、大きさの見本を。≪火槍≫は形に苦労していたので、投擲はしないで発現するところまでで、公女にじっくり見て貰う。
「何となくわかって来たわ」
≪火槍≫もレオの見本を横に見ながら、小さいながらにも形ができるようになる。
その勢いのまま、≪風盾≫も見本をみせるが、見えにくいため地面から拾った砂っぽい物を投げかけて貰い、動きを理解して貰う。その上で、だんだんと大きな木や小石への動きも見て貰い、イメージを認識して貰う。すぐにそれっぽい発動にまではならないが、やろうとしていることは理解されているようで、また自主練習や家庭教師に指導して貰うことを期待する。
また、空の魔石に魔力を注入する訓練は継続していたようで、その効果か、以前よりも多くの魔法の発動ができるように魔力が増加しているように感じる。練習回数が増やせるので、ますます習得が早くなると期待できる。
公女の成長を理由に上級魔法の魔導書を見る機会が来るのではないかと、レオは期待し、公女にお願いをする。
「ぜひとも、≪回復≫≪氷刃≫≪土壁≫の次の魔導書を入手してくださいませ」
本当の目的が明らかで苦笑いをしながら、公女も自身が成長するきっかけにするため、手配を検討する。
それから数日、公女の家庭教師が来る日にレオも護衛として参加するように指示される。久しぶりであるが、上級の魔導書を見られる機会になるかもと期待し、公女と共に家庭教師が待つはずの部屋に入る。
「公女殿下、ご無沙汰しております」
「あら、公国魔術師団長。どうしたのかしら?」
「殿下の家庭教師をしております団員が、上位の魔導書の持ち出し申請をして来たので理由を確認すると、殿下の成長が著しいとのこと。ぜひ拝見できたらと同行させて頂きました」
「あら、団長自らですか?」
「そちらに、先日の戦争で活躍して騎士爵に叙爵された、将来有望な方もいらっしゃいますので、魔術師団への勧誘も兼ねまして」
「何のことかしら。叙爵は冒険者のレオ・ダン・コグリモのことで、これは私の使用人で護衛のレオナルドよ」
「はぁ、そういうことですか。では本日は殿下の習得度合いの拝見だけに」
公女マルテッラの≪回復≫≪氷刃≫≪火槍≫≪風盾≫≪土壁≫の習得状況を見た団長が驚くだけでなく、家庭教師も前回からの成長に驚く。
「なるほど。殿下が公爵家の方でなければ団員になって頂きたいところでした。では、これらがご要望の魔導書になりますが、実演で見本を指導できる者は限られますこと、ご容赦ください。まずはご自身で読み込んでの練習をお願いします」
回復魔法の上級≪上回復≫、水魔法の上級≪氷槍≫、土魔法の上級≪岩槍≫の3冊である。いずれも解説が現代語で書かれているため、自学自習できそうである。
帰り際に団長は、レオの顔を見た後に公女に向かって話しかける。
「冒険者のレオ・ダン・コグリモ騎士爵にお伝え頂けますか?公国魔術師団員になるのが難しくても、上級魔法が使える者同士の互いにメリットのある技術交流を相談したいと」
「機会があれば伝えるわね」
「それで結構でございます」
団長や家庭教師が去った後は、まずレオが3冊の魔導書を読ませて貰う。≪上回復≫については天使グエンに貰った物の方が丁寧であったが、それ以外の2つもそれなりに丁寧な現代語での解説付きであり、≪火槍≫の延長として、≪氷槍≫≪岩槍≫はそれなりに早く習得できたので、公女にも実演で見せながら、魔導書の内容を解説することになった。
もちろん、羊皮紙に写本は作成すると共に、自作魔導書のページ追加も行ってある。




