従士と住居
登城して官僚に家名と紋章の届け出をしたところ、珍しかったのか重複は無いとのことですぐに受理された。これからは、黒づくめのときにはレオ・ダン・コグリモとなる。
また、今後の連絡先を問われたが、公女の屋敷というわけにもいかないので、冒険者ギルドと答えると、年金と同額の支度金を渡したのだから、早く拠点を固めるようにと苦言を呈される。
公女からも、次は住居と従士ね、と面白がって催促される。家名のときと同様に執事に相談すると、いろいろと秘密があるので、できれば命令に逆らえない犯罪奴隷を購入することも、とアドバイスをされる。
奴隷には3種類、犯罪奴隷、借金奴隷、戦争奴隷があるらしい。犯罪奴隷は、盗賊など死刑にしても良い犯罪者を奴隷にして、鉱山など危険な作業に従事させることができるものである。借金奴隷は、借金を返せなくなった場合に拘束するためのもので、返済までの期間限定の奴隷であり、性的なことや命に危険があることは命令できない。戦争奴隷は、戦争で捕虜になったが身代金が払われない場合になり、命令できる範囲は犯罪奴隷と借金奴隷の中間とのこと。
奴隷商など恐ろしいところと思っていたので、仮面を外した使用人としてのレオナルドを、執事が連れて行ってくれる。公女の執事であることが知れ渡っているため、
「先日のこともあったので、たくましい奴隷でも品定めに」
という名目である。しかし、犯罪奴隷は基本的にそれだけ重い罪を犯した者であり当然に粗暴な者たちばかりなため、レオが怖がったのを執事は見て、
「残念ながら品が合いませんね」
と店を後にする。公女の屋敷で購入する意味だけでなく、レオの従士としても、である。
奴隷のことは保留にして、先日これからのことについてちゃんと話ができなかったベラとフィロのところに足を運んでみるが、フィロはいつも通り迎えてくれても、ベラはぎこちない。
「スラム街を出ること、考えて貰えたかな?」
「今だけはレオ様のお陰で不相応な貨幣を稼がせて頂いておりますが、例えばフィロが成人するまではどうでしょうか」
「じゃあ後7年、毎年いくらあれば良いの?」
「公都の一般人の年間収入は金貨3枚ほどと言われますので、それだけあれば親子2人、十分に生きて行けるかと。ただスラム街では家賃なども低いのでそんな大金が無くても生きていけますので、なかなか出て行くことはできないのです」
「じゃあ金貨3枚で2人を雇用するからスラム街を出ない?」
「え!?そんな価値は私たちにはありません!」
「レオは一緒に暮らすの?」
「そうだね。俺自身は、毎晩は泊れないと思うけど、冒険者の拠点としては一緒にするのはどうかな?」
「やったー!お母さん、そうしようよ」
「そんな勿体なすぎて……」
「じゃあ、家を探しに行こうか」
ベラは嫌がっているわけではないようなので、少しだけ強引にフィロと一緒に真っ黒3人で拠点探しをすることにした。
どうせ家を構えるならば、騎士爵の立場的にも冒険者としても馬を飼いたいし、薬の調合を行う作業場所も欲しい。また、公女の屋敷に仮面を外して戻る自分は、ベラとフィロとは別の住居棟にしておいて、出入口が複数欲しい。
住居を探す当てなどない3人には、まずは冒険者ギルドの受付に相談に行く。すると期待通り、宿暮らしを卒業しようとする中堅冒険者のために住居の斡旋もしているとのこと。
馬小屋、場合によっては馬車小屋も付いていて男女で別の棟にする冒険者パーティー用の住居は何軒かストックされていた。
ギルドの紹介としてそれぞれ見せて貰ったが、貴族街に近い方の裕福街でかなり高額な広い屋敷、少し値段は高いが商店街の中にあって店舗にも使える物件、一般住宅街でも裕福街に近い物件、スラム街と隣接するエリアで安い物件、いろいろとあったが、結局は一般街とスラム街近くの2物件を候補にすることにした。
ベラたちは経費がもったいないからとスラム街近くだが少し広めの物件を提案していたが、出入口が通りに面した1ヶ所にしかなく、もう一つの一般街の方は角敷地のため南と北西の2ヶ所に出入口があったので、治安面を理由に一般街の方を強引に採用することにした。月に銀貨25枚、年間で金貨3枚であり、当然に一般人では支払えない家賃のため治安は期待できるはずである。
また、そういう屋敷であったため、南門から入って右手の馬小屋は普通の馬車もおけるようになっていた上に、母屋以外に隠居家族用なのか二世帯用として離れが北東に存在していた。敷地の西部にある母屋には食堂や作業ができる広い部屋もあり、その母屋の北西に裏口のように出入口があった。元は出入り業者用なのであろうか。
上手いこと、主人であるレオ様が母屋に、とスラム街脱出を観念した模様のベラが申し出てくれたおかげで、北西の裏口もレオが使いやすくなる。
またベラからは、こんな立派な屋敷まで用意される住み込みならば雇用額はベラとフィロ2人で金貨2枚に減らすように、と約束させられる。
これで、魔法を使える従士が2名と住居を確保できるということで、公女と執事に報告したところ、公女は不満そうではあったが了承はしてくれた。やはり武器をしっかり扱える犯罪奴隷が良かったのであろうか。まぁ、ベラたちにも戦闘力をさらに向上して貰うことで、公女の期待に応えられるようにしたいと思う。
ベラたちの引っ越しに合わせて、知識・魔法の女神ミネルバと天使グエンの祠を注文して屋敷に備えるようにしたり、薬研などの調合のための設備も発注したり、一国一城の主とでもいうのか、レオはかなり高揚した気分になっていた。




